IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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意外と善戦する千冬


千冬の気持ち

 セシリアと銃撃戦を繰り広げていた千冬は、相手の実力に驚いていたのと同時に、自分が意外にも善戦している事に驚いていた。

 

「(一夏兄がアドバイスしてくれたお陰かな? たぶんあのまま箒と二人で特訓してたらここまでは出来なかっただろうし)」

 

 

 何発かは被弾しているが、致命的なダメージではない。勝てはしないだろうが、これで少しはセシリアの鼻を明かせるだろうと確信していた。

 

「(だが、どうせなら一発くらい被弾させたいな……いや、欲を出したらダメだ。箒みたいに無様な負けを一夏兄に見せる事になりかねない)」

 

 

 勝ちを焦った箒は、零落白夜の燃費の悪さに沈んだ。それを見た一夏がどう思ったかは分からないが、恐らく呆れているだろうと千冬は思っている。

 

「(あの人には呆れられたくない。見捨てられたくない)」

 

 

 両親の愛情を知らない千冬は、その分一夏に甘え育ってきた。だがその甘えが一夏の人生を狂わせてしまったと彼女は思っている。

 

「(私が弱かったから……一夏兄に甘えていたから誘拐されたんだ……その所為で一夏兄は現役を引退しなければならなくなってしまったんだ……)」

 

 

 自分にもう少し力があれば、せめてあの状況を打破できるだけの力があればと、千冬は度々後悔している。今なら逃げ出せる――などという自惚れを懐くことはしないが、あの時よりは上手く立ち回れるのではないかと考える事はある。

 

「(何も出来ずに、ただ助けを待つのは御免だ。一夏兄から受けた恩を、少しずつ返していかないと)」

 

 

 そのために千冬はIS学園を選んだのだ。ここである程度の成績を修めれば、卒業後はIS企業に就職する事が出来る。もちろん、学力も必要だが、自分には他の人間には無いアドバンテージがある。

 

「(一夏兄の妹であることを全面的に出すのは嫌だけど、それでお金を稼げるならそれでも構わない)」

 

 

 自分のちっぽけなプライドを守る為に利益を捨てる事など、千冬には考えられなかった。一夏の妹だと色眼鏡で見られるのは嫌だが、それで稼げるのならそれでも構わない。宣伝に使ってもらえるのなら、それで構わないと割り切っている。

 

「(少しでも一夏兄に楽をしてもらう為にも、私が稼がないと……)」

 

 

 千冬が頑張らなくても、一夏には莫大な預金があるのだが、その事を千冬は知らない。知っていたとしても、それが一夏から受けた恩を返さなくてもいい、という事にはならないと思い込んでいる。

 

「(せめて、候補生の候補に名前が挙がるくらいまでには成長しなければ……)」

 

 

 結局千冬対セシリアの試合は、時間の関係でセシリアの判定勝ちとなった。終に千冬はセシリアに一撃も食らわせる事は出来なかったが、それでも十分善戦したと言える結果に、クラスメイトから万雷の拍手が送られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピットに戻った千冬を、少し釈然としない表情を浮かべた箒が出迎える。

 

「お前、本気で勝ちに行かなかったのか?」

 

「勝てるわけ無いだろ。こちとら致命傷を避けるだけで精一杯だ」

 

「回避と撃ち落としでそれなりに相手の動揺を誘えていたのだから、一撃くらい食らわせる事が出来たんじゃないか? お前、試合中に余計な事を考えていただろう」

 

 

 箒の観察眼に、千冬は驚くことは無かった。自分が相手の事を理解出来るのだから、相手が自分の事を理解出来ても不思議ではない。

 

「どうすれば一夏兄に恩返しが出来るか、それを考えていた」

 

「まだ気にしているのか……一夏さんは気にしなくていいと言っているじゃないか」

 

「それでも! 私が一夏兄の人生を狂わせたのには変わりはないんだ……」

 

「千冬……」

 

 

 箒は、一夏が千冬の事を責めているなど思っていない。それはもちろん千冬も同じだろうと思っている。だが、当事者だからこそ千冬は自分の事が許せないのだろうという事も理解出来てしまっているので、この話題になると何も言えなくなってしまうのだ。

 

「一番早くお金を稼げるのは、束さんの人体実験の被験者になることなんだろうけど――」

 

「そんなことすれば姉さんと一緒にお前まで一夏さんに殺されるぞ」

 

「それが分かってるから断ってるんじゃないか」

 

 

 既に何度か誘いは受けているのだが、その都度「一夏に殺される」という考えが頭をよぎり、それを理由に断っているのだ。

 

「束さんも一夏兄に殺されたくはないみたいだし」

 

「当たり前だろ。姉さんは一夏さんの事が好きなんだから」

 

「お前もだろ?」

 

「なっ!? 何を言うんだ、お前は!」

 

「顔が赤いぞ? 悪いが、私は御前の事を『義姉さん』と呼ぶつもりはさらさらないからな」

 

「どうしてお前はいつも話が飛ぶんだ!」

 

 

 互いに負けたばかりだというのに、二人の間には重苦しい空気は無く、何時も通りのバカ話でも盛り上がる。少しは反省した方が良いのだろうが、この二人にはそんなこと関係ないのだ。

 

「とりあえず、一夏兄に謝りに行くか」

 

「そうだな。負けてしまったからな」

 

「お前は自爆だろうが」

 

 

 千冬の容赦のない一言に、箒はただただ押し黙るのだった。




義姉候補は多いが、どれも気に入らないだろう……

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