何とか自力で起きる事が出来た本音は、まだ覚醒しきっていない目をこすりながら中庭にやってきた。
「てかかんちゃん」
「なに?」
「おりむ~とシノノンは何処にいるの~?」
「六時に中庭で待ってるって言ってたから、この近くにはいると思うんだけど」
簪も本音も、気配察知はそれ程得意ではない為、側に誰かがいるか分からない時がある。もちろん、知らない相手に見られていたりすれば別だが、知り合いが側にいても分からないという時の方が殆どなのだ。
「なんだ、早かったな」
「まだ六時前だぞ?」
「おはよう。待たせたら悪いかなって思って早めに来たんだけど。奇跡的に本音も自力で起きたし」
「これでもやればできるんだからね~。ところで、二人は何時から運動してるの?」
「そろそろ一時間か?」
「そうだな。簪と本音を呼ぶんだから、何時もより念入りにアップをしておこうと思っていたから、それくらいだろう」
「つまり、五時から運動してるって事? 良く起きられるね~」
「本音と一緒にされたくはないと思うよ」
簪のツッコミに、千冬と箒は力強く頷いた。例え授業中に寝るとしても、本音みたいにギリギリまで寝ていて更に、というわけではないと言いたいのだろうが、簪からしてみれば、どちらも大して変わらないのだった。
「兎に角、二人も軽くアップした方が良いぞ。今日は瞬間加速の練習をしようと思っているから」
「瞬間加速? ISを使うの?」
「いや、生身でだ。一夏兄や束さん、そして昨日お前たちの姉さんたちも出来ると判明したからな。私たちも頑張れば出来るんじゃないかと思って」
「楯無様は何でもありかな~って思ってたけど、おね~ちゃんもなかなかに人外だね~」
「それは一夏兄や束さんも人外だと言っているのか?」
「だって、その二人は人外代表みたいな感じでしょ~? 生身でISの攻撃を受け止めたり、高速とも言えるスピードで突っ込んでくる相手を受け止めたり出来るんだし」
「それは主に一夏さんだな。姉さんはさすがに突っ込んできたら逃げるだろうし」
「そもそも助けようとはしないだろ、束さんは」
「確かに」
盛り上がる三人とは違い、簪はどう反応すればいいのかに悩んでいるように見えたが、とりあえず準備運動をしっかりしておこうとは思っているようだった。
「そういえばおりむ~とシノノンは、楯無様とおね~ちゃんとお話ししたんでしょ~? 何の話をしたの~?」
「お前らと仲良くしてくれてありがとうと言われたのと、これからも仲良くしてやってくれとか、そんな感じの話をな」
「まるで保護者だね~。まぁ、おね~ちゃんも楯無様も、私たちの事を心配してくれてるからね~」
「主に心配されてるのは本音でしょ」
「かんちゃんだって、楯無様に心配されてると思うよ~? なんていったって、楯無様はかんちゃんの事大好きだからね~」
「恥ずかしいから止めてって言ってるでしょ!」
「兄や姉が妹を心配するのは普通じゃないのか?」
「ウチのお姉ちゃんはちょっと過激なの!」
千冬からすれば普通だと思える事も、簪にとっては少し異常なのだろうなと、箒は二人のやり取りを聞いてそんなことを考えていた。
「ウチのおね~ちゃんは厳しすぎるんだよね~。もう少し余裕を持って行動しないと、いつの日かストレスで倒れちゃう気がするんだよね~」
「それはそうかもしれないが、お姉さんも本音には言われたくないんじゃないか? お前はもう少し緊張感を持って行動した方が良いと思う」
箒のツッコミに、簪と千冬も頷いて同意したが、言われた本音本人はあまり気にした様子は無かった。
「とりあえず、楯無様やおね~ちゃんの移動スピードが凄かったから、私たちもそれが出来るのか確かめたかったって事でいいのかな~?」
「「っ!?」」
「これくらい分からないと、暗部組織頭領の身内の護衛なんて出来ないよ~?」
「鈍そうで鋭いからね、本音は」
「それって褒めてるの~?」
「褒めつつ貶してる」
「酷~い!」
簪にじゃれつこうとした本音だったが、周辺にもう一人の気配を感じ取って勢いよくそちら側に振り向いた。
「誰っ!」
「気が付くのが遅すぎるんじゃないか? それで良く護衛だと言ってられるな、布仏妹」
「あっ、なんだ織斑せんせ~。かんちゃんたちの事を見守ってくれてたんですか~?」
「仲がいいのは良いが、今何時だと思ってるんだ。まだ寝てる生徒もいるんだから、あまり大声を出すな」
「「「ゴメンなさい」」」
「三人とも駄目だな~」
「お前もだ」
「ほえっ!?」
自分は言われていないと思っていた本音だったが、一夏に軽く叩かれて驚きの表情を浮かべる。そして何故怒られていないと思っていたのかと、三人から呆れた視線を向けられ、本音は誤魔化すように笑ったのだった。
そりゃ怒られるだろ……