IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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本当に束の間だったな……


束の間の平穏

 珍しく騒がしくない夜を迎えていた一夏だったが、急に現れた気配に眉を顰めた。だが何時もと違って、現れた気配が一つだけではないので、そこに眉を顰めたのだ。

 

「やっほーいっくん! 愛しの束さん――あたたたたっ!? 耳から脳みそが出てきちゃうからアイアンクローは止めて!?」

 

「何しに来た、亡国機業の見張りはどうした」

 

「それは自動録画してあるから、何か動きがあれば分かるよ。だから早く離して! 聞こえちゃいけない音が聞こえてるから」

 

 

 更に右手に力を込める一夏に、束は割かし本気で離してと頼み込む。実際先ほどから束の耳に『ミシミシ』という音が聞こえているので、あながち冗談ではないのかもしれない。

 

「ふん。それで、そっちの少女は? お前が誘拐とか企てるとは思えんが」

 

「束さんはそんな事しなくても、資金は潤沢にあるからね~。ほらほらクーちゃん、いっくんにご挨拶して」

 

「は、初めまして、織斑一夏様。私は、篠ノ之束様に拾っていただいた、クロエ・クロニクルと申します」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒと同じ出自か」

 

「っ」

 

 

 自分で説明する前に一夏に言い当てられ、クロエは思わず息を呑んでしまったが、束は満面の笑みでサムズアップをしている。

 

「さっすがいっくん! 一を聞いて十を知る。いっくんと束さんはまさに以心伝心――あがっ!?」

 

「本気で頭蓋骨を破壊されたいようだな」

 

「いっくん!? 今日はなんだか何時もより容赦がない気がするんだけど」

 

「平穏な時間をお前が台無しにしたからな。いつも以上に加減が出来なくても仕方ないと思わないか?」

 

「いっくんの人生において、平穏なんてあり得ないって。それはいっくんが一番よく分かってるんじゃないの?」

 

「だから珍しいと噛みしめていた所に、お前が現れたんだ。お前さえ消しておけば、今後の人生において平穏な時間が増えるかもしれないだろ?」

 

「い、一夏様!? まさか本気で束様の事を――」

 

「大丈夫だよ、クーちゃん。これはいっくんの照れかk――ギブっ! いっくん、そろそろ本気でギブだから!」

 

「次似たような冗談を言うようなら、その口を縫い付けてやるからな」

 

 

 冗談と思えない一夏の雰囲気に、クロエは悲鳴すら上げる事が出来なかったが、何故か束はニコニコと笑みを浮かべたままだった。

 

「それで、どうだいいっくん。束さんの娘は」

 

「娘? お前に育てられて可哀想だとしか言えんな」

 

「そんな事ないよ。この天才束様が一から教育するなんて、何処の世界の英才教育でも敵わないものだと思わないかい?」

 

「思わん。お前のような変態が増えるような教育は、この世からなくなればいい」

 

「そんな心配は無用だよ、いっくん。いくら束さんが天才だからと言って、同じような人間を育てられるわけ無いじゃないか」

 

「そうだな。人並み外れた変態性を、そう簡単に教えられるとは思えないからな」

 

「あ、あの……」

 

 

 これが一夏と束の何時も通りだと知らないクロエは、何とかして二人を落ち着かせようとするが、言葉が見つからずオロオロするだけになってしまった。さすがにクロエが可哀想だと思ったのか、一夏が無理矢理話題を変える。

 

「それで、わざわざこの子を俺に会わせに来た理由は」

 

「今後クーちゃんにお遣いを頼むかもしれないから、早いところ顔合わせをしておこうと思っただけだよ。何せ束さんは今後忙しくなる事間違いなしからね~」

 

「亡国機業と繋がって、俺と戦争でもするつもりか?」

 

「それも面白そうだけど、束さんといっくんが全面戦争を始めたら、地球が無くなっちゃうかもしれないからそれはしないよ。さすがの束さんも、宇宙開発まではしてないからね」

 

「安心しろ。世界が滅ぶ前に、お前を殺してやるから」

 

「うん、それは嬉しくないし、安心も出来ないからね? って、またクーちゃんが怯えちゃうから、冗談はこのくらいにしておこうよ」

 

「お前がふざけなければ、俺はこんな事しない」

 

「あはは……いっくんのもう一人の妹、マドカちゃんの事だけど」

 

 

 急に表情を改めた束だったが、一夏は驚きもせず続きを促す。

 

「どうやら彼女がイギリスから強奪したISの操縦者に選ばれてるみたいだね」

 

「確か、サイレント・ゼフィルスと言ったか」

 

「そう。遠距離に特化したISで、ちーちゃんよりも射撃の腕はありそうだよ」

 

「面倒な事にならなければ良いんだが……」

 

「それは絶対にあり得ないから。いっくんの周りで面倒事に発展しないなんて、束さんが他人を認識するくらいの確率でしかないよ」

 

「偉そうに言うな! 俺の周りの面倒事の八割以上がお前絡みだろうが!」

 

「まぁまぁ。とりあえず、何か動きがあったら連絡するね。それじゃあクーちゃん、ラボに戻ろうか」

 

「えっ、あっ、はい……」

 

 

 嵐のような束の行動に呆気にとられながらも、クロエは束に掴まってラボに戻っていった。それを見送った一夏は、盛大にため息を吐いて、残っている仕事を片付けるのだった。




人一人を片手で持ち上げられる人間って、本当に人間なのだろうか……

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