IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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よく来客のある部屋だな、改めて思うと……


夜の部屋

 消灯時間ギリギリまで部屋で騒いでいた楯無と、それに付き合わされた虚が部屋を去ってから、一夏は別の客を部屋に招いていた。

 

「お嬢様や簪ちゃんたちはとりあえず怪我も無く、かつ更識内部に巣くっていた連中が言い逃れ出来ない証拠を手に入れる事が出来た。今回の作戦はとりあえず成功、って事で良いのかしら?」

 

「その辺りはお前ら更識の連中が決める事だろ。俺としては、破壊された体育館の修繕費の事を考えると頭が痛くなるところだが」

 

「それって織斑君の管轄じゃないんじゃないの?」

 

「それはそうなんだがな……まぁ、いろいろあるんだ、俺にも」

 

「大変そうね」

 

 

 同情的な視線を一夏に向ける碧だったが、その表情は笑っている。一夏も碧の本心が分かるので、苦笑いを浮かべながら頬を掻いた。

 

「篠ノ之博士の追跡は、問題無く出来ているのよね?」

 

「逃げたヤツに発信機を仕込んだらしいからな。何処に逃げようと分かると豪語していた」

 

「仕込んだって、何処に仕込んだの?」

 

「そんなの俺が知るわけ無いだろ。だがアイツの事だから、身体に直接という可能性もゼロではないな」

 

「非人道的じゃない?」

 

「アイツが他人を認識するわけ無いだろ? 精々動物実験くらいにしか思って無いだろうし」

 

「織斑君とお話しするようになってから、篠ノ之博士のイメージがますます酷くなっていくわ」

 

「最初からいいイメージなんて持ってなかったんだろ? 仮にも同級生だから、アイツの奇行の一つや二つ、知ってるだろうし」

 

「織斑君が大変そうにしてたのくらいしか知らないけど、その原因の殆どが篠ノ之博士だって事は知っていたわよ」

 

 

 碧の言葉に、一夏は本気で嫌そうな表情を浮かべ、そしてため息を吐いて表情を改めた。

 

「アイツの奇行は兎も角として、これで更識内の問題は進展するだろうな。良くも悪くも」

 

「そうね。反楯無様一派は屋敷を出ていくか、占拠するかのどちらかの行動をとるでしょうから、こちらとしてはどっちの行動をとってきても対処出来るようにしてあるわ」

 

「必要ならまた力を貸す。刀奈にも言ってあるがな」

 

「刀奈ちゃん、本当に織斑君に懐いてるものね。簪ちゃんが嫉妬するくらいに」

 

「特別、何かをしたわけでは無いんだがな、刀奈にも簪にも」

 

「織斑君がそういう人だから、みんな織斑君に惹かれてるのよ。もちろん、私もね」

 

「その割には、異性の部屋に平然とやってくるのはどうなんだ?」

 

「だって、織斑君が私たちに何かするとは思えないもの。それとも、何かしようと思ってるのかしら?」

 

 

 碧の問いかけに、一夏はそっぽを向いて答えなかった。そんな一夏の反応が面白かったのか、碧は声を抑えて笑っている。

 

「織斑君でも、そんな顔するんだね」

 

「お前らは俺を何だと思ってるんだ……」

 

「だって、これだけ異性に囲まれて生活してるのに、そういった感じの付き合いは無いわけでしょ?」

 

「教師が生徒に手を出すわけにはいかないだろ。もちろん、生徒だから手を出さないわけでもないんだが」

 

「だからよ。織斑君がちゃんと相手の事を考えてくれてる人だから、私たちは織斑君に惹かれ、そして安心して部屋を訪ねる事が出来るのよ」

 

 

 完敗という感じで一夏は両手を上げ、そして頭を下げる。碧は勝ち誇るでもなく、ただただ笑っている。

 

「天下の織斑一夏に頭を下げさせるなんて、私も捨てたものじゃないわね」

 

「更識きっての実力者が何を言う……だいたい俺に頭を下げさせるのなんて、そんなに難しい事ではないだろ」

 

「そうかな? 織斑君って、そんなに謝ってるイメージが無いし」

 

「高校時代、束の事で散々教師に頭を下げたんだがな……思い出したら、束に説教したくなってきたな」

 

「本当に苦労してきてたんだね……今もそんな感じだけど」

 

「今は束だけじゃなく、千冬や箒の事でも頭を悩ませる事が増えたからな……あいつらも大人しくしてくれればいいものを」

 

「保護者兼お兄ちゃんだもんね」

 

「身内以外にも、頭を悩ませる連中は少なくないからな」

 

「ウチのご当主様一同、織斑様にはお世話になっています」

 

「止めろ、気持ち悪い」

 

 

 急にかしこまった口調になった碧に、一夏は顔を顰めて止めるように頼んだ。一夏がそんな反応するとは思って無かった碧は、少し意外そうな表情を見せたが、すぐに口調を改めた。

 

「刀奈ちゃんや簪ちゃんだけじゃなく、虚ちゃんや本音ちゃんも織斑君に懐いてるのは確かよね。私の方が織斑君より長い時間彼女たちの側にいたのに」

 

「お前は裏方の仕事ばかりだったし、懐くというより尊敬するという感じなんだろ。そこまで落ち込む必要は無いだろ」

 

「そうやって、さりげなくフォローしてくれるのも、織斑君に惹かれる要因の一つなのよ? 分かってる?」

 

「………」

 

 

 意識してやっている事ではないので、指摘されると恥ずかしいものだと、一夏は少し照れくさそうに頬を掻いて視線を逸らしたのだった。




一応関係者以外立ち入り禁止区域だったはずなんだけど……

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