盛り上がった文化祭の翌日、生徒たちは片付けの為に朝早くから教室に来ていた。
「準備する時は楽しかったけど、片付けは面倒だよね」
「文句言わないの。片付けまでが文化祭なんだから」
「アンタはほんと真面目よね」
クラスメイト達が文句を言ったり雑談をしたりしながら片づけをしているのを見て、クラス代表のセシリアは感慨深そうにその作業を眺めていた。
「おいセシリア、この幕は何処に返せばいいんだ?」
「そちらは職員室から借りましたので、そちらにお返しください」
「職員室か。一夏兄がいるかもしれないな」
「千冬さん。分かっているとは思いますが、今は片付けの時間なのですから、サボって織斑先生とお喋りしようとは思わないでくださいね? そんなことすれば、織斑先生に怒られた後で私に怒られる事になりますので」
「お前は私を何だと思ってるんだ。幾ら私が一夏兄を敬愛しているからと言って、時と場所を考える事くらい出来るぞ」
「それは威張っていう事ではないと思いますが……まぁ、そちらの幕の返却は千冬さんにお任せしますわね。量があるので、もう一人くらい手伝ってもらった方が良いでしょうけど」
「なら箒、お前も来い」
「何故私なんだ?」
机を運んでいた箒が、首を傾げながら千冬の側にやってくる。
「幕も数があるからなかなか重いからな。クラスの中でこの重さを苦にしないのは、私とお前くらいだろう」
「そんな事は無いと思うが……確かに重そうだし、私が手伝うのが一番か」
IS学園に通っているのだから、それなりに力はあるだろうと千冬は思ったのだが、ISに関係なく純粋にトレーニングを積んでいるのは、自分たち以外ではラウラくらいなものかと思い、あの見た目で力持ちという事も無いだろうと納得して、千冬は積まれている幕を持ち上げた。
「それじゃあセシリア、私たちは職員室にこの幕を返してくる」
「お願いしますわ。それから箒さん」
「何だ?」
「千冬さんがサボらないように見張っててくださいませ」
「任せろ」
箒に耳打ちしたセシリアは、その返事を聞いて安心して千冬の事を箒に任せられると判断したのだった。
「そう言えばセシリア」
「どうかなさいました、シャルロットさん?」
「本音の姿が見当たらないんだけど、何処に行ったか知ってる?」
「本音さんなら、生徒会の片付けに駆り出されましたわ。襲撃があった箇所の応急処置などもしなければいけないので、生徒会の方に人手が必要だと言っておりました」
「なるほど。あれでも生徒会役員だもんね、本音は」
「普段はあまり参加していないようですが」
本音がサボり気味なのは、この学園に通う者ならだれでも知っている事だ。最近は多少真面目になっているようだが、それでも生徒の代表ともいえる生徒会のメンバーに相応しいとは思えないほどのだらけっぷりなのだ。
「そこ! 喋ってる暇があるなら手を動かせ! 時間は有限だぞ!」
「ラウラ、軍じゃないんだからそんな喋り方しなくても良いんじゃない?」
「私は学生である前に軍人だ。だから口調を改めるつもりなど無いぞ」
「でもここにいる殆どの生徒は、軍人じゃなくて学生だからさ。ラウラが軍人だとしても、彼女たちはそうじゃないでしょ? そんな口調に慣れていないわけだし、ラウラが孤立しちゃうよ?」
「むっ……シャルロットの言葉も一理あるな……私はどうすればいいのだ?」
「もう少し柔らかい口調で話せばいいんじゃないかな? ラウラがいろいろと大変な経験をしてきたっていうのは知ってるけど、IS学園にいる間くらいはもう少し自由に過ごしても誰も怒らないわけだし、何かあっても織斑先生が何とかしてくれるだろうしね」
「一夏教官なら、それくらい出来るだろうな……そうだな」
何か吹っ切れたような表情になったラウラは、先ほどとは違う口調でクラスメイト達に注意をした。さっきと言っている事は変わらないのに、だいぶマイルドになったなと、シャルロットは感慨深げにラウラの事を眺めていた。
「シャルロットさん、なんだかラウラさんのお姉さんみたいでしたわね」
「あはは……同い年なんだけど、ラウラって何となく妹っぽいからね」
「何となく分かりますわ。でも、本人がそれを自覚していないのが可愛いんですよね」
「そうなんだよね。甘いものを一生懸命食べてるラウラは、何となく抱きしめたくなる可愛さがあるんだよ」
「シャルロットさんって、もしかしてそっちの気あるんですの?」
「そっちの気って……ボクはいたってノーマルだからね!?」
セシリアに百合疑惑を突きつけられ、シャルロットは大慌てでそれを否定する。その態度が怪しいとセシリアは思ったが、とりあえずはシャルロットがそう言った目でラウラを見ていないという事だけは信じたのだった。
疑わしきは罰せずで