IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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微妙になってしまうのも仕方がないのかもしれないが……


気まずい空気

 とりあえず文化祭の出し物は決まったが、一年一組の教室には微妙な空気が漂っていた。

 

「千冬、この空気はお前の所為だろ」

 

「私が悪いのか? 一夏兄を巻き込んで客を招こうとしたやつらが悪いんじゃないのか?」

 

「まぁどちらも悪いとは思いますが、千冬さんがあそこまで癇癪を起すとは思っていなかったのではありませんかね」

 

「確かに。千冬の事を何となく知ってるボクたちですら、ちょっと驚いたもん」

 

「しかし一夏教官を使って客を増やそうなど、一夏教官に怒られても仕方なかった事だぞ。それを千冬が怒った事で一夏教官は千冬を注意するだけで済んだんだから、褒められこそしても文句を言われる筋合いは無いと思うのだが」

 

「おりむ~の怒号程度で済んだって思える人と、そうじゃない人の差だと思うよ~」

 

 

 千冬の本性を知っている人間からすれば、あのような提案をすればどうなるかは簡単に分かる。千冬が一夏の事を兄以上だと思っている事は、割と有名な事なのだ。だがそれでもあのような意見を出す人間は存在するし、まさかその程度であそこまで怒るなど思っていなかったのだろう。

 

「とりあえず千冬さんは、後程クラスメイトの皆さまに説明をしておいてくださいませ。何時までもこの微妙な空気のままでは、山田先生の精神衛生上よろしくありませんので」

 

「何故私が山田先生の精神を気にしなければいけないんだ。本来止めなければいけないのは山田先生だろうが」

 

「あの先生にクラスの暴走を止められると思ってるのか?」

 

 

 箒の一言に、千冬は思わず納得してしまう。本人が聞いていたらかなりのショックを受けただろうが、幸いにしてこの会話は真耶には聞かれていないし、この場にいる全員が箒の言葉に納得している為、誰一人真耶に伝えようとは思っていなかった。

 

「とりあえず織斑せんせ~が怒る展開にならなかったのは良かったよね~。あの人が怒ると、おちおちお昼寝も出来なくなっちゃうし~」

 

「その程度で済むお前が凄いが、確かに一夏教官が怒ると大変な事になるからな。クラスメイトたちはその事を理解していないのか?」

 

「普段怒られることが無いし、織斑先生ならあの程度で怒らないって思ってたのかな?」

 

「例えこの場が穏便に収まったとしても、当日に偉い事になりそうだがな……例えば、ウチの姉さんが乱入してきて、一夏さんが作った料理を全て平らげるとか」

 

「あり得そうだな……あの人は多分、さっきのやり取りも覗き見してただろうから、一夏兄が料理を作るとなれば、全てを蹴散らしてでもやってくるだろうし……そして一夏兄にこっ酷く怒られる事になってただろうな」

 

「幾ら篠ノ之博士でも、そこまでするとは思えないのですが?」

 

 

 束の事をよく知らないセシリアが疑問を呈すと、千冬と箒は同時にため息を吐き、セシリアに憐みの視線を向ける。

 

「な、なんですの?」

 

「いや、セシリアはまだ姉さんに憧れを懐いているのかと思ってな……」

 

「あの人に憧れるなんて止めた方が良いぞ。確かに尊敬出来る部分が皆無というわけではないが、あの人の大半は真似したら怒られるような成分だぞ」

 

「成分って……確かに箒たちの話を聞く限りでは、篠ノ之博士は問題児のようだけど、ISに関係する人間からすれば、憧れの対象になっても仕方ないと思うんだけど」

 

「確かに研究の成果だけは認められても仕方ないと私も思っている。だが一夏さんへの迷惑行為や衛星をハッキングして四六時中覗き見されてる身とすれば、尊敬出来るなどと微塵も感じないのだ」

 

 

 箒の心からの言葉に、千冬以外のメンバーは言葉を失う。前々から聞いてはいたが、どこかで冗談なのではないかと思っていた節があったのだが、今の箒の言葉には実感が篭り過ぎていたのだ。

 

「兎に角、千冬さんにはクラスメイトへの説明義務がありますので、よろしくお願いしますわね」

 

「めんどくさいな……いっそのこと束さんにクラスメイト全員を洗脳してもらって、一夏兄に手伝わせようとした事など忘れてもらった方が早いんじゃないか?」

 

「そんな事をすれば、ますます一夏さんに怒られるぞ?」

 

「そうだな。束さんだけが怒られるなら別に構わないが、私まで怒られることになりそうだから、この考えは却下だな」

 

「恐ろしく自分本位だな……兎に角、授業が円滑に進まないと、どっちにしろお前が怒られる事になるんだから、しっかりと説明しておけよ」

 

「おりむ~が蒔いた種なんだから、自分で処理しなきゃね~」

 

「そうかもしれないが、本音に言われるのはなんだか釈然としない気も……」

 

 

 しきりに首をひねりながら、千冬がクラスメイトたちに説明しに別の集団に加わっていった。その後姿を見ながら、確かに本音に言われるのは納得出来ない気がしないでもないなと、箒とラウラは本音の事を見詰めながらそんな事を思っていたのだった。




千冬の言う通り、本音にだけは言われたくないな

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