IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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時間を考えてくれればなおよかったんでしょうが


一夏の料理教室

 不意な来客に、一夏は進めていた作業を一旦止め、ため息交じりにその客を部屋に招き入れた。

 

「何の用だ」

 

「ちょっと束さんの娘に自信を持たせようと思って」

 

「それで? 何故ここに来る必要がある?」

 

「そりゃいっくんにも手伝ってもらいたいからに決まってるじゃないか!」

 

「………」

 

 

 昔から勝手に決めて勝手に巻き込むヤツだという意味を込めた視線を束に向けるが、束は気にした様子も無く笑みを浮かべながら腰を下ろしてクロエを手招きした。

 

「ほらほらクーちゃん、そんなところに立ってたらいっくんがドアを閉められないよ」

 

「は、はい……失礼します」

 

 

 恐る恐る一夏の部屋の中に入ったクロエは、恐縮しきった顔で束の隣に腰を下ろした。束に帰るつもりがないと分かっている一夏は、疲れ切った顔でため息を吐き、三人分のお茶を用意して束の正面に腰を下ろした。

 

「それで、クロエに自信を持たせると言ったところで、何をするつもりなんだ?」

 

「今からいっくんを気持ちよくさせて自信を――って、いっくん? その包丁は何に使うんだい?」

 

「ウサギの解体に使うに決まってるだろ。暴れないように押さえ付けておけ」

 

「じょ、冗談だからね? さすがにそんな事しないから! だから落ち着いて」

 

「笑えない冗談は言うなと、昔から言ってなかったか?」

 

「ごめんなさい……」

 

 

 さすがに命の危険を感じた束は、大人しく一夏に頭を下げて本題に入る。

 

「クーちゃんに料理を教えてあげて欲しいんだ」

 

「料理を?」

 

「クーちゃんは自分が出来損ないだから成長が遅いって思いこんでるんだよね。だからいっくんが手取り足取り教えてあげて、少しでも上達すれば自信につながるんじゃないかって思って」

 

「束にしては考えてるようだな」

 

「それってどういう意味かな!? 束さんはいっつも考えて行動してるんだからね?」

 

「もしそれが本当なら、お前はもっと考えた方が良い」

 

 

 束の頭を押さえつけて言う一夏に対して、束は全然反省している様子が見られない。さすがのクロエも、今だけは束に味方する事は出来なかった。

 

「それで?」

 

「はい?」

 

「料理を教えるのは別に構わないが、今から始めるのか? それとも日を改めて始めるのか?」

 

「あっ……一夏様さえよろしければ、今からお願い出来ますでしょうか?」

 

「本当なら無理と言いたいところだが……」

 

「申し訳ございません」

 

 

 急に押しかけて今すぐ頼むなんて厚かましいと思ったのか、クロエが本当に申し訳なさそうな声で頭を下げる。だが一夏はクロエの事を責めたのではないく、束を見ながらそう呟いたのでクロエが頭を下げたことに驚いた表情を浮かべる。

 

「考え無しの母親の所為で、娘が苦労してるようだな」

 

「そんなこと無いよ~! 束さんは、クーちゃんに愛情いっぱい注いでるんだから~」

 

「そういう意味じゃないんだがな……まぁ、こいつに欠陥があるのは昔からだから置いておくとして、始めるなら早くしよう。あんまり長居されると、明日の授業に差し支えが出るからな」

 

「いっくんなら、二,三日寝なくても大丈夫でしょ?」

 

「やる事が山積みなんだ、こっちは! 寝る寝ないの問題じゃない」

 

 

 頭を抑えながら怒鳴る一夏に、クロエは同情の念を懐く。束との付き合いが浅いクロエでも、一夏が束の事で苦労してきたのだという事はすぐに分かるのだ。

 

「さっさと準備しろ。ついでにお前にも料理を叩き込んでやる」

 

「束さんはそんな事しないよ~。いっくんやクーちゃんがしてくれるんだから、束さんが無理して覚える必要は無いでしょ~?」

 

「お前の駄目さ加減を矯正する為にも、少しは努力しろ」

 

「無理だって~。いっくんだって、束さんが料理上手になるなんて思って無いでしょ?」

 

「……天変地異が起ったところで、お前は変わらんだろうなとは思ってる」

 

「束さんは何度生まれ変わろうと、世界が変わっても不変の存在なのだ~!」

 

「迷惑な奴だ……」

 

 

 束にこれ以上言っても意味はないと思い知らされた一夏は、束を完全に無視する事にしてクロエに向き直った。

 

「それじゃあまずは、簡単なものから教えていく」

 

「お、お願いします」

 

「束さんは審査係を引き受けるよ~」

 

「……あの馬鹿ウサギは放っておくとして、そこまで緊張する必要は無いぞ」

 

「わ、分かってはいるつもりなんですが……一夏様にご教授いただけると思うだけど、身体が勝手に震えてしまうんです」

 

「乙女を震えさせるなんて、いっくんも隅に置けないね~、このこの」

 

「邪魔だからお前は失せろ」

 

「クーちゃんの保護者として、しっかりと見届けなきゃでしょ?」

 

「なら今日のメニューは、ウサギ肉のソテーとかにするか」

 

「大人しくしてます!」

 

 

 一夏が本気で怒ってるのを感じ取り、束は大慌てで一夏の側を離れ正座で二人を見守っている。変わり身の早さに驚いたクロエではあったが、その後は束が大人しくしていたので順調に一夏から料理の手ほどきを受けていたのだった。




ツッコミに容赦が無くなってきたな……

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