騒ぐだけ騒いで、楯無たちは消灯時間が近いからという理由で一夏に追い返された。だがその理由では碧は追い返せないので、彼女だけは一夏の部屋に留まっていた。
「わざわざ刀奈ちゃんたちを追い返した理由は何なのかしら?」
「教師として、こんな時間まで生徒を寮の外にいさせるわけにはいかない、それだけだ」
「本当にそれだけ? 私には何だか違う理由が見え隠れしてる気がするんだけど」
「例え違う理由があったとしても、それを刀奈たちに言う必要は無いだろ。もちろん、お前にもな」
一夏の目が鋭くなったので、碧ものんびりとした雰囲気を一変し、臨戦態勢に近い空気を纏う。
「織斑君が何を考えているのかは分からないけど、刀奈ちゃんたちに危害を加えるつもりなら容赦しないからね。私じゃ勝てないって分かってるけど、時間稼ぎくらいにはなるでしょうし」
「さっきも言ったと思うが、刀奈たちに危害を加えるつもりなら、最初から反楯無一派に力を貸している。俺は刀奈たちの方に力を貸しているし、落ちつくまでは貸し続けるつもりだ。今更刀奈をどうにかしようなんて思っていないから安心しろ」
「……それじゃあ、何であの四人を部屋に返したのよ」
「別の来客があるからだ。小鳥遊もそろそろ帰ってくれるとありがたい」
「別の来客? ひょっとして篠ノ之束博士かしら? あの人も、織斑君を直接祝いたいだろうし」
「そんなところだ……」
一夏が面倒臭そうに視線を逸らしたのを見て、碧は何となくこの後に面倒な事があるのだと察し、同情的な視線を一夏に向けた。
「そういう事なら、早いところ退散しようかしらね。私の事は認識してないとは思うけど、邪魔者だって判断されたら大変だもの」
「アイツは細胞レベルで人外だからな。小石を弾いただけで核爆弾並みの威力を発揮する」
「なにそれ……チートも良い所じゃない……」
「だから面倒なんだ……」
本気でため息を吐いた一夏にどう声をかければ良いのか分からず、碧はそのまま部屋から退散した。一夏がまだ何か隠している事は分かっていたが、これ以上聞き出すのは不可能だと判断しての事だった。
碧も部屋から追い返す事に成功した一夏は、一人中庭へ向かった。騒がしかった数時間が嘘のように、今の一夏の周辺は静まり返っている。
「……そんなところに隠れていないで、姿を見せたらどうだ?」
何もない暗闇に声をかけると、それを合図にしたように気配が生まれた。
「隠れ通せる自信があったんだけどな」
「気配は殺せても視線が露骨過ぎだ。あれなら俺じゃなくても気づくだろう――千冬や箒でもな」
「アイツらの話はしないで!」
露骨に嫌悪感を示した少女に、一夏は思わず苦笑いを浮かべた。
「アイツらも何も、片方はお前の姉だろ」
「何も知らないでのほほんと生きて、お兄ちゃんに迷惑をかけまくってる奴なんて、姉なんて認めない! そもそも、アイツは私の事を知っているのかもわからないのに」
「知らなくても気が付くだろ。お前と千冬は、見た目そっくりなんだからな」
「そのお前って呼び方嫌い。ちゃんと名前で呼んでよ、一夏お兄ちゃん」
「久しぶりという表現があっているのかは分からんが、久しぶりだ、マドカ」
織斑家の次女にして、現在亡国機業に所属している織斑マドカ。それが一夏が碧に告げたもう一人の来客の正体だった。
「変態駄ウサギが見ているだろうからあまり長くは話せないが、お前たちの目的は何だ」
「お前たちって、あの屑親の事? あいつらが何を考えてるかは知らないけど、私は自分がいるべき場所に帰る為に頑張ってるだけ」
「いるべき場所?」
「お兄ちゃんの隣だよ。だから、邪魔をするヤツは全力で排除するし、何も知らないでのほほんと生きているバカも排除する」
「千冬にも言った事があるが、俺の周囲の人間を排除して、俺の関心が得られると本気で思っているのか?」
「そんなことすれば、ダーリンに嫌われるに決まってるじゃないの」
「飛縁魔……お兄ちゃんの専用機にして、お兄ちゃんの婚約者を気取ってる雌……」
「女の子がそんな言葉を使うな」
教師であり兄でもあるので、一夏はマドカの言葉遣いを注意する。普段なら気にも留めなかっただろうが、マドカは一夏に言われたので素直に反省した。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。でもどうしてもそのISだけは許せない。お兄ちゃんから精気を貰って強くなるなんて……羨ましすぎるもん!」
「あら嫉妬? そんな感情で動いてるようじゃ、貴女も大したことなさそうね」
「煽るな」
飛縁魔の挑発に眉をヒクつかせたマドカを見て、一夏は飛縁魔にツッコミを入れた。飛縁魔も煽ってる自覚があったので、一夏のツッコミに肩を竦めて反省したポーズを見せたのだった。そのやり取りを、マドカがちょっと羨ましそうに見ていた事は、一夏しか気付かなかった。
ブラコンが増えた……