IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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盛大に地雷を踏み抜いたな……


千冬の癇癪

 ラウラの意見を板書しながら、セシリアはラウラにその意味をちゃんと理解しているのかを尋ねる。

 

「ラウラさん。メイド喫茶というものがどういうものなのか、しっかりと把握していらっしゃるのですよね?」

 

「当然だ! 何か給仕の衣装を着ながら接客するんだろ? 前に副官から非常に素晴らしいものだと聞かされて興味があるのだが――」

 

「アイツか……」

 

 

 ラウラが何処でそんな知識を身に着けたのか気にしていた一夏が、その犯人を知り盛大にため息を吐いた。自分が何かいけないことをしたのかと不安そうな目を向けてくるラウラに、一夏は何でもないと軽く手を振ってラウラを落ち着かせた。

 

「メイド喫茶か~。あっ、そういえば本音って本職のメイドさんじゃなかったっけ?」

 

「私はあくまでかんちゃんのメイドさんだから、不特定多数の相手に給仕はしないよ~? というか、メイド服も着ないし~」

 

「まぁ本音だしね~」

 

「どうせ何時もの着ぐるみみたいなのを着てるんでしょ~?」

 

「あれは動きやすくて良いのだ~!」

 

「動きやすいのか、あれ?」

 

「私に聞かれても分かるわけ無いだろうが」

 

 

 本音の発言に眉を顰めた千冬と箒だったが、その真相を確かめたいとは思わなかった。本音が動きやすいと思っているのならそれでいいのではないかと思ったのと同時に、間違っても自分があれを着る流れになるのを避けたかったからだ。

 

「確かにメイド服は可愛いかもしれないけど、男子がいないIS学園でメイド喫茶をやっても盛り上がらないんじゃない? 織斑先生が執事服を着てくれるなら別だけど」

 

「「「それだっ!」」」

 

 

 何やら雲行きが怪しくなってきたと、千冬と箒、そして本音は一切口を開かないよう心掛ける。下手に発言をして一夏に怒られるのを避けようとしたのと、一夏の執事姿を見てみたいと間違っても発言しないように真一文字に口を閉じた。

 

「一夏教官が参加してくれるなら、接客よりも調理だと私は思うが」

 

「調理? 織斑先生を全面的に押し出した方が受けがいいと思うんだけど」

 

「教官は料理の達人だからな。学生レベルなら太刀打ちできないくらい美味しいと、前に千冬から聞いたことがある」

 

 

 千冬たちの心境など構いもせず、ラウラが千冬に話題を振ってきた。ラウラに恨みがましい視線を向けそうになったが、ラウラはその事に気付いていないのだから仕方ないと思い直し、千冬は端的に答えた。

 

「確かに一夏兄の料理は絶品だが、文化祭はあくまで学生の祭りだろ? 教師である一夏あ――いや、織斑先生が手を貸したらその前提条件が破綻するんじゃないか?」

 

「それもそうだな……その事を失念していた」

 

「随分とあっさり諦めちゃったけど、ボーデヴィッヒさんだって織斑先生の料理、食べてみたいんじゃないの?」

 

 

 千冬がホッと息を吐いたのも束の間、クラスメイトが更にラウラを煽り始める。先ほど千冬が言葉を詰まらせたのも、一夏の機嫌が傾き始めているのを感じ取ったからなので、これ以上一夏の機嫌が傾かないように穏便に話を済ませたはずだったのにと、千冬はクラスメイトに殺気を飛ばした。

 

「一夏兄の料理を食べていいのは私だけだ!」

 

「おい千冬、落ちつけ」

 

「これが落ち着いてられるか! 不特定多数の人間に一夏兄の料理を振る舞えだと? 調子に乗るのも大概にしろよな!」

 

「織斑、落ちつけ」

 

「っ! ……申し訳ございませんでした、織斑先生」

 

 

 自分が怒ることで一夏の怒気を下げさせるのと同時に、千冬は本気で怒っていた。何時ものブラコン発言だと箒は受け取ったし、千冬と親しくしているセシリアやシャルロット、ラウラや本音は千冬の本心を正確に受け取ったが、それをクラス全員に求めるのは酷だった。

 

「ご、ゴメンなさい……」

 

「織斑さんがそこまで怒るとは思って無かった……」

 

「いや、私も言い過ぎた」

 

「……で、では一年一組の出し物はメイド喫茶(織斑先生は手伝わない)でよろしいですか?」

 

「問題は無いと思います」

 

 

 セシリアが問い掛け、シャルロットがそれに答えたことで、クラスメイトたちは大人しくその意見に賛成する事になった。わざわざ注意書きまでしたのは、間違っても準備を進めている間に一夏に手伝ってほしいという意見が復活しないようにしたことであり、クラスの半分以上はその事を理解していた。

 

「というわけで山田先生。当日の火の元の管理などはお願いいたしますわね」

 

「わ、分かりました。何処まで役に立てるか分かりませんけど、精一杯務めさせてもらいます」

 

「何で山田先生まで緊張してるんだ?」

 

「それだけお前の剣幕が凄かったという事だろ」

 

「私語は慎め」

 

「「す、すみませんでした」」

 

 小声で話していたにもかかわらず聞かれていたのかと、千冬と箒は殴られた頭を抑えながら一夏に謝ったのだった。




カッコの中が重要

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