IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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のほほんとした空気が一変したな


更衣室での一幕

 護衛として精を出している本音ではあるが、やはりどこか気の抜けた雰囲気がぬぐえないのは、彼女が纏っている空気の所為だろうか。簪との訓練を終えた本音は、シャワー室でウトウトと舟をこいで簪に心配をかけていた。

 

「本音、眠いのは分かるけど、シャワーを浴びながら寝るのは止めて。危ないでしょ」

 

「寝てないよ~……ちょっとお花畑が見えただけだよ~」

 

「死にかけてるじゃない!?」

 

「大丈夫大丈夫……私はこれくらいじゃ――」

 

「本音?」

 

「グー……」

 

「寝るな!」

 

「ほえっ!?」

 

 

 簪に耳元で叫ばれ、さすがに目が覚めた本音は、慌ててシャワーを止めてバスタオルを身体に纏って更衣室へ移動する。幾ら男子がいないからといって、全裸で動き回るのはさすがの本音でも躊躇われるのだろう。

 

「それで、何の話だっけ?」

 

「修学旅行の話。本音は何処に行くことになってるの?」

 

「私は部屋でのんびりしてたかったんだけど、おりむ~たちが許してくれなくてね~。京都市内をぶらぶらする事になってるはず~」

 

「千冬と箒がいるなら、観光名所に行こうって事にはならないだろうね……」

 

「かんちゃんだって、人が多い所に行きたくないでしょ?」

 

「うん……」

 

 

 大勢人がいる場所が苦手で、何より外には男性がいるのだ。あまり異性への抗体がない簪も、本音同様部屋でのんびりしていたかったのだった。

 

「おりむ~やシノノンが動けば、それだけ危険が増すからって、ホテルからあまり離れないようにしたんだってさ」

 

「他の候補生たちも似たようなものだろうけど、あの二人は格段に危ないもんね……」

 

 

 専用機持ちである他の候補生も狙われる可能性は十分にあるのは、簪や本音にも理解出来るが、あの二人が特別危ないという事が、本音には理解出来ていなかった。

 

「あの二人より、現役の日本代表候補生のかんちゃんの方が狙われるんじゃないの~?」

 

「あの二人の専用機は、篠ノ之博士が一から全て作りあげた第四世代のISだよ。産業スパイが狙うならそっちに決まってるでしょうが」

 

「そういえばそうだったね~。最近あの二人がISを動かしてるところを見てなかったから、すっかり忘れてたよ~」

 

「笑い事じゃないでしょうが……」

 

 

 授業などで動かしてるはずなのに、何故本音は見ていないのだろうかと、簪はその事が気にかかった。

 

「というか、早く服を着なよ……何時までもそんな恰好だと風邪ひくよ?」

 

「ずっとシャワーを浴びてたから逆上せたのだ~……もう少しこのままで」

 

「だらしないよ? そんな姿を虚さんに見られたら、怒られるだけじゃ済まないと思うし……」

 

「おね~ちゃんがここに来る確率はかなり低いから、気にしなくても良いと思うけど」

 

 

 本音がそう宣言したのと同時に、更衣室の扉が開かれた。二人が同時に振り返ると、そこには楯無と虚の姿があり、本音は慌てて下着をつけ制服を着た――裏表反対で。

 

「……本音、さすがにそのドジは無いと思う」

 

「子供じゃないんだから、ちゃんと服くらい着なさいよね」

 

「ごめんなさ~い」

 

 

 簪と楯無に怒られ、本音は恥ずかしそうに裏表を直して制服を着直す。その光景を、虚は頭を抑えながら眺めていた。

 

「それで、こんなところに何か用?」

 

「ちょっと人には聞かれたくない話をするから、一夏先輩に二人の居場所を探してもらったのよ」

 

「聞かれたくない話って?」

 

 

 一夏なら自分たちの居場所を突き止められるだろうと、その事へのツッコミは入れずに、簪はすぐに本題に入った。楯無は少し不服そうだったが、すぐに表情を改めて用件を告げる。

 

「今度の修学旅行、亡国機業に狙われる確率が高いのは知ってるわよね?」

 

「まぁ、戦力が分散してるわけだし、どっちを襲えば利益が高いかを考えれば、私たちが狙われる可能性が高いのは分かる」

 

 

 IS学園に残っている専用機持ちより、京都へ向かう生徒の中の方が専用機持ちが多い。かつ一年という事で戦力もそこまでではないので、襲うなら断然一年の方を狙うだろう――普通に考えれば。だが京都には一夏も同行するので、IS学園が狙われる可能性もゼロではないのだ。

 

「こっちは私や虚ちゃんがいるからいざという時は何とかなるだろうけど、さすがに京都まで飛んでいくわけにはいかないものね」

 

「何が言いたいの?」

 

「だから、護衛としてナターシャさんを雇ったの。京都では彼女が簪ちゃんの護衛を務めてくれるから」

 

「私は?」

 

「もちろん、本音が主の護衛で、ナターシャさんはそのフォローよ。だから、決して気を抜かないように」

 

「は、はい!」

 

 

 何時もとは違う雰囲気で念を押されたので、本音もさすがに背筋を伸ばして楯無の言葉に応えた。何時もの言葉だけで気持ちが篭っていない返事ではない事を感じ取り、楯無は満足そうにうなずいたのだった。




さすがにご当主直々に命じられたらしっかりするのな……

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