IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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格が違ったな……


オータムへの訊問

 地下から抜け出したオータムだったが、そこに待ち構えていた人物を見てさすがに冷静ではいられなかった。

 

「織斑一夏……何でお前がこんな所に」

 

「下調べはしてあったんじゃなかったのか? 私は今、ここで教鞭を振るっているんだ。いてもおかしくはないだろう?」

 

「テメェみたいな大物が動くような案件じゃねぇだろうが」

 

「動くかどうかを決めるのはお前ではなく私だ」

 

 

 全く動じない一夏に、オータムはどうしかけるかを模索する。自分が勝てる相手ではないと分かってはいるが、無様に負け帰るのは彼女の流儀に反するのだ。

 

「別に私はお前を捕らえてどうこうするつもりは無い」

 

「何っ?」

 

「ただ少し聞きたい事があるだけだ」

 

「オレが答えるとでも?」

 

「答えるさ。じゃなきゃお前はこのまま死ぬんだからな」

 

「っ!?」

 

 

 生きてきた中で感じたことも無い殺気を向けられ、オータムは思わず自分の身体を抱きしめる。まるで自分の身体が無くなってしまったのではないかと錯覚させられるくらい、一夏の殺気は鋭く、また容赦が無かったのだ。

 

「テメェ……殺気だけで人が殺せるんじゃねぇか?」

 

「試したことも無いから知らないが、お望みなら試してやろうか?」

 

 

 あくまでも冷静な一夏に対して、オータムには余裕はない。この場から逃げられるなら、一夏の問いかけに答えるのもありなのではと思い始めているくらいに。

 

「それで、何を聞きてぇんだよ」

 

「何故お前らの組織に両親が与しているんだ」

 

「両親? あぁ、あの夫婦か。創設メンバーの中の二人だという事は聞いたことがあるが、詳しい事は知らん。そもそも、亡国機業が変わった原因だとも言われてる奴らだからな」

 

「変わった? 確かに調べた限りでは、犯罪の質が変わったらしいが、犯罪組織には変わりないだろうが」

 

「テメェらから見たらそうかもしれねぇが、オレらからすると変わったんだ! まぁ、無理に分かってもらおうとは思わねぇがな」

 

「お前らにもプライドというものがあるのか。まぁ、そんな物はどうでも良い」

 

「チッ」

 

 

 興味など無いと視線でも言われた気がして、オータムは舌打ちを我慢出来なかった。一夏の機嫌を損ねたら殺されるかもしれないというのに、そこを否定されたからなのか、オータムの眼には鋭さが戻ってきていた。

 

「お前らが義賊を演じていたのかなんて、私には興味が無い事だ。表に出せない金を巻き上げてたのは調べがついてたからな」

 

「テメェ……いったいどういう調査をしてやがるんだ」

 

「それは企業秘密だ。さて、もう一つ聞かせてもらおうか。それさえ分かれば、後はお前になど興味もないからな」

 

「……何だよ」

 

「何故更識の家を狙った」

 

「別にオレらが狙ったわけじゃねぇ。アイツらが勝手に援助してきただけだ。今の境遇が気に食わないとか言ってな」

 

「……行け」

 

 

 オータムの答えを聞いて本当に興味を無くしたように、一夏はオータムに向けていた殺気を収め、視線もオータムから外した。オータムは一瞬一夏に襲いかかろうと考えたが、いくら隙だらけと言っても相手は『あの』織斑一夏なのだ。下手をすれば本当に殺されかねないと思い直し、舌打ち混じりに捨て台詞を吐いて逃げ出していった。

 

「……聞こえてたな?」

 

『ホイホ~イ! 奴らの事はこの束さんがしっかりと調べ上げておくからね~。ついでに、あの阿呆が逃げた先にあるであろうアジトの位置もね~』

 

「分かってるなら話が早い。恐らく、近いうちにお前の許にも亡国機業の人間が行くだろう」

 

『別に興味はないかな~。いっくんとちーちゃんの生物学上両親ってだけで、ちーちゃんを育てたのはいっくんだし、いっくんは自分で努力して育ったんだもんね~』

 

「くだらない事を言ってないで、しっかりと追跡しろ」

 

『だいじょ~ぶだってば~。自動追尾してるから』

 

「便利な世の中になったものだな」

 

『それもこれも、この天才束さんの功績だね~』

 

「功罪の間違いじゃないか?」

 

『酷くないかなっ!?』

 

 

 束との通信を切り、一夏は木陰に潜んでいるもう一人の監視者に声をかける。

 

「裏切者たちの始末はそちらで済ませろ」

 

「境遇は悪くなかったと思うのですが、本当にあの理由だったのかしら」

 

「知らん。少なくとも、オータムとかいうやつはそれが事実だと聞かされているようだったからな」

 

「相変わらず、人の嘘を見抜くのが得意なのね」

 

「相変わらずと言われる程、お前と付き合いがあったとは思えんが」

 

「噂に伝え聞いた限りでは、って事よ」

 

 

 更識家を裏切り亡国機業に与した理由を聞きだしたのは、楯無からのオーダーだった。だが楯無は簪救出に出向く為に、その真相を聞くのは碧に任されていたのだ。だが碧では聞き出せるかどうか微妙だったので、一夏をこちら側に向かわせたのだった。

 

「たくっ、良いように使われた気がしてならないな」

 

「刀奈ちゃんが頼れるのは、織斑君だけだからね」

 

 

 慰めともとれる碧のセリフに、一夏は肩を竦めて校内に戻るのだった。




オータムじゃ歯が立たない

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