IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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何とも情けない頼み方だなぁ……


ナターシャへの依頼

 楯無と虚は、ナターシャに簪の護衛を依頼すべく、束が作り出した別空間を訪れた。

 

「あら、二人揃って何か用かしら」

 

「ナターシャ・ファイルスさん。貴女に折り入ってお願いしたい事があります」

 

「何かしら? 正式にIS学園で働け、なんて要請なら受けられないわよ」

 

「そうではありません。今回はIS学園生徒会長としてではなく、暗部組織の当主としてのお願いです」

 

「穏やかではないわね」

 

 

 楯無が纏っている空気を感じ取ったナターシャが、浮かべていた笑みを消して真顔に切り替える。もちろん、楯無も虚もナターシャの空気が変わった程度で驚いたりもしないし、その圧に呑み込まれることも無い。

 

「貴女のその警戒心と、実力を評価してお願いします。どうか簪ちゃんの護衛として、一緒に京都へ行ってもらえないでしょうか」

 

「京都? 京都ってあの京都よね?」

 

「ナターシャさんが他の京都を知っているのかどうかは分かりませんが、私たちが言っているのは日本の京都です」

 

「えぇ、私が思い描いたのもその京都よ。でも何で私が? 貴女の家の人間に頼めば――」

 

「残念な事に、現状我が家の人間で簪様の護衛として割ける人員はいないのです」

 

「一夏に頼むのは? 一夏なら教師だし、わざわざ私みたいな部外者に頼まなくても――」

 

「織斑先生は教師ですから。一生徒だけに注意を向けているわけにはいきません」

 

「じゃあこの間あった女の人は? あの人は確か、貴女たちの味方よね?」

 

「もちろん、碧さんにも京都には行ってもらいます。ですが、あまり公に顔を出せない人ですから」

 

 

 碧は裏社会に生きる人間だ。人目が何処にあるか分からないのに、おおっぴろげに簪の護衛を頼むわけにはいかない。もしそうじゃなければ、ナターシャに依頼する事はしなかっただろう。

 

「それで暇そうにしてる私に話が回ってきたわけか……もちろん、報酬は出るのよね?」

 

「京都までの往復の交通費と宿泊費、食事代は当然出しますし、働き次第では相応の報酬は用意します」

 

「領収書は?」

 

「もちろん貰っておいてください」

 

「宛名は? 上で良いの?」

 

「よく知ってますね。とりあえずそれで構いません」

 

 

 当面は一夏が代替してくれるから、一夏宛でも良いのだが、そんな事を言えばナターシャに不審がられてしまうと判断して、宛名は上で構わないと告げる。

 

「分かっているとは思いますが、必要性が感じられない領収書は受け取りかねますので」

 

「それくらい理解してるわよ。それに、私だって一夏にお小遣いをもらってるんだから、食べ歩きくらい出来るくらいのお金は持ってるわよ」

 

「一夏先輩から? 生活費とかじゃなくてですか?」

 

「この空間って、エネルギーも勝手に生産されてるようだから、殆どお金を使わないのよね。精々食費くらい。だから生活費というよりお小遣いって表現の方がしっくりくるのよ」

 

「そういう事ですか」

 

 

 ナターシャの言い分に納得がいったので、楯無はそれ以上その事を尋ねる事はしなかった。

 

「それで出発日は? 準備なんかもあるから、早めに教えてもらえると助かるんだけど」

 

「出発日は来週、敵は亡国機業です」

 

「あぁ、あの連中ね……護衛と言っても、私以外にもいるんでしょ? 私はあくまでも、敵に見つかっていい護衛って事よね?」

 

「見つかってしまうのは問題ですが、だからと言って大袈裟に隠れる必要はありません。あくまでも側近に安心してもらうための護衛ですから」

 

「どういう意味よ?」

 

 

 虚の表現の意図がイマイチ理解出来なくて、ナターシャは首を傾げながら問いかける。

 

「私の妹が簪様の側近なのですが、あの子一人ではイマイチ簪様が安心出来ないという事ですので、ナターシャさんに妹のフォローはしっかりいるという事を簪様に理解していただくための護衛だと思ってください。もちろん、何かあればナターシャさんにも動いていただく事になるでしょうが、基本的には簪お嬢様を見守ってくださればそれで十分です」

 

「戦闘になってくれた方が、私も運動不足を解消出来て良いんだけど、護衛として考えるなら、なにも無く終わってくれた方が良いってわけね。分かったわ、護衛の任、謹んでお受けいたします」

 

「交渉成立ね。それじゃあこれ、京都行きの新幹線のチケットと、予約しておいたホテルの詳細です。一夏先輩にはナターシャさんの同行は伝えてありますが、他の人には教えてませんので」

 

「準備が良いわね。私が断ったらどうするつもりだったの?」

 

「その時は、私が京都へ行きましたよ。せっかく予約したのにもったいないじゃないですか」

 

「そう言ってお嬢様は、仕事をサボりたかっただけでしょ。とにかく、簪様の件、お願い致します」

 

「はいはい、怪我をさせないようには動いてあげるわよ。もちろん、他の生徒たちにまでは気を配れないけど」

 

「一夏先輩が何とかしてくれますよ、きっと」

 

 

 楯無の言葉に、ナターシャは思わず納得してしまった。確かに一夏なら、全員を守るだけの力があり、それを実行してくれるだろうという信頼もあるのだ。だから楯無の言葉にツッコミを入れる事無く、彼女はそれで会話を終わらせたのだった。




最終的には一夏任せな楯無……

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