IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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一夏にもちゃんと益はあるんです


ギブアンドテイク

 まずは箒からという事で、千冬はピット内で箒が準備しているのを眺めていた。

 

「次はお前だというのに、全然緊張してる様子が無いな」

 

「さっき一夏兄に言われた時は緊張したけど、別に勝とうが負けようがクラス代表はアイツがやるんだから、緊張する必要もないだろ」

 

「まぁ、そうだな」

 

 

 食堂でクラス内で賭け事が行われている事を聞いた時は少しプレッシャーを感じたのだが、結果がどうあれクラス代表をやらなくて済むと分かったからか、千冬も箒も緊張している様子は見られない。

 

「しかし、一夏さんを怒らせるとは、あのオルコットとかいう奴も無謀というかなんというか……」

 

「普通なら消されてもおかしくない程調子に乗ってるからな」

 

「簪と同じとは思えない程、外国の代表候補生というのは偉いのか?」

 

「そんなことはないだろ。むしろ一夏兄が連覇しているんだから、日本の代表や代表候補生の方が質が良いと思うのだが」

 

 

 試合前だというのに緊張感のない話をしていた所為か、プライベート・チャネルに真耶からアリーナに出るように通信が入った。

 

「おっと。こんなに時間が経っていたのか」

 

「勝ってこい、とは言わないが、無様に負けるなよ」

 

「当たり前だ。一夏さんに指導してもらったのだから、無様に負ける事だけは何とか避けてやるさ」

 

 

 千冬の激励に片手を上げて応え、箒はピットからアリーナへと飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニター越しに観戦している真耶は、箒の闘い方を見て息をのむ。

 

「この戦い方って、一夏先輩が現役の時にしていた動きですか?」

 

「どこかで映像でも見たのだろう。ヤツの動きの基本は、俺が現役の頃にしていたのと似ているところがある。だが、似ているというだけで完全に模倣は出来ていないからな」

 

「ですが、ISに乗り始めたばかりの子が出来る動きではありませんよね?」

 

「俺の動きもそうだが、箒の動きも元となっているのは剣道や剣術の動きだ。相手の呼吸を読み、そこからどう動いてくるかを予想し、先に仕掛けるか後の先を狙うか、それだけだ」

 

「そうだったんですか……でも、昨日一昨日と篠ノ之さんと織斑さんに稽古をつけていたんですよね?」

 

「少しだけだ。いくらモニターを見ている必要がないとはいえ、あの場を長く離れるのは得策ではないからな」

 

「他の人に頼めばいいじゃないですか。今だって代わりの人が監視してるわけですし」

 

「長時間モニターを見ていると気持ち悪くなるだろ」

 

 

 一夏なら途中で目を離しても問題ないが、他の人間だとそう言うわけにはいかない。大人数を雇って交代制で監視させるより、一夏一人で担った方が、経済的にも健康的にも良いのだ。

 

「確かに、私も一度一夏先輩の代わりに監視していたことがありますが、途中で気持ち悪くなりました」

 

「俺がここに来るまでは三人体制で監視していたそうだが、俺が来てから侵入者の数が増えたと言われてな。住処を用意してもらう代わりに、監視を引き受けたんだ」

 

「一夏さんが普通に生活していたら、それだけで騒動になりますからね」

 

「そんなに有名だとは思っていないのだが」

 

 

 一夏が学園内に住んでいる理由の一つが、ご近所トラブルを避けるためというのがあるのだ。一夏自身はそれほど有名だとは思っていないのだが、ただでさえ男性で唯一ISを動かせるという特徴があるのに、モンド・グロッソ連覇に加えてこの見た目も相まって、知っている人間が見つければすぐに人垣ができてしまうのだ。熱狂的なファンなら、ストーカー紛いの事をして家を突き止めるという事くらいするかもしれない。

 そんなこともあって一夏は平穏な生活を提供してもらう代わりに、学園内の監視と訓練機の定期メンテナンスを引き受けているのである。

 

「俺の事は良いから、しっかりと試合を見ていろ。万が一の時に試合を止めるのはお前なんだぞ」

 

「そんなこと言っても、殺傷力を最低まで下げているのですから、万が一が起こっても怪我で済みますよ」

 

「肉体的なダメージを心配しているのではなく、精神的なダメージを心配しているんだ。仮にも代表候補生だ。箒が致死性の高い攻撃を仕掛けた所為でISに乗るのが怖くなって引退、などという事になればイギリス政府から抗議文書が送られてくるだろ。その対処が面倒だからな」

 

「競技用とはいえ、ISを使った犯罪組織とかもあるくらいですからね……殺傷力があるという事を忘れがちな子は少なくないと政府も心配していましたし」

 

「そう言うわけだから、お前がやり過ぎだと判断したらそこで試合を止めろ。どうやら、あの馬鹿は浮かれているようだからな」

 

「浮かれている…ですか?」

 

「オルコットの攻撃を躱し続けて自信がついてきたんだろうが、隠し玉にどう反応できるかが勝負の分かれ目だろう」

 

 

 箒の何処を見て浮かれていると判断したのか、真耶には分からない。だが、付き合いの長い一夏がそう判断したのだから、彼女は浮かれているのだろうと思い、この先の展開が気になって仕方なくなってしまったのだった。




説明しないでも分かるかと思ってたんですが、どうも説明不足感が否めなかったので

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