IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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ある意味尊敬出来る……のかもしれない


本音の特技

 体育館に移動し、教師陣の説明を聞きながら、千冬と箒は欠伸を噛み殺していた。

 

「朝から身体を動かし過ぎたようだな」

 

「昨日までなら、部屋でのんびりしてるような時間だからな」

 

「二人はダメダメだな~。私のように、立ったまま寝られるようにならないと」

 

「そんな事が出来るのはお前だけだと思うぞ?」

 

 

 さすがに小声で話しているが、先ほどから一夏が怒っているような視線を自分たちに向けているので、千冬たちは大人しく前を向いて睡魔と戦っていた。

 

「――というわけで、二学期はいろいろと行事がありますので、皆さん気を抜かないように過ごしてください」

 

「漸く終わりか……ん? おい箒、あの人」

 

「何だいったい……あぁ、朝の人だな。本音、あの人が簪のお姉さんで、生徒会長兼ロシア代表の更識楯無さんなのか?」

 

「むにゃ~……」

 

「……本当に立ったまま寝てるぞ、こいつ」

 

 

 さっきまで起きていたはずの本音だったが、今は完全に寝ている。一方の二人は、楯無を見たことで完全に目が覚めたのだった。

 

「確かに言われてみれば、簪に何処となく雰囲気は似ているな」

 

「髪の色や瞳の色は同じだし、更識という苗字はそうそうあるものじゃない事を考えれば、あの人がそうなんだろうな」

 

「後で一夏さんに聞いてみるか? どうせ掃除の監視をするのは一夏さんだろうし」

 

「そう言えばそんな事もあったな……面倒だが逃げ出したら何をされるか分かったものじゃないし、大人しく掃除するとするか」

 

「すよ~……すぴ~……」

 

「ところで、こいつはどうするんだ?」

 

「放っておけばいいだろ。移動しないのを見れば、こいつが寝てると教師陣も気づくだろうしな。というか、既に一夏兄は気づいてるっぽいが」

 

 

 先ほどまでは自分たちも含まれていたのだろうが、今一夏の怒りの対象は本音一人に絞られていると千冬は感じていた。また壇上で本音に似ている女性が頭を押さえているのが視界に入り、あれが本音の姉なのだろうと同時に思ったのだった。

 

「確かにあの人は優秀そうな感じがするな」

 

「本音が自慢するのも分かるような気がする」

 

 

 移動しながらそんな話をしていた二人だったが、視界の端に移動する本音を見つけ、起きたのかと話しかけたが、そこで衝撃を受ける事になる。

 

「本音、いつの間に――」

 

「すぴ~……すか~……」

 

「コイツ、寝たまま移動してるぞ!?」

 

「むにゃ……五月蠅いよおりむ~……」

 

「あ、あぁ……すまない?」

 

 

 何となく頭を下げた千冬だったが、何故自分が謝らなければいけないのかと首を傾げ、強引に本音を起こす事にした。

 

「起きろ!」

 

「ほえ!? ……おりむ~? 何で私の部屋におりむ~がいるの~?」

 

「寝ぼけるな! ここは体育館だ!」

 

「ん~……そっか。朝会だったんだっけ」

 

「まったく……ところで、さっき壇上にいた二人が、お前と簪の姉さんたちか?」

 

「壇上? 先生たちが話してるのは覚えてるけど、おね~ちゃんや楯無様もいたの~? 気づかなかったよ~」

 

「まったくお前は――」

 

「そうだよ。さっきのが私のお姉ちゃんと、本音のお姉さんである虚さんだよ」

 

「あっ、かんちゃん」

 

 

 千冬たちの会話が聞こえたのか、簪が千冬の疑問に答える。本音は話しかけてきた簪に満面の笑みを向けるが、簪は疲れ切った笑みを返した。

 

「また立ったまま寝てたの?」

 

「だって、今日はまだ九時間しか寝てないのだ~」

 

「寝すぎだよ……というか、明日から普通に授業があるんだから、いい加減生活リズムを戻さないと」

 

「頭では分かってるんだけど~……」

 

「? 本音、どうかし――」

 

「すぴ~……」

 

「お・き・な・さ・い!」

 

「ほえっ!? かんちゃん、痛い!」

 

 

 再び寝始めた本音のこめかみに拳を押し付け、ぐりぐりと動かす簪。それを見ていた千冬と箒は、自分がされたわけではないのに思わず顔に手を当てて顔を顰めたのだった。

 

「そう言えば二人は、お姉ちゃんたちに会った事なかったんだっけ?」

 

「今朝軽く話したくらいだな」

 

「今朝?」

 

「あぁ。遅刻しそうなのを教えてくれたんだ」

 

「でも、二人が遅刻しそうだったって事は、お姉ちゃんも遅刻ギリギリだったって事だよね? 生徒会長がそれで良いのかな」

 

「特に問題なく会長職を全うしてるんだろ? だったら良いんじゃないか?」

 

「偶にサボったり、織斑先生に泣きついて手伝ってもらったりしてるみたいだし、ちゃんとしてるかどうかって聞かれたら困るとは思うけどね」

 

「一夏兄に泣きつく、だと……」

 

 

 簪の言葉を聞いた千冬の表情が、険しいものへと変わる。簪は何かまずい事を言ってしまったのだろうかと心配した表情になるが、箒は呆れた表情を浮かべ簪に説明をしてくれた。

 

「気にするな。何時ものブラコンスイッチが入っただけだから」

 

「あ、あぁ……そういう事なのね」

 

 

 千冬のこういう姿は何度か見たことがあるが、自分が引き金となった事は無かったので、簪は少し強張った表情のまま、ホッと一息吐いたのだった。




ラウラはシャル、本音は簪が世話係

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