IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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高過ぎるのも低すぎるのも問題


自己評価

 体育館に到着した簪は、さっそく楯無と虚に先ほど一夏から聞かされた推測を話す事にした。

 

「なるほどね……狙われるとしたら簪ちゃんか、箒ちゃんのどちらかかと思ってたけど、簪ちゃんの方に接触してきたのね」

 

「箒も?」

 

「あの子は篠ノ之束の妹だからね。あの子を使って篠ノ之博士を仲間に引き入れるか、簪ちゃんを攫って洗脳して仲間にするかのどちらかだとは思ってたのよ……でも、どちらとも絞れなかったから本音に簪ちゃんの警護を強化するように言ってたんだけど……やっぱり簪ちゃんの方に来たのね」

 

「あれで強化してたんだ」

 

 

 簪からすれば、いつも以上に怠けてたようにしか見えなかったが、どうやらそれが楯無の狙いだったらしいと知り、納得と少しの不安を覚えた。

 

「あの子は警戒してない風で警戒してる方が良いもの。下手に警戒心を剥き出しにさせると、あからさま過ぎて敵も近づいてこないかとも思ってね」

 

「お嬢様は本音の事を過大評価してるだけです。あの子はそれ程の子ではありません」

 

「虚ちゃんが過小評価し過ぎてるんじゃないの? 本音は結構役に立ってるわよ」

 

「普段があれですので、それを差し引けばマイナスでしかありません」

 

「最近は頑張ってると思うけど?」

 

「あれくらい、布仏の人間として出来て当然です」

 

「厳しいのね」

 

 

 目の前で繰り広げられる本音の評価をめぐっての言い争いに、簪は虚に同意したい気持ちが強かった。確かに楯無が言うように、最近は頑張っているようだが、それ以前の行動や、護衛をサボって何処かに行っていたりするので、まだまだマイナス評価じゃないかと思っているのだ。

 

「しかし、簪ちゃんを狙ってるとなると、本音だけじゃ守り切れないかもしれないのよね……相手はISを所持してるって噂だし」

 

「ナターシャさんは如何でしょうか? あの方は銀の福音を所持していますし、アメリカ軍に所属していたのですから、それなりに経験はあるでしょうし」

 

「警戒はしてくれてるでしょうけども、表立っては動きにくいと思うわよ? 彼女だって亡国機業のターゲットになった人なんだから」

 

「それでしたら、織斑先生に頼むしかなくなりますが」

 

「そうなのよね……でも一夏先輩には劇に参加してもらうわけだし……そうだ!」

 

 

 少し考え込んでから、楯無は何か悪戯を思い浮かんだような表情を浮かべて簪を見る。姉のその表情を見て、簪は嫌な感じがしたが、自分を守る為に考えてくれた姉が、何か言う前に否定するのは何となく失礼だと思い、楯無の発言を待つことにした。

 

「簪ちゃんがステージに立てばいいのよ。私は裏方に回るから、簪ちゃんが一夏先輩の相手役をやってくれれば、簪ちゃんは狙われにくくなるし、一夏先輩も簪ちゃんの事を守りやすくなるし」

 

「いきなり言われても無理だよ。劇って言ったって、私は裏方のはずだったからセリフなんて覚えてないし、人前で演技なんてしたこと無いから、緊張しちゃうだろうし……」

 

「学園内の人数くらいで緊張するようでは、モンド・グロッソに参加するなんて不可能よ? あれはもっと大勢の人から見られるんだから」

 

「それとこれとは話が別だよ。ISを纏ってれば多少の視線くらいは耐えられるけど、今回は生身なんだよ? 目立ちたくないから展示物を作るだけで勘弁してもらったのに」

 

「簪ちゃんはもっと目立つべきなのよ。せっかく専用機を一人で造り上げたんだから」

 

「お姉ちゃんは知ってるでしょ……あれは私一人で造り上げたわけじゃないし、私だけでやってたらまだ完成してなかっただろうし」

 

「一夏先輩はアドバイスしてくれただけで、実際は簪ちゃん一人で組み上げたんじゃない。まぁ、最後の最後で手を貸してくれたらしいけど、それでも簪ちゃん一人で造り上げたと言っても過言ではない程度の手助けしかしてないって、一夏先輩は言ってたわよ?」

 

「織斑先生が自分の手柄を自慢するわけないでしょ? そもそも、アドバイスしてくれたから完成したわけだし、最後のアレだって、織斑先生が手伝ってくれてなかったら、今ここに私がいたかどうかも分からなかったし……」

 

 

 束の悪戯――簪からしたら悪戯では済まなかったが――で大惨事になりかけたが、怪我無くこうして過ごせているのも一夏のお陰だ。だから簪からすれば、一夏がいなければ打鉄弐式は完成しなかったし、こうして候補生を続けられているのも一夏のお陰だと思い込んでいる。

 

「一夏先輩もだけど、簪ちゃんも自己評価が相当低いわよね……もっと自信を持った方が良いわよ」

 

「お姉ちゃんのように、常に自信満々でいたくない」

 

「どうして?」

 

「だって、何となくバカっぽいから」

 

「バカじゃないもん!」

 

 

 妹にバカ呼ばわりされて、楯無はかなり必死に訴えた。演技ではなく素で涙目になっている楯無を見て、二人の背後に控えていた虚は右手で口元を隠して視線を逸らすのだった。




楯無は何となくおバカっぽいですから

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