IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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原作で尻軽と言ったのは工作員だったっけか?


オータムVS楯無

 簪が棺桶からいなくなっている事を一夏からのアイコンタクトで知った楯無は、すぐに碧に連絡を入れ、虚と一緒に地下へ向かう。

 

「お嬢様、あの仕掛けに気付いていましたよね?」

 

「そうじゃなきゃ、わざわざあの位置に棺桶を置かないわよ。あそこの床から地下に行ける事は、学園内でもそんなに知られていないしね」

 

「何処で調べたのでしょうか?」

 

「まぁ、そこまで重大な秘密ではないし、ちょっと調べれば割とすぐ分かる事だしね」

 

 

 口調は明るい感じだが、楯無の表情は真剣そのものだった。たとえ少しの間だろうと、簪を危険な状況に置いているのが不安なのだろうと、虚は無駄口を叩かずに楯無の後ろにしっかりとついていく。普段なら虚の方が先導する事が多いのだが、今は楯無が虚を先導している。それだけ簪の事が大事なのだろうと、虚は姉妹愛を感じ微笑ましくなったが、状況が状況なので、それを口にすることは無かった。

 

「上は一夏先輩と碧さんが固めてくれてるから、思いっきり行くわよ」

 

「思いきりと言われましても、私は専用機を持たない身ですので、向こうがISで突っ込んできたらひとたまりもありませんが」

 

「虚ちゃんはあくまでも映像保存係よ。その為の暗視スコープ付きのカメラを持ってるんでしょ?」

 

「灯りは使えないと分かってますから」

 

 

 わざわざ地下に誘い込むのだから、灯りを使えなくしておくのは当然だと考えている為、虚は暗視スコープ付きのカメラを用意して、万が一逃げられた時に相手の顔が分かるように記録する係なのだ。もちろん、楯無としては簪を危ない目に遭わせている相手を逃がすつもりは無いのだが、ここ一番で失敗するのが楯無だと虚は知っているので、逃げ誰た時の事を考えるのは当然だった。

 

「そこまでよ!」

 

「あっ? 随分と早いお出ましだな、当主様(笑)。部下に裏切られ家の金をオレたち犯罪組織に流されてる気分はどうだ?」

 

「それは私の不徳の致すところよ。でもね、黙って見過ごすつもりは更々ないわよ。まして貴女は、私の大事な妹を手に掛けようとしてるんだからね!」

 

 

 楯無の殺気を感じ取ったオータムは、即座に簪から離れ楯無の攻撃を捌く。オータムから解放された簪だが、手足の自由は戻っていないので、とりあえずは這いずって状況を確認出来る位置に移動する。

 

「お前如きがオレ様に勝てるとでも? 実力で代表になれないからって他国に尻を振った尻軽女がな」

 

「勘違いしないで。私は別に尻軽でもなければ代表になれなかったわけでもないの。私には目標があって、それを為しとけるためには日本で代表になるわけにはいかなかっただけよ」

 

「はっ、負け惜しみが。そんな尻軽当主様だから、部下が言う事を聞かないんだろ。殆どが謀反に参加して、今では殆ど部下がいない裸の王様が!」

 

「あんな人たち、最初から信頼なんてしてないわよ。どうせお父さんに毒を盛ってたのも、あの中にいるんでしょうし」

 

「気付いてたのか……」

 

 

 オータムが舌打ちでもしたげな態度で呟いたのを聞いて、楯無は確信した。父親の暗殺を唆したのはこいつらだと。

 

「貴女たち、いったい何時からウチにちょっかいを出してたのかしら?」

 

「さぁな? 知りたきゃ力づくで聞いてみな! まぁ、テメェが勝てればの話だがな!」

 

 

 オータムの力任せの攻撃を、楯無は水の力を借りながら捌く。完全に力の差があるので、楯無個人の力ではオータムの攻撃を捌ききれない所まで戦況は悪化しているのだ。

 

「随分と勇んでたようだが、所詮は学生のおままごとって事だな。テメェじゃ俺に勝てないって――」

 

 

 トドメを刺そうとしたオータムの動きが不意に止まった。楯無はオータムの攻撃に合わせて反撃するつもりだったのに、相手が突っ込んでこなかったので隙だらけで固まっていた。

 

「チッ! 悪いがここまでだ」

 

「何を――」

 

 

 言っていると続ける事は出来なかった。強烈な煙幕が焚かれ、楯無は咄嗟に簪の前に移動して辺りを警戒する。だがオータムからの攻撃は無く、煙幕が晴れた時にはオータムの姿は無かった。

 

「虚ちゃん」

 

「映像はバッチリ撮れていますし、音声もしっかり録音されています。これで、家中改めが出来るでしょう」

 

「お姉ちゃん……虚さん……お父さんは、亡国機業に殺されたの?」

 

 

 真実を知らされていなかった簪は、信じられないという感じの口調で尋ねてくる。その眼は「嘘だよね」と問い掛けてきていたが、楯無は力なく首を左右に振った。

 

「残念だけど、亡国機業じゃないわ。ウチの人間の誰かが実行した可能性が高いの」

 

「私たちはその可能性を調べ、信頼に足る人間に調べてもらっていたのですが、既に八割以上が亡国機業に力を貸している状態でして、調べるのに苦戦しています」

 

「そんな……」

 

「ゴメンなさい。私も、一ヶ月くらい前にその事を指摘されたの」

 

 

 膝から崩れ落ちた簪を抱きしめながら、楯無は無言で簪の頭を撫で続けたのだった。




ガチンコ勝負なら、どうなってたことやら……

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