IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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謝った事なかったんだろうな……


悩むセシリア

 セシリアは部屋のシャワールームで先ほどの決闘を思い出していた。IS素人と舐めてかかっていたからと反省する点もあるが、それ以上に篠ノ之箒、織斑千冬両名の実力は驚かせるものがあったのだ。

 

「(さすがは織斑一夏、篠ノ之束の身内、という事なのでしょうか……結果的には私が勝ちましたが、勝ちを譲られた気分ですわ……)」

 

 

 箒は自爆、千冬からは最初から勝とうという気概が感じられなかった。あの試合に勝ったからと言って、自分の実力が証明されたわけでもなく、むしろ自分の未熟さを突き付けられた気分になっていたのだ。

 

「(勝っても負けてもクラス代表には内定したわけですし、モチベーションが上がらなかったのも確かにありますが、私は最初から負けるはずが無いと決めつけていましたわ……相手がどれだけ練習してきたとしても、代表候補生の私に敵うはずがないと決めつけていた……その事を織斑一夏は見通し、あんなことを言ったのではないのかしら?)」

 

 

 一夏に言われた「クラスメイトに何と思われようと」という言葉が、今更ながらにセシリアの心に突き刺さる。彼女はクラスメイトの評価など興味なかったのだが、そういうところから自分の評価が変わっていくのではないかと、今更ながらに考えるようになったのだ。

 

「(私は世間の評価しか気にしていなかった……クラスメイトもその「世間」の一部だというのに……必要以上に自分を偉く見せようとして、相手を貶していたのかもしれませんわね)」

 

 

 千冬や箒をIS素人と罵った事を反省し、頭を下げるべきだと考えたセシリアは、慌てて身体を拭いて服を纏い、まともに髪を乾かす事もせずに部屋から飛び出した。今までにない行動にルームメイトは驚いたが、セシリアはそんなことを気にしている暇はなかった。

 

「(一刻も早くお二人に謝らないと……)」

 

 

 認めてほしい人だけに認められればそれでいい。セシリアは長らくそう思っていた所為で友達を作ろうともしてこなかった。その所為で自分が孤立している事に気付こうともしなかった。

 

「(私は、何て愚かだったのかしら……織斑一夏はそれを一瞬で見抜いていたのでしょうね……あの人ならそれくらい出来そうですし)」

 

 

 廊下を走っていたので、万が一一夏に見つかれば怒られただろうが、運よくセシリアは誰とも遭遇することなく千冬と箒の部屋の近くまでやってきた。

 

「(ここまで来ましたが、今更どんな顔をしてお二人に話しかければ良いのかしら……)」

 

 

 同年代の親しい友人などいなかったセシリアは、その事に気付いて足が止まってしまった。

 

「(どうしましょう……謝りに来たと言えば会ってくれるでしょうけど……しかしどうやってそこまで話を持っていけばいいのかしら……)」

 

 

 部屋の前でうろうろしていれば、それだけで目立ってしまうのだが、幸いにして千冬と箒の部屋は他の生徒の部屋とは隔離しているので、生徒に目撃されることは無かった。

 

「(い、いけませんわ! うじうじ悩んでいても仕方ありませんし、とにかくお二人に謝らなければ)」

 

 

 意を決してノックしようと手を上げたが、そこで再び固まってしまった。

 

「(そもそも、私が訪ねてきたとして、お二人は相手をしてくださるのかしら? ……もし私がお二人の立場だったら、相手にするはずありませんわね……)」

 

 

 今日までの自分の言動を思い返して、セシリアは盛大にため息を吐く。自業自得とはいえ、こんなことになるならもう少し友好的な態度を取っておけばよかったと思ったが、それは考えても仕方がない事だった。

 

「(後の祭り、後悔先に立たず……日本の先人は良いことを言いますわね……)」

 

 

 諺を自分の中で呟いてもう一度ため息を吐く。何時か日本に行くつもりだったので、勉強していたのが、今役に立ったのだ。

 

「(とにかくお二人に謝って……それからどうすればいいのでしょうか)」

 

 

 仲良くなれるはずもない、なってくれるわけがない、そう決めつけてセシリアは上げていた手を下げる。

 

「(そもそも謝ったとして、許してくれるはずもありませんわね……)」

 

 

 そう決めつけて身体を反転させようとしたタイミングで、扉が中から開いた。

 

「さっきから何をしてるんだ?」

 

「あっ、篠ノ之さん……」

 

「何か用があってきたんだろ? とりあえず中に入ったらどうだ」

 

「は、入っても宜しいですの?」

 

「? 訪ねてきた相手を追い返すようなことはしないさ」

 

 

 箒が扉を開けてセシリアを招き入れる。そんな態度を取ってもらえるとは思っていなかったので、反応が一瞬遅れる。だが、その後すぐに嬉しさが込み上げてきて、箒に一礼して部屋に入った。

 

「お、お邪魔しますわ」

 

「何もないが、とりあえず掛けてくれ」

 

「漸く入ってきたのか」

 

 

 思いのほか友好的な二人の態度に、セシリアはさっきまで考えていたことを忘れ、勧められるままに腰をソファに降ろしたのだった。




うだうだしていたのは、中の二人に気配でバレてました

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