IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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これは酷い……


セシリアの失敗

 放課後になり、千冬たちは食堂の一角で話し合いをしていた。参加メンバーは一組の五人と鈴を加えた六人で、本音の姿はない。

 

「本音さんが食堂にいないなんて珍しい事もあるんですね」

 

「アイツはこの計画に参加していないのに、勝手にテーブルに加わっている時があったからな」

 

「まぁ、一夏兄に伝わっていないのを考えれば、約束は守っているのかもしれないな」

 

 

 過去一度だけ本音もこの集まりに参加した事がある。といっても誘われたわけではなく、勝手に加わっていただけなのだが。その時千冬とラウラが、絶対に一夏に話すなと念を押したからなのかは分からないが、本音はその事を一夏に話してはいなかった。

 

「いよいよ明後日だが、各自準備は出来ているだろうな」

 

「本当にあんなことをやるわけ? 一夏さんが喜ぶとは思えないけど」

 

「そもそも何故あのような恰好をしなければいけませんの? 普通にお祝いするだけでは駄目なんですの?」

 

「何事もマンネリを避ける努力は必要だろ。私たちがどれだけ一夏兄の事を祝ってきたと思っている。普通のお祝いなど、当の昔に飽きられているに決まっているだろうが」

 

「それはどうなんだろう……織斑先生がそんな事思うとは思えないんだけど」

 

 

 千冬とラウラが考え実行に移そうとしている計画に、他の四人はあまり乗り気ではない。むしろ箒は全力で止めようとしたのだが、代案が出せずに結局二人の考えを実行しなければいけなくなったのだった。

 

「衣装協力はウチの姉さんだからな……本当に申し訳ないと思っている」

 

「箒さんが気に病む必要はありませんわよ。ただ、間違えて箒さんの衣装に袖を通した自分をどうにかしたいですわね……」

 

「何処を見ているっ!?」

 

 

 セシリアの恨みがましい視線を受け、箒は思わず両手で胸を隠す。ここ最近は胸の事で弄られるも減ってきていたのだが、まさかセシリアからその責めを受けるとは思っていなかったのだろう。

 

「だけどさ、篠ノ之博士は何処で話を聞いていたわけ? 千冬がお願いしたわけじゃないんでしょ?」

 

「あの人は勝手に聞いて勝手に参加してきただけだからな。一夏兄曰く、あの人は『宇宙規模のストーカー』らしいから」

 

「我が姉ながら本当に止めて欲しい……というか、これ以上一夏さんに迷惑を掛けないでもらいたい……」

 

 

 箒が本気で落ち込んでいるのをみて、シャルロットとラウラが左右それぞれの肩に手を置いて慰める。千冬にとっては見慣れた姿なので何とも思っていないようだが、セシリアと鈴は、程度に違いはあれ同情的な視線を箒に向ける。

 

「後はケーキの準備だな。これはシャルロットと箒が担当だったな」

 

「材料はもう用意出来てるから、明日の放課後にでも作ればいいよね? あんまり早くに作っても、クリームがダメになっちゃうだけだし」

 

「何故私が選ばれなかったのか、未だに納得が出来ませんわ」

 

「妥当な人選でしょ。アンタが参加したら、お祝いケーキじゃなくて毒殺用のケーキになっちゃうでしょうし。まぁ、一夏さんに効くかどうかは分からないけどね」

 

「どういう意味ですの!」

 

「アンタの料理の腕が壊滅的って事よ」

 

 

 鈴のセリフに、セシリア以外のメンバーが力強く頷く。シャルロットまでも同じ反応を見せたので、セシリアは本気で落ち込んでしまう。

 

「そこまで言わなくても良いじゃありませんの。私はただ、個性を出そうとしているだけですのに……」

 

「素人がそうやって工夫しようとするから失敗するのよ! まずは基本に忠実に! それが出来るようになってからアレンジを加えるのよ」

 

「セシリアは最初から個性を出そうとするから駄目なんだと思うよ。今度ボクと一緒に練習しようよ」

 

「……分かりましたわ。ですが、強火と書いてあったんですから、レーザーで熱した方がよくはありませんか?」

 

「「ありません!」」

 

 

 実家が中華料理屋だった鈴と、料理部に所属しているシャルロットは、断じてセシリア料理を認めない。あれを料理だと認めてしまったら、自分の中で何かが崩れ去ってしまう恐れがあると本能的に理解しているからだった。

 

「確かにレーションより不味い物を一夏教官に出すわけにはいかないな。幾ら一夏教官が強靭な身体を持っているからと言って、食べさせて良い物とそうではない物は存在する」

 

「あの本音ですら、食べるのを遠慮したものだからな」

 

「というか、あれはケーキだったのか? 私には黒ずんだ切株にしか見えなかったが」

 

「黒ずんだというか、黒焦げだったよね……」

 

「何をどう使えば、電子レンジが爆発するのよ……」

 

「あ、あれはちょっと失敗しただけですわ! 金属ボウルを電子レンジに入れてしまっただけで――」

 

「「お前は料理以前の問題だな……」」

 

 

 千冬と箒も、最低限は出来るので、思わずそんなことを呟いてしまったのだが、鈴とシャルロットが力強く頷くのをみて、今後セシリアに料理させる機会を与えて良いものかと本気で悩んだのだった。




セシリアは何を思ってレーザーを使おうとしたのか……

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