IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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職務熱心なんです


苛立ちの原因

 一夏がマドカを逃がしたことに気付いた生徒はいないが、気付いた人間が皆無なわけではない。もちろん、逃がした相手がマドカだと知っている人間はいないが、不審者を見逃したという事は気づかれても仕方なかっただろう。

 

「織斑君、昨日この学園の子が所持しているISとは違うISの気配があったんだけど、あれは誰だったの?」

 

「さすがは小鳥遊といったところか。ISの気配まで識別出来るとは」

 

「誤魔化さないでくれる? これでも当主の命を守る為に全力で事に取り組んでるんだから。もし織斑君が私たちを裏切っていたとしたら、ここで君を始末するしかなくなるんだからね」

 

「別に裏切ってなど無いし、小鳥遊に始末される気も無いがな。昨日は妹が会いに来ただけだ」

 

「妹? 織斑君の妹は千冬ちゃんでしょ? それだったら私が気配を間違えたとでも言いたいの?」

 

 

 しきりに首を傾げながらも、強い視線を向けたままの碧に、一夏は肩を竦めて苦笑いを浮かべて見せた。

 

「亡国機業にもう一人の妹がいるのは話しただろ? それだ」

 

「いるかもとは聞いてたけど、本当にいたのね……ところで、その妹さんは逃がしてよかったわけ? 一応敵なんでしょ?」

 

「アイツ個人に敵対の意思は無かったからな。まぁ、それが俺に対してだけなのがちょっと不安だが、いざとなれば俺が止める」

 

「相変わらず妹さんから愛されてるのね……それって織斑家の伝統なの?」

 

「俺が知るわけないだろ……」

 

 

 盛大にため息を吐いた一夏を見て、碧は警戒心を解いて何時も通りの空気に戻した。

 

「織斑君と対峙するなんて思いたくなかったし、勝てるなんて思えないからね……裏切ってなくて良かったわよ」

 

「お前らを裏切ったところで平和な日常が手に入るわけではない。むしろ今まで以上に面倒事に巻き込まれる回数が増えるだろう。俺がそんな面倒な事をすると思ってるのか?」

 

「織斑君も結構ものぐさだもんね。出来る事なら何もしたくないって思ってるでしょ?」

 

「別にそこまでは思っていない。ただやらなくても良い事はやりたくないだけだ」

 

 

 一夏自身の問題なら兎も角、彼が背負わされているのは大抵が他人の問題だ。他人と言うより、国が解決すべき問題ともいえるかもしれない。

 

「いっその事織斑君が国のトップになったら?」

 

「そんな面倒な事して何になるというんだ」

 

「腐った政治家たちを一掃出来るんじゃない? そうすれば、まともな人を政治家にする事が出来る」

 

「そしてしばらくしたらまた腐っている、なんてことになるんじゃないか? 最初から腐ってたなら、さすがに選挙に通らないだろうし」

 

「お金でもばら撒いてるんじゃないの? 警察も巻き込んでるとか」

 

「……あり得そうで嫌だな」

 

 

 一夏は国会議員も国家権力も信用していない。だから碧が挙げた可能性を否定するだけの気持ちも無く、むしろあり得そうだとすら思ってしまったのだった。

 

「兎に角織斑君はもう少し面倒事を断ったりした方が良いんじゃないかしら? それくらい出来るでしょ?」

 

「更に面倒な事にならなければ、断ったりもするが、余計面倒な事になりそうなんだよな……ここの学長も腐ってるからな」

 

「あぁ……織斑君と奥さんに仕事を丸投げして、自分はのんびり過ごしてるんだっけ?」

 

「気ままに庭の手入れをしてたりしてると聞いたが、実際はどうだか」

 

 

 一夏は本気で学長を潰そうとも考えたが、それはそれで面倒な事になると考えなおして実行はしなかった。だが脳内では何度殺したか分からない程殺したいと思っているのだ。

 

「刀奈ちゃんたちには見せられない表情ね」

 

「別に普段と変わらないだろ?」

 

「ううん、いつも以上に殺気立ってるというか、視線で人を殺せそうな雰囲気というか」

 

「なんだそれ」

 

「それだけ織斑君が苛々してるって事なんでしょうけど、あんまり顔に出さない方が良いわよ。といっても、気付ける人はそうそういないでしょうけども。千冬ちゃんと箒ちゃんくらいじゃない?」

 

「あの二人はすぐに気づくだろうが、お前も随分早くに気付いたものだな」

 

「そりゃ、私は変化に敏くないと生き残れない世界の人間ですもの。その世界で長く生きているんだから、これくらいはね」

 

「高校生の刀奈たちにはまだ分からない程度なら、特に気に掛ける必要は無いだろ」

 

「だから、千冬ちゃんたちがすっ飛んでくるわよ? 大好きなお兄さんの機嫌が悪い理由を確かめようって」

 

「……それはそれで面倒だな」

 

 

 一夏は一度大きく息を吐いて、自分の中から苛立ちを追いやった。それだけで大きく変わるわけではないのだが、必要なのは小さな変化なので、これだけで十分改善された。

 

「その程度なら、私も気にしないかな」

 

「何時も通り、面倒事でイラついてるようにしか見えないだろ?」

 

「何時もイラついてたのね……」

 

 

 一夏の立場と言うものを改めて知らされた気がして、碧は一夏に同情的な視線を向けたのだった。




一夏の精神状態がヤバい方向に……

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