体育館の片づけを終わらせた楯無は、虚に引っ張られながら生徒会室へやってきた。文化祭が終わったばかりだが、生徒会の仕事は山のようにあるのだ。
「イギリスからの文書が多いわね……」
「ごたごたしててあまり気にしてませんでしたが、イギリスで開発中のISが何者かに奪われたという報告がありましたからね。恐らく、亡国機業の仕業だったのでしょう」
「そう言えばそんな報告もあったわね……家の問題とかで頭がいっぱいだったから、目を通しただけでスルーしてたわ」
頭の片隅に残ってた記憶を呼び起こし、楯無はイギリスからの文書に目を通し始める。
「イギリスで開発中だったISの名称はサイレント・ゼフィルス。セシリアちゃんの機体をベースに開発してたみたいだから、中遠距離タイプかしらね」
「今回襲ってきた相手の機体ではなさそうですね」
「あれはクモみたいな感じだったし、ここに添付されている写真の印象とはだいぶ違うもの。それに、あのオータムとかいう女が、遠距離から攻撃するとも思えないしね」
「簪お嬢様を殴ろうとしてましたし、恐らくは近距離格闘が得意なのでしょう」
学園と家の問題で手一杯なのに、イギリスの問題までこちらに丸投げされてはたまらないと、楯無はすぐにイギリスに返答しようとしたが、何かアクションを起こしたら、それは手伝う気があると思われるのではないかと考え、書類作成の手を止めた。
「お嬢様、如何なさいましたか?」
「どう動いても面倒事が増える予感しかしないのよね……どうしたらいいのかしら」
「イギリスの問題は我々に今のところは直接関係ありませんし、何かあったら教えるくらいで良いのではないでしょうか」
「それで納得してくれるかしら……」
もし亡国機業が強奪したのだとすれば、今一番接触する可能性が高い組織は、IS学園なのだ。強奪されたISを取り返す事が可能なのも、IS学園関係者だと言われれば、そうだと認めるしかなくなってしまう。そしてなし崩しにイギリス国内の問題にも首を突っ込まされる破目になるような予感が、楯無の中に燻っているのだ。
「一度、一夏先輩に相談した方が良いかしら」
「そう言ってお嬢様はサボりたいだけなんじゃありませんか? 織斑先生の方にも報告は行っているでしょうから、電話で確認すればいい事ではありませんかね?」
「う、虚ちゃん? 目が怖いんだけど……」
「お嬢様が逃げ出そうとしなければ、このような顔はしません」
「に、逃げるなんて、そんなことするわけ、ないじゃない?」
「何故疑問形なのでしょうか」
虚に迫られ、楯無は一夏に直接会って相談する事は諦め、電話で相談する事にした。電話をかけると、一夏はすぐに出てくれた。
『何かあったのか』
「一夏先輩、イギリスで奪われたISの事は知ってますか?」
『あぁ。夏休みが終わるか終わらないかの頃に、開発中のISが奪われたという情報は入ってきているが、それがどうかしたのか?』
「そのISを奪ったのが亡国機業で、イギリスから取り返して欲しいって文書が来ているんですが、どう返事をすればいいのか分からなくてですね……一夏先輩に相談したかったんです」
『こちらも手が空いているわけではないと、正直に答えれば良いだろうが。そもそも学生にそんな事を頼んでくるような政府、いずれ滅びるから放っておけ』
「それはそれで問題な気が……余計な軋轢を生みませんかね?」
『そんな物は今更だ。子供が気にする事ではない』
「むっ! 子供じゃないですよ」
一夏に子供扱いされたのが気にいならなかった楯無は、頬を膨らませて抗議するが、電話越しにその姿が見えるはずも無く、一夏は楯無の抗議をスルーして先に話しを進める。
『日本政府を通しての抗議ではなく、IS学園に直接送ってきた時点で、相手をするかどうかなんてお前が決めて良いと言っているようなものだ。軋轢が生じようが、そんなことに責任を感じる必要は無い。向こうの落ち度なんだからな』
「そう言うものなんですか?」
『そうやって割り切って生きていかないと、面倒事ばかりしょい込んで身動きが取れなくなるからな。取捨選択はしっかりとした方が良いだろう』
「そりゃ一夏先輩程なら、斬り捨てた事で問題が生じても対応出来るでしょうけど、私たちじゃそこまで出来ませんよ」
『事実を言って文句を言ってくるなら、その程度の国なのかと挑発してやればいい。学生に挑発されたとなれば、ムキになって自分たちで解決すると躍起になるかもしれないからな』
「一夏先輩、人が悪すぎですよ」
『今更だな。俺が腹黒いのは、刀奈だって知っているだろう』
「そうですね」
電話越しに一夏が悪い顔をしているのが容易に想像できた楯無は、つられるように悪い笑みを浮かべ虚に書類作成を頼んだのだった。
腹黒一夏は健在