IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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これくらいは朝飯前


新たな異空間

 一夏に案内され、碧はナターシャとはまた別の異空間にやってきていた。

 

「これが篠ノ之束の研究の成果……これだけのものを作れるなら『天才』の称号も伊達じゃないわね」

 

「アイツの研究の大半は役に立たないガラクタで終わることの方が多いから、そんな大それた称号をくれてやる必要は無いと思うんだがな」

 

「それは織斑君が彼女と同レベルで凄いから言える事で、私のような凡人からすれば、やっぱり凄い人なのよ、篠ノ之束って人は」

 

「お前が凡人だとは思えんがな……」

 

 

 束が作り上げた装置を動かしながら答える一夏に、碧は含みのある笑みを見せる。その笑みの意味を理解して、一夏は苦笑いを浮かべる。

 

「織斑君が私の実力を知ってくれてるなんてね」

 

「一応学園の警備を任されてる人間としては、周辺を嗅ぎまわっている人間の事を調べるのは当然だと思うが? まさか更識の人間だったとは思わなかったし、こうして顔を合わせる事になるとも思って無かったがな」

 

「気配だけで相手の実力を計れるなんて、やっぱり普通じゃないね、織斑君も」

 

「甚だ不本意ではあるが、普通の範疇に収まってないのは自覚している。だが束と同じだと思われるのだけは勘弁願いたい」

 

「世紀の大天災と同じだって思われるのは、確かに嫌なのかもしれないけど、それだけ織斑君が凄いって事なんだから諦めたら?」

 

「アイツと同レベルで変態だと思われることを受け入れろと? そんな事絶対に出来ん」

 

「変態って……」

 

 

 一夏のセリフが面白かったのか、碧は口元を隠しながら笑う。一夏としては笑わせる意図など無かったので、いきなり碧が笑い出したことに驚いた表情を浮かべた。

 

「何がそんなに面白かったんだ?」

 

「だって、あの天才篠ノ之束の事を変態だなんて言えるのは、世界広しと言えども織斑君だけでしょ? そして、その評価が言い得て妙だったからつい……」

 

「そう思ったって事は、少なからずお前もアイツの事を変態だって思ってるという事だろ? というか、世界中の人間がアイツの事を変態だと思ってるんじゃないのか? アイツは衛星を駆使してまで人の事を追いかけてくるストーカーだぞ」

 

「そんな裏事情を世界中の人が知ってるとは思えないけど? 私だって知らなかったし」

 

「そうなのか? アイツは常に俺と妹の箒の事を衛星で見ているんだぞ」

 

「心配性なだけじゃなくて?」

 

「トイレや風呂まで覗いてくる変態だというだけだ」

 

「それは……確かに変態だね」

 

 

 まさかそこまでとは思っていなかった碧は、それしか言えなくなってしまった。先ほどまでの余裕も無くなり、改めて篠ノ之束という人物が普通の人間とは違うという事を思い知らされたようだなと、一夏はそんなことを思っていた。

 

「さてと、小鳥遊の拠点だが、本当にこんなので良いのか? 土地の心配なんてしなくていいから、もっと大きな家でも可能なんだが」

 

「だって、広くたって人を招く事もないだろうし、何より掃除が面倒じゃない?」

 

「まぁそうだな……人一人生活出来るスペースがあれば十分だろうし、このくらいがちょうどいいのかもしれないな」

 

「織斑君が一緒に生活してくれるって言うなら、もう少し広くても良いけどね」

 

 

 碧の冗談に、一夏は肩を竦めるだけだったが、過剰に反応した人物がいた。

 

「あら。ダーリンと一緒に生活したいだなんて、私に吸い殺されたいのかしら?」

 

「冗談ですよ。というか、持ち主である織斑君は冗談だって受け取ったのに、どうして貴女は真に受けたのでしょうか?」

 

「だって、貴女からダーリンに向けて雌の匂いが発せられてるからね。まぁダーリンの魅力に抗える女がいるとは思って無いけど、あからさま過ぎるのだもの」

 

「そんなもの発してる覚えはないのだけど? 貴女が勝手に思い込んでいるだけじゃなくて? というか、織斑君にそんなもの発したとしても、まともに相手にされないのがオチだと思うけどね」

 

「どういう意味だ、それは」

 

「だって、織斑君の現状を考えれば、恋愛なんてしてる暇ないでしょ? だから、どれだけこちらが想いを寄せてようが、織斑君はそれに気づかないフリをするだけでしょ?」

 

「まぁそうだな。刀奈とかはあからさま過ぎるから、あしらうのが大変だが」

 

「刀奈ちゃんは本気で織斑君の事が好きみたいだからね。ご当主様の恋愛を応援するのも仕事なのかもしれないけど、今はとりあえず気づいていないフリをし続けてあげてね」

 

「何だかいい雰囲気ね……面白くないわ」

 

「何を拗ねてるんだ、お前は」

 

 

 一夏と碧との間に流れる空気に嫉妬した飛縁魔は、本気で面白くなさそうな表情でそっぽを向いた。そんな仕草をしたことなどあまりないので、一夏は飛縁魔が何に拗ねているのか尋ねたのだが、飛縁魔はそれに答えず、碧は面白そうに笑うだけだったのだった。




束を変態だと切り捨てられるのは、一夏が束より凄いから

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