IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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久しぶりにこの人が


文化祭前夜

 文化祭前日の深夜、一夏は部屋で作業していたら何者かの気配を感じ取り外に出た。

 

「随分と久しぶりだが、何か分かったのか?」

 

「これでもいっくんに気付かれちゃうのか~。まぁ、束さんはいっくんから隠れたいなんて思った事が無いから仕方ないのかもね」

 

「御託はいい。それで、何が分かった」

 

「少しは束さんとお話ししてくれてもいいんじゃないかな~? いっくんの為に不眠不休で調べてたのに」

 

「嘘だな」

 

 

 さすがに不眠不休はあり得ないと一夏は分かっていたし、束もこのくらいの冗談なら一夏は許してくれると分かっていての冗談だったので、一夏に指摘されてニッコリと笑みを浮かべた。

 

「さすがいっくん。束さんの事は何でもお見通しだね~。ちなみに、今着けてる下着の色、分かるかい?」

 

「くだらんことを言ってないでさっさと本題に入れ。それとも、一撃喰らわせなきゃ分からないのか?」

 

「じょ、冗談だからその笑顔は止めてもらいたいかな~、なんて……」

 

 

 ちょっと度が過ぎたと反省して、束は真面目な表情を浮かべた。それに合わせるように一夏も真剣な視線を束に向けた。

 

「明日この学園に忍び込んでくるヤツの名前と戦闘データ。いっくんなら何となく見ただけで分かるだろうけど、一応持ってきたから」

 

「ご苦労。後で楯無たちにコピーして渡しておく」

 

「それから、学園内にいる奴らの仲間の生い立ち、何で亡国機業に入ったのかとかも調べておいたから」

 

「お前にしてはかなり深く踏み込んだな。他人になど興味ないんじゃなかったのか?」

 

「無いよ。でもいっくんの邪魔をするようなヤツなら話は別。徹底的に調べ上げて、そして潰す材料を手に入れる」

 

「そうか……それで?」

 

 

 一夏の表情に凄みが増す。その表情を見て、普段の束ならおちゃらけたりするのだろうが、彼女もまた真剣な表情で一夏を見詰めていた。

 

「亡国機業には、いっくんたちの両親がいる。これはほぼ間違いないよ。それからマドカちゃんの事だけど、あの子は自分の意思で亡国機業に入ったわけじゃなさそうだけど、何か目的があるのは確かだね。そこはまだ分からないけど、近いうちにいっくんに接触してくる可能性は高いよ」

 

「そうか」

 

「可能性としてはそうだね……いっくんの誕生日に会いに来る、とか? サプライズプレゼントとか言ってさ」

 

 

 束が上げた可能性に、一夏は少し考え込むような仕草を見せた。

 

「どうかしたのかな?」

 

「いや、誕生日などすっかり忘れてたからな……また無駄に年を取るところだったと」

 

「ほんといっくんは自分の事に無関心だよね~。高校時代からあれだけ束さんがお祝いしてあげてるのにさ~」

 

「お前がしてたのはお祝いではなく嫌がらせだろうが」

 

「まぁまぁ。とにかく、明日襲ってくる相手を捕まえるなりして情報を引き出せば手っ取り早いけど、いっくんはそこまで手を貸さないんでしょ? あくまでも教師として、生徒の身の安全を確保するだけで、敵と対峙するのはいっくんの後輩」

 

「俺が下手に動けば、相手の全容を知ることも、相手を完膚なきまでに叩き潰す事も難しくなるからな。楯無なら大丈夫だとは思うが、一応手は打ってある」

 

「いっくんにそこまで信頼されるなんて、ちょっと羨ましいかな」

 

「お前の事は、余計な事をしなければ信頼してる」

 

「余計な事なんてしてないんだけどな~?」

 

「人の事は衛星で監視するのは、余計な事ではないと?」

 

 

 こめかみをひくつかせながら尋ねる一夏に、束は自信満々に頷いて見せた。

 

「あったりまえだよー! 束さんにとって、いっくんの観察は呼吸と同じくらい大切な事だからね」

 

「観察しなくても死なないだろうが」

 

「死んじゃうよー! いっくん、ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ? だから束さんも、いっくん事を見てないと死んじゃうんだから!」

 

「あれは世話をしないと死ぬ生き物だからそう言われてるだけで、実際は寂しいとか関係ないだろうが。そもそも、お前は一度死んだ方が世界の為だと思うぞ」

 

「酷っ!? 一度死んだら生き返れないんだよ!? いっくんはそれでもいいわけ!?」

 

「お前から解放されるなら、それもありだと思っている」

 

 

 真顔で答える一夏に、束は本気で崩れ落ちその場で泣いてみせた。

 

「いっくんは束さんが死んでもいいと思ってるんだ……束さんがいない方が良いんだ……」

 

「随分と精巧に出来た涙だな。涙腺を改造でもしたのか?」

 

「……やっぱりいっくんを騙す事は出来なかったか。まぁ悲しいのは本当だけど、束さんは涙を流す事が出来ないからね~」

 

「俺にこんなことを言われたくないと本気で想ってるなら、少しは行動を改めるんだな」

 

「はーい」

 

「毎回毎回、返事だけは良いんだがな」

 

 

 もう一度ため息を吐こうとしたが、一夏は真面目な表情で束を見詰めた。

 

「何かな?」

 

「追跡は任せるからな」

 

「うん」

 

 

 自分を信用してくれていると理解した束は、力強く頷いたのだった。




束の技術力だけは信頼に足るからなぁ……

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