一夏の事を監視していた束は、映像に映ったマドカの顔を見て悶えていた。
「ちーちゃんがもう一人出てくるなんて、こっちであんなことをしてこっちでそんなことが出来る……」
「束様、鼻血が出ております」
「おっと、ちょっと興奮し過ぎたか」
束の戦闘力なら、千冬くらい完封出来るので、本気で実行に移せばあっという間に千冬の貞操は奪われるだろう。もちろん、そんな事をすれば一夏に殺される可能性があるので、妄想の中で留めているのだが。
「クーちゃんの身体は隅々まで堪能したけど、ちーちゃんや箒ちゃんはまだだからね~。こっちの子でも同じような事が出来るなら、多少乱暴にしても――」
「も、妄想の中で、ですよね?」
少なくともクロエは、束に身体を委ねた覚えはない。寝ている間はさすがに分からないが、束がそこまでして自分の身体に興味を持っているとは思えないのだ。
「もちろんだよ~。いくらクーちゃんの事を溺愛しているからといって、生身を味わう程束さんは腐ってないんだよ! 同性とのそういう事は、妄想だけで十分なのだ~」
「胸を張っていう事ではないとは思いますが……」
さすがのクロエでも、束の変態的思考を受け止める自信が無いので、妄想ではなく現実で! とか言い出されたら困るなと感じている。束もそんなクロエの気持ちが分かっているのか、わざとらしく舌を出して誤魔化した。
「束さんの初めての相手はいっくんって決まってるんだよ! まぁ、いっくんが束さんに手を出してくるなんて限りなくゼロなんだけどね」
「束様……」
「それもこれも、束さんが子供の頃からいっくんにしてきた変態行動の数々が原因なんだけどね」
「分かっているなら反省したら如何でしょう? 一夏様のお側にいて無事でいられるのは、束様くらいなものなのですから」
「うーん……いっくんって異性に興味がないんじゃないかってくらい、束さんの裸に興奮したりしないし、誰が側にいてもいっくんなら守れちゃうだろうし」
「一夏様なら出来そうですが、あのお方も何時までも独り身でいるつもりでは無いんですよね?」
「どうなんだろ~? 家族に憧れみたいのはあるみたいだけど、それイコール結婚願望なのか分からないんだよね。ほら、子供なんて別に結婚しなくても作れるわけ――あっ、別にクーちゃんたちの事を言ってるわけじゃないから、そんな顔しないで」
束は試験管ベビーの事を言ったわけではなく、結婚しなくても『そういう事』をすれば子供なんて出来るという意味で言ったのだ。クロエが過剰に気にしてるのだが、束は自分の言葉足らずを反省してクロエを抱きしめる。
「クーちゃんが自分の出自を気にして自信が持てないのを知ってるのに、今のは完全に束さんが悪かったね」
「いえ……私もラウラ・ボーデヴィッヒのように自信を持てればいいのですが……望まれずにこの世に生まれ、更に出来損ないの私では、彼女のように自信を持つ事など出来ませんから……」
「よしよし。クーちゃんは束さんが認めた子なんだから、それだけでも特別なんだよ? だからもう少し自分に自信を持とうね」
「努力はしてみますが……」
「困ったな……そうだ! 今からいっくんの所に行ってみよう!」
「一夏様の所へ、ですか?」
何故このタイミングで一夏の所に行くのかと、クロエは束の意図が分からずに首を傾げる。そんなクロエを他所に、束はそそくさと出かける準備を整え、クロエに手招きをする。
「ほらほらクーちゃん、いっくんの所に行くよ~?」
「は、はい」
自分が考えても分からないと割り切ったのか、クロエは束の手招きに応じてクロエから束に抱き着く。
「それじゃあ、地上に降り立つとしようか~」
「だ、大丈夫なのですか?」
「何回も経験してるんだし、大丈夫でしょ?」
「いえ、こんな時間に一夏様を訪ねて、怒られたりしないのでしょうか?」
「それもだいじょ~ぶ! いっくんは優しいから、迷える子羊を追い返したりしないって」
「子羊って……」
一夏は別に神父ではないので、そんな表現をしたところで怒られそうだとクロエは感じていたが、自信満々な束を見て、自分が何を言っても無意味だと諦めて地上に降りる為の準備を済ませた。
「それじゃあさっそく、スイッチオン!」
「束様、IS学園のシールドを突き破る、なんてことはありませんよね?」
「壊れても直せるから大丈夫だって」
「壊す事前提なんですか!?」
そんな事をすれば一夏に怒られると分かっているはずなのにと、クロエは束の考えに驚き叫んでしまう。それでも束を注意しようとは思わない辺り、クロエもだいぶ束に毒されているのだろう。
「さて、到着」
「ぶ、無事に着きました……」
シールドを突き破ることも無く到着した事に、クロエは安堵の息を吐き、束の後を追って一夏の部屋に向かうのだった。
束に振り回されるクロエはちょっとかわいそう……