IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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これは仕方ない……


セシリアの癇癪

 約束の時間になっても現れなかった千冬たちを探しに、セシリアは寮内をうろうろとしていた。

 

「まったく。文化祭の件で話し合う事があるからと言っておきましたのに……千冬さんも箒さんもラウラさんもシャルロットさんも何処にいるのでしょうか」

 

「オルコット」

 

「お、織斑先生!? な、何の御用でしょうか」

 

「さっきから何キョロキョロしながらうろうろしてるんだ?」

 

「い、何時から見られていたんですの!?」

 

 

 自分が怪しい動きをしていたと言われ、セシリアは恥ずかしさと同時に何時から見られていたのかという疑問が湧き出た。

 

「向こうから歩いてきたんだから、少なくともその時からは見てたな」

 

「は、恥ずかしいですわ……」

 

「それで、誰かを探してるのか?」

 

「はい……千冬さんたちと文化祭の出し物の件で詰めておかねばいけないことがあったので、放課後教室で話し合いましょうという約束をしていたのですが……約束の時間になっても現れないのでこうして探しているのですが」

 

「織斑たちなら、織斑の部屋にいるぞ」

 

「何でですかっ!?」

 

「いや、何でかを私に聞かれても分からないが、四人の気配は織斑と篠ノ之の部屋にある。ついでに凰もいるみたいだがな」

 

「教えてくださってありがとうございます、織斑先生。早速部屋に行って約束をすっぽかした理由を問い詰めてきますわ」

 

「派手に騒がない限り目を瞑ってやろう」

 

 

 一夏に一礼して、セシリアは千冬たちの部屋へ向かう。一時間以上待ちぼうけを喰らったのだから、多少苛立ちが足音に出たり、気配に怒気が混じっていても仕方がないだろう。

 

「ちょっとよろしいかしら?」

 

『セシリアか? いったい何の用だ?』

 

「っ!」

 

 

 扉を叩き声をかけると、何の用件で来たのか分かっていない箒の返答があった。それを聞いたセシリアは、さすがに我慢出来なかった。

 

「何の用だ、ではありませんわ! 放課後、文化祭の出し物の件で話し合いましょうと言いましたわよね? それを忘れてこんなところで何をしているのですか! 一時間も待ったのですよ、私は!」

 

『文化祭の件? ……あぁ、そういえばそうだったな』

 

 

 悪びれた様子もなく、完全に忘れていたとあっさり認めた箒に、セシリアはISを展開して攻撃したい気持ちに駆られたが、そんな事をすればさすがに一夏に怒られると思い止まり、扉を開け箒の脛を蹴り上げるだけに留めた。

 

「千冬さんもラウラさんもシャルロットさんも、私との約束をすっぽかしてこんなところで何をしていますの!」

 

「文化祭より一夏兄の誕生日の方が重要だからな。すっかり忘れていた」

 

「私も、一夏教官に何を贈れば良いのか考えていた所為で、セシリアとの約束をすっかり忘れていた。ついでに、シャルロットに伝えるのも忘れていた」

 

「ボクがちゃんと聞いていればさすがに注意したよ?」

 

「だから忘れていたのだ。一夏教官の事とその他の事を比べるなどありえないが、比べたとしても圧倒的に一夏教官の事の方が重要だからな。だからすっかり忘れていた」

 

「そうですか……私との約束は些末事ですか」

 

「セシリア? あんた小刻みに震えてるけど」

 

 

 セシリアが怒りに身を震わせているのに気づいた鈴は、一歩引いたところに移動した。クラスの違う自分がセシリアの癇癪に巻き込まれるのを避けただけなので、鈴は悪くないだろう。

 

「四人とも、そこに正座なさい!」

 

「「「「せ、正座?」」」」

 

「早くっ!」

 

 

 あまりの癇癪に、四人は慌てて正座をしてセシリアの言葉を待った。

 

「シャルロットさんはラウラさんから聞かされていなかったという事で仕方ありませんが、お三方は言い逃れが出来ないですわよ? 私が直接伝えたのですから」

 

「せ、セシリア? 私たちが悪かったから、落ちついてくれ」

 

「いいえ、落ちつけませんわね。罰として、文化祭当日にお三方には校門でビラ配りでもしていただきましょうかね」

 

「それくらいなら別に――」

 

「恥ずかしい水着で」

 

「水着だと? そんな事一夏兄が許すわけ無いだろうが」

 

「約束をすっぽかした罰だと言えば、織斑先生もお認めになってくださるのではないかしら? あのお方は誠実な人ですので、私の気持ちも理解してくれるでしょうし」

 

「わ、私たちが悪かった。だから、な?」

 

 

 女子校とはいえ、文化祭には男性も訪れる。学園が招待した企業の人間はだいたい男性だし、生徒が招待した中にも男がいてもおかしくはない。そんな人たちの前で水着姿で客引きなど、三人は考えただけで恐怖したのだ。

 

「それが嫌なのでしたら、千冬さんと箒さんは調理を、ラウラさんは接客を目一杯頑張っていただくことになりますが?」

 

「分かった。他の追随を許さぬ料理を作ろうではないか」

 

「私も。精一杯客をもてなそう」

 

「ボクも一応頑張るよ」

 

 

 こうして完全にセシリアのペースに呑み込まれ、四人は文化祭当日目一杯こき使われることになってしまったのだった。




一夏が大事なのは分かるけどさ……約束は守れよ

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