修学旅行が間近に迫ってきて、海外組は異様な盛り上がりを見せていた。
「楽しみですわ」
「そうだね。ボクも今からワクワクしてるよ」
「そんなにいいモノじゃないと思うんだがな……」
「あんな古い建物を見て、何が面白いんだか……」
「あら。千冬さんや箒さんは日本の方だから分からないのかもしれませんが、海外の人間からすれば、日本の古都は魅力的なのですわよ?」
「あんまり期待していかない方が良いわよ。あたしも昔、期待して見に行ってがっかりしたから」
「鈴は行ったことがあるんだな。私はないから楽しみなんだが」
日本で生活していた事がある鈴は、過去に京都や奈良に行ったことがある。だからあまり期待していないので、ラウラはずっと不思議がっていた。
「あのような素晴らしい街並みや、過去の遺産に触れる機会だというのに、何故ガッカリだったんだ?」
「だって、つまらないんだもの。あたしはもっと派手に行きたかったわね」
「あぁ、京都や奈良が原因ではなく、鈴さんの性格が問題だったのですね……」
「コイツは昔からこんなだったからな……外国人なのに私たち以上に興味が薄かったから驚いたな、あの時は」
「弾と数馬を鹿に追いかけさせたりして笑ってたくらいだからな……」
「何をしたんですの?」
鈴の過去の行動に興味が惹かれたセシリアは、思わず尋ねてしまった。聞かない方が良いと頭では分かっているのだが、好奇心には勝てなかったのだ。
「確か、粉々にした鹿せんべいを弾と数馬に振りかけて、鹿の群れの中心に蹴り込んだんだっけ?」
「蹴り込んでから振りかけたんじゃなかったか?」
「と、とにかく、鈴が二人に酷い事をしたっていう事は分かったよ……」
「退屈だったから、二人に楽しませてもらっただけよ。別に噛みつかれたわけじゃないんだし、気にする必要は無かったでしょ?」
「二人は死にそうな顔してたがな……」
「必死に逃げたお陰で、鹿せんべいの粉末が落ちたお陰で助かったんだっけか……」
「良い訓練になりそうだな。ドイツ軍でも……っと、まず鹿の調達からか」
「はいラウラ、少し黙ってようね」
ズレた感想を零したラウラの口に、シャルロットが甘い物をねじ込む。
「何をするシャルロット……この饅頭はなかなかだな」
「いつの間に和菓子も行けるようになったのですの?」
「ラウラは茶道部だからね。和菓子も好きになっても不思議ではないよ」
「そうでしたわね……鈴さん、今回はそんな事しないでくださいね?」
「分かってるわよ。そんなことすれば、あたしが一夏さんに追いかけまわされる事になるでしょうし」
「一夏兄を無駄に忙しくさせるなら、私が鈴を粛正してやるがな」
千冬の雰囲気が変わったのを全員が肌で感じ取り、そして同時にため息を吐いた。
「お前が暴れれば、その分一夏さんの負担になるという事が分からないのか?」
「おりむ~はダメダメだな~」
「本音? お前いたのか」
「最初からいたんだけどな~。まぁいいや。それで、ラウラウは何時までお饅頭を頬張ってるのかな~?」
「むぐ? なんだ、私の用だったのか?」
饅頭を食べ終えたラウラが本音に向き直るが、その口の周りには餡子がついている。それを見たシャルロットが苦笑いを浮かべながらラウラの口元を拭く。
「ほら、動かないで」
「むぅ……なんだか子供扱いされているような気もするが」
「気にしない、気にしない。はい、綺麗になったよ」
「うむ。それで本音、何の用だ?」
「織斑せんせ~がラウラウの事を探してたから呼びに来たんだよ~。でも、途中で眠くなってお昼寝しちゃったから、少し時間が経ってるかもしれないけど」
「そう言えば本音、お前さっき『最初からいた』と言ってたな? 一夏兄から伝言を頼まれたのは何時だ?」
千冬が若干恐ろしそうに尋ねると、本音は少し考えてから満面の笑みで答えた。
「HRが終わってすぐだったよ~。生徒会室に向かう途中で織斑せんせ~に会ったの~」
「それって三十分も前ですわよね? ラウラさん、急がなくてよろしいので――って、ラウラさん?」
「お、織斑教官に殺される……だ、誰か一緒に来てくれ!」
ラウラの必死な言葉に、千冬と箒が真っ先に視線を逸らした。彼女たちは一夏の恐ろしさを身を以て知っているので、ラウラが怯える理由も痛いほどわかるのだ。
「別に本当の事を言えば一夏さんだって怒らないでしょ。後で本音が怒られるだけで」
「なら鈴が一緒に行ってやればいいだろ? 私たちは死んでも御免だ」
「仕方ないわね。ほらラウラ、さっさと行くわよ」
「あ、あぁ……恩に着る」
「別にいいわよ」
震えるラウラを引っ張っていった鈴を見送り、残りのメンバーは本音の顔を見る。
「ほえ?」
「コイツ、反省してないな……」
反省が微塵も感じられない本音の態度に、千冬はそう呟いたのだった。
何で京都とか奈良が魅力的なんだろう……