文化祭についてはセシリアの満足のいく結果で終わった話し合いだったが、一夏の誕生日に何をすればいいのかについての結論は出ていない。ここでセシリアを返すわけには行かなかったのか、千冬たちはセシリアも話し合いに加え続きをする事にした。
「それで、織斑先生は何をされると喜ぶのでしょうか?」
「そう言えばボク、織斑先生が何が好きなのかとか全然知らないや」
「一夏兄は基本的には好き嫌いは無いからな。ただ鬱陶しい議員とかマスコミとか、勘違いしている女どもは嫌いだと思うぞ」
「それは世界中の誰もが嫌いなのではないか? 私だって、昔神楽を取材に来てしつこく質問されたから、そのインタビュアーの脛を蹴り上げて危うく問題になるところだったんだし」
「何だそれは?」
箒の知らない過去を聞かされ、ラウラが質問する。千冬と鈴は知っているので、懐かしむような表情をしているが、シャルロットとセシリアの表情はラウラと似たようなものだった。
「前に篠ノ之神社に祭りに行っただろ? 昔は違う人が神楽を舞っていたんだが、箒も練習で付き合ったりしてたんだ。その時に取材が来て、箒に粘着取材をした阿呆がいてな。箒が言ったように脛を蹴り上げたんだ。それで問題にすると脅してきたんだが、一夏兄と束さんが逆に問題にすると脅して事なきを得たんだ」
「それって無事に解決してるの? 確かにしつこかったインタビュアーも問題だけど、脛を蹴り上げたのは謝るべきだと思うけど」
「謝ったら最後、奴らは付け上がってでっち上げの記事を作り上げて篠ノ之神社の評判を地に落としたに違いない」
「あんたたちのマスコミ嫌いは筋金入りよね……まっ、あたしも面倒な事は嫌いだから、取材とか申し込まれても断ってるんだけど」
「お前の何を取材するんだ? 一向に成長しない身体の秘密か?」
「それは喧嘩の申し込みで良いんだよな?」
「まぁまぁ。鈴も千冬も落ち着いて」
一触即発の空気を醸し出した二人を窘め、シャルロットは本題に流れを戻す事にした。
「マスコミ云々は置いておくとして、織斑先生にお祝いの気持ちを届けるだけで良いんじゃないの? お金だってそれほどあるわけじゃないんでしょ?」
「それはそうだが……だが、一夏兄に気持ちを届けるだけじゃ、近くで生活してる意味がないではないか! 今はプレゼントを手渡しする事も、一緒にケーキを食べる事だって出来るのに!」
「ケーキだと!?」
「はーい。ラウラは少し黙ってようねー」
「むぐっ!? シャルロット何をs――口の中が幸せだ」
ラウラに飴玉を与える事で大人しくさせたシャルロットは、千冬の事は箒に任せるとアイコンタクトで伝える。その意思を受け取った箒は、ため息交じりに千冬を窘めた。
「興奮するのは良いが、一夏さんって確か甘い物をそれほど食べないんじゃなかったか? ケーキを持っていくのは構わないが、一緒に食べてくれるかは別問題だろうが」
「そうだったな……かといってビターなチョコレートケーキを持っていたところで、私たちが食べたいと思えないし……」
「やはりプレゼントだけで良いんじゃないか? 一夏さんが今一番欲しがっている物をリサーチして」
「一夏兄が一番欲しがっているもの……私の初めてか!」
「馬鹿も休み休み言え!」
千冬の本気ともボケともとれる発言に呆れながらも、箒は全力でツッコミを入れる。そんな二人を見て鈴がケラケラと笑い出す。
「ほんとアンタたちの漫才は見てて飽きないわねー。ネタが毎回似てるのは気になるけど」
「漫才ではない! 私は本気で一夏兄に初めてを捧げたいと――」
「お前はいい加減にしろ!」
「千冬さんはアブノーマルな考えの持ち主ですわね。血のつながった兄と結ばれたいなんて」
「相手が普通の兄だったら私もそんなことは考えなかっただろうが、あの一夏兄だぞ? 世界中の殆どの女が魅了される一夏兄なんだぞ? そういう事を考えても仕方ないと思わないか?」
「ど、どうなんでしょう……」
あまりの剣幕にセシリアは首を傾げて誤魔化した。ますます勢いを増す千冬の剣幕を前に困った表情を浮かべると箒が千冬の頭を引っぱたいた。
「お前のような危ない思考を正当化するような奴が大勢いて堪るか! だいたいお前は昔から異常だと言われていただろうが!」
「言っていたのはお前だろ? 束さんは私が正しいと言ってくれてるぞ」
「一夏さんがおかしいと思ってる事を知ってるのか、お前は?」
「一夏兄が、私の事を想ってくれてるだと!?」
「都合のいい編集をするな!」
「かなり都合のいい耳してるよね、千冬って」
「昔からだからね」
箒の怒涛のツッコミを前にしても屈しない千冬を、鈴は楽し気に、シャルロットは割かし本気で心配しているような表情で眺めたのだった。
漫才に見えなくもないんですよ……