IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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ISばかりに気を取られてちゃいけない


別の懸念

 生徒会室では、楯無が文句を言いながらイギリスからの抗議文を処理していた。

 

「まったく、何度も言ってるのに懲りないわよね」

 

「亡国機業の動きを見れば、狙われるのがIS学園だと分かりますからね。そこに奪われたサイレント・ゼフィルスが現れる可能性も低くないから、こちらで取り返して欲しいという事でしょう」

 

「取り返すのは別に構わないんだけど、こっちに全くメリットが無いのよね……実戦経験が積めるって言っても、一夏先輩に頼めばいつでも実戦並みの緊張感で訓練する事が出来るし……」

 

「元軍属のナターシャさんや、現役軍人のボーデヴィッヒさんなどもいますから、実戦に近い経験を積むことは難しくないですからね」

 

「いっその事無視してやろうかしら? でも余計に抗議文が増えそうな予感しかしないし……」

 

「サイレント・ゼフィルスの所有者は、織斑先生のもう一人の妹さんなのですよね?」

 

「そう聞いてるわ」

 

 

 心底面倒臭そうな態度で答える楯無に、虚もつられるようにため息を吐いた。

 

「碧さんが感じ取った気配で考える限りだけど、強さは千冬ちゃん以上らしいし、射撃の腕は千冬ちゃんやセシリアちゃんじゃ歯が立たないらしいし……一夏先輩に封じ込めてもらうにしても、そうすると他が疎かになるだろうし、どうすればいいと思う?」

 

「私に聞かれても困りますよ……何しろ私は専用機を持っていないのですから」

 

「そうだけどさ……非常時には優先的に訓練機を使える立場なわけだし、虚ちゃんも少しは考えてよ」

 

「私は裏切者たちの動きの監視で手一杯です。今のところ大人しいものですが、何時仕掛けてくるか分からない状況なのには変わらないんですから……ただでさえ更識の資金の大半を持っていかれているんですから」

 

「通常兵器の恐怖もあるのよね……」

 

 

 楯無と虚が同時にため息を吐いたところで、部屋の外に人の気配が生まれた。

 

「何方ですか?」

 

『私だ。ボーデヴィッヒも一緒だ』

 

「一夏先輩? どうぞ」

 

 

 このタイミングで一夏が生徒会室に来る理由が分からなかった楯無は、虚と顔を見合わせて首を傾げたが、とりあえず一夏を生徒会室へと招き入れる。

 

「それで、何故ラウラちゃんも一緒なんですか?」

 

「通常兵器について、ボーデヴィッヒに説明してもらおうと思ってな。その点はお前らよりボーデヴィッヒの方が詳しいだろう」

 

「なるほど……現役の軍人であるボーデヴィッヒさんなら、どのような対策を取ればいいか分かるわけですね」

 

「本当なら対策を練る必要がない事が好ましいのだが、そこはもう手遅れだからな」

 

「私はそのために呼ばれたのですか」

 

「ならあたしは戻ります。もう一人でも問題ないでしょ?」

 

「すまなかったな」

 

 

 付き添いだった鈴はそのまま生徒会室には入らずに戻っていったが、ラウラは呼び出された理由に合点がいって頻りに頷いていた。

 

「それで、今回使用されると想定される通常兵器は?」

 

「可能性があるのはこのくらいです」

 

「なるほど……大半がISで対処出来るものだな。だがこちらが万全の備えをしてたなら、という条件付きだが」

 

「つまり、敵の動きは逐一把握しておかなければいけないって事かしら?」

 

「それが出来るならそうするのが一番だが、そんな事が出来るんですか?」

 

「一応スパイを潜り込ませてるから、報告は来るわよ。それでも最新の情報ではないんだろうけど……」

 

「それは仕方がない事でしょう。ですが、そういう事なら過度の安心をしない限り大丈夫だと思いますよ。さすがにミサイルをこの場に打ち込んでくることはないでしょうし」

 

「そんなことすれば、一夏先輩があっという間に片づけてくれるでしょうから、私としてはそっちの方が良いんだけどな」

 

「お嬢様?」

 

「じょ、冗談よ、冗談。だからその顔は止めてくれる?」

 

 

 虚に睨まれて、楯無は慌てて否定をしたが、何割かは本気だっただろうと虚は思っている。確かに一夏が動けばあっという間に今回の騒動は終わるだろうが、これ以上一夏に迷惑を掛けられないというのが虚の偽らざぬ本音なのだ。

 

「これらの兵器なら、ドイツ軍が開発したレーダーで探知出来るから、副官に送ってもらいましょうか?」

 

「良いの? ドイツ軍が開発したという事は、他国にはその構造は秘密のはずでしょ?」

 

「ドイツ軍といっても、開発したのは殆ど一夏教官ですから」

 

「さ、さすがですね……」

 

「一夏教官、例のレーダーを使ってもよろしいでしょうか?」

 

「その判断はお前がすればいい。私は別に構わないし、それで安全が確保出来るのなら、使うべきだろう」

 

「ではそのように手配します」

 

 

 踵を鳴らし敬礼をしたラウラに、一夏は苦笑いを浮かべながら応えた。ラウラは生徒会室を去りさっそく手配をしに行ったようだと、楯無と虚はとりあえず一安心したのだった。




一夏は束以上の科学者なんじゃないか……

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