IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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偶には真面目に働く本音


警戒心剥き出し

 着替えを済ませて一夏の許にやってきた簪は、珍しく本音が警戒心を剥き出しにしてるのに気が付き、苦笑いを浮かべて本音に話しかけた。

 

「何で織斑先生相手にそんな警戒してるの?」

 

「この織斑せんせ~が本物かどうか疑ってるだけ」

 

「偽物がいるの?」

 

「だって、私に気配を掴ませるなんて、本物の織斑せんせ~っぽくないから」

 

 

 本音の言葉に、一夏が苦笑いを浮かべて理由を話す。

 

「ずっと見ていたが、俺がいる事に気が付かなかったから気配を強くしただけだ。そうしたらお前が気づいてこっちに来ただけだろ。そもそも、俺の偽物がいるとは思えないんだが?」

 

「私はかんちゃんの護衛ですから。例え低い確率だろうと、無視は出来ません」

 

「なんなら、楯無や虚を呼んで証明してもいいんだが?」

 

「……分かりました」

 

 

 一夏相手に心理戦を挑むのは無駄だと理解して、本音は剥き出しにしていた警戒心を少し弱めた。もちろん、完全に一夏の事を信じたわけではないので、視線はいつもより鋭い物のままだ。

 

「やれやれ、布仏妹がここまで警戒心を懐くとはな……普通に話しかけた方が良かったか?」

 

「そもそも、織斑せんせ~が気配を消してなかったら、こんなに警戒しませんよ」

 

「それで織斑先生、私たちにどんな用があるんですか?」

 

「それ程大した用事ではないんだがな。ナターシャが身体が鈍って仕方ないと愚痴ってきたから、二人に相手をしてもらえないかと思って来ただけだ」

 

「ナターシャさんが? ですけど、ナターシャさん相手なら、お姉ちゃんの方が良いと思うんですが」

 

「楯無には今、ちょっと面倒な事を頼んでるからな。簪たちも忙しいとは思ったんだが、時差ボケで使い物にならない奴らよりかは手ごたえがあるだろうと思ってな」

 

「それって、かんちゃんじゃナターシャさんに勝てないって言ってるように聞こえますけど?」

 

「別にそんな意図があったわけじゃないさ。そう思ったのなら謝ろう」

 

 

 いつも以上に攻撃的な本音の態度に、一夏ではなく簪が戸惑う。普段ののほほんとしている空気とは違い、刺々しい空気を纏っている本音を、どう扱えば良いのか分からないのだ。

 

「訓練の相手が増えるなら、私としては嬉しいですけど……でも、試合となると私じゃ力不足だと思います。ナターシャさんはアメリカ軍で働いていた人ですし、ISの稼働時間だって私より圧倒的に長いわけですし」

 

「自分の実力を正確に把握しておくのも、成長する為には必要だと思うがな。実力者と戦い、自分には何が足りないかを確かめるいい機会だと思えば、多少は気が楽になるんじゃないか」

 

「そうかもしれませんね……お姉ちゃん相手じゃ勝てないって分かってしまいますから、挑もうとも思いませんし」

 

「そこでどうして楯無の名前が出てくるのか分からないが」

 

「だって、お姉ちゃんは織斑先生が指導したんですよね? 織斑先生の後釜として期待されていたんですから、かなり強いって事でしょうし」

 

「さてな。それじゃあ、ナターシャを連れてくるから、簪は息を整えるなり体力を回復するなりしておけ。さっきから隠そうとしてるが、呼吸が乱れてるのバレバレだぞ」

 

 

 その言葉に、本音が目を見張り、警戒を解いた。

 

「やっぱり何時もの織斑せんせ~だったね~」

 

「……どこで判断してるんだ、お前は」

 

「だって、呼吸の僅かな乱れなんて、ずっと一緒にいる私にも分からなかったのに、織斑せんせ~にはお見通しだったんですよね~? かんちゃんも驚いてるって事は、自分では完璧に隠せてるって思ってたんでしょ~?」

 

「というか、私は隠してるつもりは無かったんだけど。でも織斑先生の前で失礼だと思って、ちゃんと整えてから来たつもりだったんだけど、織斑先生からみれば、まだ若干乱れてたって事なんですよね?」

 

「布仏妹の警戒心剥き出しな態度に、俺ではなく簪が気を取られた結果ともいえるがな」

 

「本音が珍しいことするから」

 

「ごめんなさ~い」

 

 

 形だけの謝罪に、簪は呆れた表情で両手を広げた。

 

「そう言えば織斑せんせ~、最近おね~ちゃんたちと何を話してるんですか~?」

 

「さっき言っただろ。ちょっと面倒な事を頼んでると」

 

「私たちも関係者ですよ~? 教えてくれたって良いじゃないですか~」

 

「なら、虚にでも聞くんだな。俺からは何も言えない」

 

「おね~ちゃんが私に教えてくれるわけ無いじゃないですか~」

 

「なら諦めろ。進展があれば、その内話せるかもしれないがな」

 

「む~! 気になって朝起きられなくなっちゃうじゃないですか~」

 

「夜寝られなくなるんじゃなくてか?」

 

 

 本音の独特の表現に、一夏が驚いた表情を浮かべた。それが珍しかったのか、簪が思わず吹き出した。

 

「やっと笑ったな」

 

「はい?」

 

「難しい顔をしていたから、また何か悩んでるのかと思ったんだが、大丈夫そうだな」

 

 

 軽く簪の頭を撫でてから、一夏はナターシャを連れてくるべくアリーナを後にしたのだった。




護衛としては正しいのかもしれませんね

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