IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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蘭から見れば、尊敬に値するでしょうし


尊敬の眼差し

 IS学園というのは、基本的には部外者に厳しい作りになっており、滅多な事でもない限り近づくことが出来ない。だが、内部からの招待があれば入ることが出来る事もある。今日の文化祭などがそれだ。

 IS学園志望で内部に知り合いがいる女子などは、こういう機会に学園内を見学したり、純粋に学園祭を楽しんだりするのだが、妹の付き添いで来た五反田弾は感じたことのない居心地の悪さを覚えていた。

 

「お兄、さっきからキョロキョロし過ぎ。変態だと思われて連れていかれても弁護しないからね」

 

「お前は兄に対して失礼過ぎるだろうが! 誰が変態だって!?」

 

「お兄。誰がどう見ても不審者だもん。それが女子校内にいれば完全に変態扱いされておかしくないもん」

 

「だから来たくなかったんだよ……母ちゃんに言われて仕方なく来たけど、男なんて俺しかいないんじゃねぇか?」

 

「だから私は一人で大丈夫って言ったんだよ。お母さんも心配性なんだから……というか、お兄が付き添いで来たって役に立たないよ」

 

 

 五反田兄妹のやり取りを聞きながらくすくす笑っている人が目立つ中、この二人を招待した悪友が向こう側から漸く姿を現した。

 

「何で私がこいつを招待してやらなければいけないんだ」

 

「何時までブツブツ言ってるんだ、お前は。蘭はIS学園志望なんだから良いだろ別に。だいたいお前も私も、他に招待する相手なんていないんだから」

 

「それはそうかもしれないが、一夏兄に色目を使う雌猫を招待しなければいけない私の気持ちがお前に分かるか? 分かるわけないだろ!」

 

「千冬は相変わらずだな……というか、人の妹を雌猫呼ばわりは止めてくれ」

 

「というか、何で弾がいるんだ? まさか、女子更衣室に忍び込んで――」

 

「そんなことしねぇよ! というか、蘭といいお前といい、何で俺を変態扱いするんだ! こんなに紳士的な男なんて滅多にいないだろうが!」

 

「お前のそれは紳士的じゃなく、ただのパシリ根性だろうが」

 

「言えてるわね」

 

「鈴……そういえばお前もいるんだったな」

 

「何だか懐かしい声が聞こえたからちょっと出てきただけよ。というか、あんたたちもそろそろ持ち場に戻らないと、一夏さんに怒られるんじゃない?」

 

「おっと、そうだったな。じゃあ、とりあえず捕まるなよ」

 

「どんな心配だ!」

 

 

 千冬たちが自分たちの持ち場に戻ってしまったので、弾と蘭はとりあえず校内を見て回ることにした。といっても、蘭の目的は最初からただ一つなのだが。

 

「ここか?」

 

「そうよ。ISの事を事細かに説明した資料を展示している教室」

 

「そんなの見て楽しいのか?」

 

「楽しいとかそうい事は関係ないの。ISの勉強がしたくて文化祭に招待してもらったんだから。というか、お兄はそんな事も分からずについてきたの?」

 

 

 心の底から「使えない」と言いたげな蘭の視線に、弾は何かを言い返そうとして言葉が見つからなかった。

 

「あれ? 貴方は確か千冬たちの友達の……」

 

「ん? 確か千冬の家で会った……」

 

 

 背後から声をかけられ振り返った弾が見たのは、眼鏡をかけた少女とダボっとした制服を着た少女だった。

 

「おー、おりむ~とシノノン、リンリンのお友達だ~!」

 

「更識簪さんと布仏本音さんですよね。この間はお兄が失礼をしました」

 

「何もしてないっての!」

 

「面白い兄妹だね~。織斑せんせ~とおりむ~とはまた違った兄妹で」

 

「あそこと比べるのは可哀想だよ」

 

「というか、お兄と一夏さんを比べるだけ無駄ですから」

 

 

 蘭の冷たい視線を受け、弾はそっぽを向いたが、何処を見ても女子しかいなかったので、慌てて視線を蘭に戻した。

 

「ダンダンは何で来たの~? ここは女子しか通えない学校だよ~? もしかして、女の子になる予定が――」

 

「本音、そのボケは面白くない」

 

「駄目か~。少しは笑ってくれるかな~、って思ったんだけど」

 

「お兄が女になっても、この学園に通えないと思いますよ。バカだから」

 

「馬鹿とは何だ! だいたいな、千冬や箒だって通えてるんだ。俺だってちょっと頑張れば――」

 

「おりむ~とシノノンは、死ぬ思いをして課題をやったりしてるから、ダンダンだと本当に死んじゃうかもよ?」

 

 

 本音の容赦のない言葉に、弾は黙ってしまう。自分が千冬や箒より頭が悪い事を自覚しているので、あの二人がそうなら自分は本当に死んでしまうのかもしれないと思ったのだろう。

 

「そう言えば、布仏さんは千冬さんや箒さんと同じクラスだって聞いた気がしますけど……」

 

「ほえ?」

 

 

 蘭が言外に「サボってて良いのか?」と尋ねてきたが、残念ながら本音にはそれが伝わらなかった。代わりに簪が蘭の質問に答える。

 

「私たちは生徒会の手伝いがあるから、クラスの出し物の手伝いは免除されてるの。まぁ、私は資料を作っただけで何もしてないけど」

 

「これ、更識さんが作ったんですか?」

 

「そうだけど?」

 

 

 何で蘭が自分に熱い眼差しを向けてくるのかが分からず、簪は困惑気味にそう答えるしか出来なかったのだった。




弾は……まぁ仕方ない

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