片づけが終わり、千冬たちは食堂でお喋りをする事になった。とはいっても、千冬はあまり乗り気ではなかったのだが、セシリアとシャルロットがどうしてもと頼み込んだことで、断れなくなって参加したのだが。
「文化祭ではなかなか楽しい体験が出来た。何時かドイツに戻ったら仲間とやってみようと思うんだが」
「お祭りですから、皆さんも楽しめるかと思いますわ」
「でも、軍をあげてのお祭りって、ちょっと怖いんだけど」
「大したことはしないぞ。祝砲の代わりに大砲をぶっ放すくらいだ」
「十分に怖いよ!」
ラウラたちの話を聞きながら、千冬の意識は体育館に向けられていた。
「まだ気にしてるのか?」
「当たり前だろ。私と一夏兄は、唯一残った家族なんだぞ! 私には一夏兄しか、一夏兄には私しかいないんだ!」
「その考え方は危険だと、散々一夏さんに言われてきたのに、まだ改めてなかったのか……視野を広げないと、何時か本当に一人きりになると言われただろ?」
「一夏兄がいてくれる限り、私が一人きりになるなどありえない。束さんも同じ思いだからな!」
「姉さんは兎も角として、一夏さんだって何時までもお前の側にいてくれるわけではないだろ。いずれ恋人が出来、結婚したりすることもあるだろう。その時、お前はどうするつもりなんだ」
「束さんと結託して、その相手を地の果てまで追いかけまわし、一夏兄の側から遠ざける」
「そんなことして、一夏さんが許してくれるとでも?」
「変な女に付きまとわれなくなるんだ、きっと褒めてくれるだろう」
「というか、お前は一夏さんの人を見る目を疑ってるのか? 一夏さんが変な女を選ぶとでも思ってるのか?」
「お前、一夏兄をバカにするのか! 一夏兄が変な女に引っ掛かるわけ無いだろうが!」
自分で言っていた事だろうにと、箒は千冬に残念なものを見る目を向ける。側で聞いていたセシリアも、千冬に憐みの視線を向ける。
「何だ? お前らは何が言いたいんだ?」
「お前はバカだって事を言いたいんだよ」
「バカはお前もだろうが」
「いえ、単純に頭が悪いという意味ではなく、千冬さんはずば抜けたおバカさんだと言いたいのです」
「何なんだいったい……」
イマイチ理解していない顔で首を傾げる千冬に、箒とセシリアはため息を禁じ得なかった。
「おい、私の話をちゃんと聞いているのか?」
「すみません、ちょっと千冬さんの話に参加していました。それで、ラウラさんは何をしたいのですか?」
「うむ。一夏教官の誕生日に、ドイツ軍から祝砲でもどうだと思ってな」
「やめてくださいまし! 時間的問題もですが、国際問題に発展するじゃないですか!」
「そうか? 一夏教官も喜んでくれると思うんだが」
「参考までにお伺いしますが、織斑先生がドイツでラウラさんたちを指導していた時の誕生日では、何をしたのですか?」
セシリアの質問に、ラウラは得意満面の表情を浮かべ、胸を張りながら答えた。
「我々が出来る最大限の祝福をした! 撃てる限りの大砲をぶっ放し、一夏教官の凄さをドイツ全体に広めようとした!」
「それで、織斑先生はなんと?」
「……三日間食事抜きと、懲罰房行きを命じられた」
「それが当然だと何故分からないのですか?」
セシリアは、一夏がしっかりとラウラたちを怒っていた事に安堵し、だが何故ラウラが反省していないのかが気になった。
「一夏教官の誕生を祝うのに、やりすぎという事はないだろ?」
「何事にも限度というものがあるんです! というか、千冬さんも頷かないでくださいませ!」
「一夏兄がこの世に生まれた日なんだ。盛大に祝うのは当然だろ? 義務だろ? というか、邪魔する奴らは排除するのが当たり前だろうが」
ラウラと千冬が力強く握手を交わす側で、箒とセシリア、そしてシャルロットが揃ってため息を吐いた。
「そんな当たり前は、千冬とラウラの中だけだよ。他の人たちは、そこまですることは無いと分かってるからね」
「束さんも私たちと同じ考えだぞ? あの人が正しいと言えば、それが世界の常識になる」
「ウチの姉はいったい何者なんだ……」
「世界の創造主だろ? 今の世界を創り出したのは束さんなんだし」
「私が姉さんを殺したい……というか、存在を抹消したい」
「お前にそんな事が出来るわけ無いだろ? そんな事しようとすれば、お前が束さんに消されるだけなんだから」
「まぁ、そんな事をしようとしたところで、一夏さんに止められるのがオチだからしないが……というか、姉さんが正しいと言ったところで、一夏さんが正しくないと言えば正しくないだろ」
「むっ、確かに一夏兄の言う事が正しいな」
「だからお前はバカなんだよ……」
もう一度力なくため息を吐いてから、箒はテーブルに突っ伏して肩を落としたのだった。
千冬は救いようがない程のおバカさんだな……