IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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実力者の多い空間だなぁ


楯無以上の実力者

 消灯時間を過ぎてから、楯無は寮を抜け出し一夏の部屋を目指した。そもそも楯無が本気で隠れようとすれば、一夏と虚以外で楯無の事を見つけ出せる者はこの学園にはいないのだ。――昨日までは。

 

「こんな時間に寮を抜け出したらいけないんじゃありませんか?」

 

「誰っ!? って、碧さん……何でこんな所に?」

 

「私の生活空間はナターシャ・ファイルスさんとは別で、織斑君の生活空間の側にあるんです。だから、こうやって楯無様の気配を掴んで、こっそりと背後に現れる事も可能だという事です」

 

「そりゃ碧さんが本気を出したら、私や虚ちゃんでは太刀打ち出来ないですからね。年齢の差では片付けられない程の実力差がありますし」

 

「私はこっちが専門ですから。ところで楯無様、このような時間に織斑君の部屋を訪ねる理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「碧さんの生活空間の場所を聞きに来たんだけど、もう分かったから大人しく戻ります。一夏先輩にもそう伝えておいてください」

 

 

 部屋を訪れる理由が無くなってしまったので、楯無は素直に部屋に戻ることにした。その背中が完全に見えなくなり、気配も寮内に戻ったのを確認してから、碧は誰もいない闇に話しかけた。

 

「随分と刀奈ちゃんに慕われてるんですね」

 

「アイツが小学生の頃からの付き合いだからな。襲名問題にも力を貸した所為で、未だに相談事を持ち込まれたりしている」

 

「刀奈ちゃんや虚ちゃんにとって、織斑君は外部で唯一信用にたる大人なんだろうね」

 

「信用してくれてるのは嬉しいんだが、些か面倒事が多すぎるんだがな。まぁ、学園の生徒である内は力を貸すが、卒業後は気軽に相談されても手を貸せないという事を分かっているのか、アイツは」

 

「本気で織斑君を更識家に抱き込めないか計画してるみたいだから、解放されるのは当分先だと思うわよ」

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 本気で嫌がっている様ではないが、出来る事なら止めて欲しいという雰囲気が伝わってきて、碧は一夏に同情的な視線を向ける。

 

「篠ノ之博士といい、妹の千冬ちゃんといい、楯無様といい、織斑君は女性に振り回される運命なのかもね」

 

「その面子に何故千冬が入っているのか、あえて追及はしない。恐らくは想像通りだからな」

 

「分かってるなら、何とかしてあげるのがお兄ちゃんの役目じゃないのかしら?」

 

「何を言っても聞かないからな……他は素直に聞き入れてくれるんだが」

 

「まぁ、織斑君を基準にしちゃったら、そこらへんの異性に興味が向かないのも仕方ないと思うけど」

 

「実の兄なんだがな」

 

 

 千冬が自分の事を異性として意識している事に気が付いている一夏としては、そこだけはなんとしても矯正しなければとは思っているのだが、色恋に関しては自分も人の事を言えるほどの経験が無いので、どう諭せばいいのかが分からないのだった。

 

「とりあえず、成人するまでは面倒を見ると決めているが、そこから先は自力で何とかしてもらわないとこちらも困るんだがな……まずは正常な思考を持ってもらわないと、社会に出た時に困ることになると分かっているとは思うんだが……」

 

「普通のブラコンとはちょっと違うもんね、千冬ちゃんのは」

 

「家族の愛情とは違うからな……だが、普通に考えれば実兄など恋愛対象にならないんじゃないのか?」

 

「さぁ? 私は一人っ子だし、そういった妄想に励む趣味もなかったし」

 

「五反田君の妹は、あまり兄の事を好きそうではなかったが」

 

「この間簪ちゃんと本音ちゃんと一緒にいた兄妹ね。確かに仲は良さそうには見えなかったわね」

 

「千冬曰く、あの家では五反田君が一番下らしいからな」

 

「そうなの? その子も大変ね」

 

 

 弾の家庭事情までは知らない二人は、それほど酷い事ではないのだろうと思い、それだけで済ませた。実際に五反田家の事情をもっと深くまで知っていれば、もう少し弾に同情したかもしれないが。

 

「とりあえず刀奈も部屋に戻った事だし、あまり公にうろうろされるとこちらとしても困るから、小鳥遊は自分の部屋に戻ってくれ」

 

「大丈夫よ。気配を偽ってるし、織斑君レベルの達人じゃなきゃ、そう簡単に見つかるつもりもないしね」

 

「そういう事を言ってるんじゃないんだがな……」

 

「分かってるわよ。それじゃあ織斑君、おやすみなさい」

 

 

 そう言い残して、碧は自分が生活している空間に姿を消した。完全なる異空間なので、一夏でも彼女の気配を掴むことは出来ない。それを確認してから一夏も部屋に戻ることにした。

 

『随分と楽しそうに話すわね。浮気はダメよ?』

 

「浮気も何も、俺は誰とも付き合ってないし、結婚もしていない」

 

『あら? だったら私がダーリンの彼女になってあげようかしら?』

 

「御免被る」

 

 

 飛縁魔のからかいを受け流し、一夏はため息を吐きながら部屋の扉を開けたのだった。




一夏に彼女が出来る日は来るのか

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