IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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再びこの人が登場


更識の実力者

 待ち合わせの時間三十分前に学園を出た一夏は、なるべく人気が無い場所を進み、十分前には喫茶店に到着した。

 

「いらっしゃいませ。一名様でしょうか?」

 

「待ち合わせなんですが……まだ来てないようですね」

 

「然様ですか。では御席へご案内いたします」

 

 

 店員に案内され窓際の席に腰を下ろした一夏は、とりあえずコーヒーを注文して腕組みをし、視線を下に落とす。あまり人通りの多い場所ではないが、窓際に案内されたのは一夏としては不本意だが、勝手に席を移動するわけにもいかないので、顔が見えづらいように下を向いたのだった。

 

「お待たせいたしました。こちらホットコーヒーでございます」

 

「ありがとうございます」

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 

 店員と会話をする気が無いので、当たり障りのない対応をしてこの場を去ってもらい、一夏は時計を見てからコーヒーを一口啜った。ちょうどそのタイミングで、過去に感じたことがある気配が店に近づいてきている事に気が付き、一夏は視線を窓の外に向けた。

 

「いらっしゃいませ。一名様でしょうか?」

 

「待ち合わせなのですが」

 

「男性の方でしょうか?」

 

「はい」

 

「ではご案内いたします」

 

 

 店員も一夏の連れだという事を会話で理解し、その女性を一夏の席まで案内してきた。

 

「お連れ様がお目見えになられました」

 

「ありがとうございます」

 

 

 連れてこられた女性も、一夏同様にコーヒーを注文し、それが運ばれるまでは口を開くことはしなかった。

 

「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

 柔らかい笑みで店員に感謝を述べた女性は、一夏とは違いコーヒーに砂糖とミルクを入れてから一口啜り、満足そうにうなずいた。

 

「更識家の人間で間違いないな?」

 

「はい。楯無様からお聞きになっているのではありませんか?」

 

「一応、念の為にな。知ってるとは思うが、織斑一夏です」

 

「これはご丁寧にどうも。更識家諜報部門主任を務めております、小鳥遊碧と申します。以後、お見知りおきくださいませ」

 

 

 目の前に座る女性の名前を聞いて、一夏は高校時代のクラスメイトを思い出し、その相手と目の前の相手の顔が一致し、漸く腑に落ちたように頷いた。

 

「高校時代は顔を見た程度だったから分からなかったが、最近学園の周りをうろうろしている気配はお前だったのか」

 

「ご当主様は妹君様が在籍されている学園ですから、しっかりと見張らせていただいております。更識家の現情については、楯無様からお聞きになれらているとは思いますが」

 

「思いっきり巻き込まれている最中だ。というか、俺がその指摘をしたから仕方ないのかもしれないが」

 

「相変わらずですね。面倒事に好かれているのではありませんか?」

 

「そんなものに好かれたいとは思わんが、どうやらそういう星の下に生まれたらしい」

 

 

 非常に不本意ながらという表情で呟く一夏に、碧は同情的な笑みを見せた。

 

「この度は更識家の不始末に巻き込むような形になってしまい、誠に申し訳ございません。諜報担当として、ここに謝罪致します」

 

「別に謝る必要は無いし、刀奈だけで解決出来る問題でもないだろ。それに、アイツには味方が少ないから、どうなっても俺を巻き込もうとしただろうさ」

 

「ご当主様の本名をご存じなのですね――いえ、それも当然ですかね。何しろ楯無様が『楯無』を継ぐ際に手を貸したのは、貴方様でしたし」

 

「周りに相談出来る相手がいなかったんだろうな。まぁ、貴女のような人がいれば、俺なんか頼らなくても良かったのではないかとは思うが」

 

「いえいえ、私など下っ端ですから。ご当主様の相談役など務まるはずがありませんので。精々運転手がいいとこですよ」

 

 

 一夏は碧の言葉を謙遜と受け取った。先ほどから何度か仕掛けているのだが、碧はそれを危なげなく対処している。それだけ実力があるという証拠なのだが、碧はそれを表には出さずに力不足だと言っているのだ。

 

「それに、楯無様には織斑様や篠ノ之博士と言った表社会でも力のある方の手助けの方が必要ですから。私はあくまでも裏の人間ですから」

 

「……そういう事にしておこう」

 

「恐縮です」

 

 

 一夏が納得していない事は碧にも分かっていたが、そんな事は知らないといった表情で一夏に微笑みかける。

 

「布仏のお嬢様――本音さんはイマイチやる気が感じられませんので、僭越ながら私がフォローしていたという次第です」

 

「何となくそうではないかとは思っていたが、敵意があったら消していたぞ」

 

「そんな事はありませんのでご安心を。ご当主様が信頼を置く貴方様に敵意など持つはずがありませんので」

 

「白々しいやつだな。何度か仕掛けてきたくせに」

 

「あれはお遊びですよ。私程度の実力で、織斑様を傷つける事など敵いませんので」

 

 

 飄々と応える碧に、一夏は頼もしさと同時にやり難さを覚えたのだった。




このキャラも三作に跨って使ってるから、キャラ設定も楽ですわ

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