IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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本当に、何で使えないのか……


簪の疑問

 千冬たちの誘いを断って、簪と本音はアリーナで訓練をしていた。

 

「かんちゃん、断って良かったの? 織斑せんせ~も言ってたように、あの三人は大丈夫だと思うけど~?」

 

「まだ完全に警戒しなくて良くなったわけじゃないし、本音のように何も考えてないと良いのかもしれないけど、絶対に態度に出ちゃうからね。夏休みの間は、なるべく会わないようにしたいの」

 

「かんちゃんも大変だね~。あっ、ところで――」

 

「無駄口叩いてる暇は無いよ」

 

「――ちょっとかんちゃん!? 真面目な話をしようとしてたのに~」

 

 

 簪の攻撃を何とか捌いて、本音は息を切らして空中で立ち止まる。

 

「それで、真面目な話って?」

 

「ちょ、ちょっと休ませて~」

 

 

 まだ息が上がったままなので、本音は簪の問いかけに答えず、その場から地上に降り、ISを解除して倒れ込んだ。

 

「だらしないよ。それでも更識家の従者なの?」

 

「かんちゃんの攻撃を全て捌いたらこうなるって……そもそも、私はこっち方面は得意じゃないもん」

 

「本音は諜報だもんね。その纏ってる空気で相手の懐に簡単に滑り込み、情報を引き出すのが役目だったっけ?」

 

「今はかんちゃんの護衛がメインだけどね~っと。とりあえず息は整ったから、真面目な話、良いかな?」

 

「良いよ。それで、何?」

 

 

 本音が纏っている空気が変わったのを見て取った簪も、居住まいを正して本音を見詰める。

 

「最近楯無様やおね~ちゃんが織斑先生の所を訪れる回数が増えてないかな?」

 

「? それが真面目な話なの?」

 

「だって、楯無様だけなら兎も角、おね~ちゃんも一緒っておかしくないかな? ナターシャさんの事で織斑せんせ~に話しに行ってる感じでもないし」

 

「何処で見てたの、それ?」

 

「さっきかんちゃんも言ったでしょ~? 私は諜報がメインだって」

 

 

 つまり調べたのだと理解した簪は、一つの疑問に行きついた。

 

「それだけ調べられるなら、何で織斑先生の所を訪ねてるのかも調べられたんじゃないの?」

 

「織斑せんせ~の気配察知能力から逃れるためには、あれ以上近づけないんだよ~。だから、楯無様とおね~ちゃんが本当に織斑せんせ~と会っているのかは分からないけど、一回だけ後を付けようとして織斑せんせ~にバレて怒られたから、多分二人と会ってるのは織斑せんせ~だと思うよ」

 

「お姉ちゃんや虚さんが頼れる大人は織斑先生だけだから、それは本音も知ってるでしょ?」

 

「そりゃ知ってるよ~。あのお家騒動は、まだそれほど前の事じゃないもん」

 

「何か大きな問題が発生してて、そのお手伝いを織斑先生にお願いしてるんじゃないかな?」

 

「大きな問題って? 例えば?」

 

「IS学園で起こっているのか、更識家で起こってるのかで変わってくるけど……きっとお姉ちゃん一人じゃ解決出来ない何かがあるんだと思う」

 

「おね~ちゃんが手伝っても駄目って事は、かなり大きなことって事だよね? それが学園単位なら織斑せんせ~個人に相談なんてしないと思うから、多分更識家で起こってるんだと思う」

 

 

 本音の推理に頷き、簪は少し呆れたような表情を浮かべた、その表情の意味が分からず、本音は思わず首を傾げた。

 

「どうかしたの、かんちゃん?」

 

「何でその能力を勉強に使えないのかなって思って……」

 

「勉強は苦手なのだ~」

 

「まぁそれは知ってるけどさ……それで、ウチで起こってる大きな問題って? わざわざ織斑先生を巻き込んでるって事は、相当な事なんだよ?」

 

「それは分からないけど……そもそも例の裏組織のスパイが誰なのかもまだ分かってないんだし、織斑先生と連携を強化するのは悪い事じゃないとも考えられるんだよね~」

 

「本音がその気にさせといて、今までの会話、全否定なわけ?」

 

「難しく考え過ぎてるかもって思っただけだよ~。それに、本当にマズい状況になれば、さすがに私たちの耳にも入ってくるだろうし、今はシャルルンたちと普通に付き合えるようにする方が先決だよ~」

 

「本音のように、すぐに切り替えられないの、私は。というか、本音は何か知ってるんじゃないの?」

 

「何かって、何をさ~?」

 

 

 何時もと変わらない、能天気な本音の態度に、簪はイマイチ確信を持てずにいた。なんとなくではあるが、本音は真相を知っていて、それを自分に覚らせないようにしているのではないかと、簪はふとそんなことを思ったのだ。

 

「……いや、何でもない。本音がそんな事出来るわけ無いしね」

 

「むっ! 何を思ったのか分からないけど、かんちゃんになめられたような気がする」

 

「そう思われたくないんだったら、もっとしっかりと仕事した方が良いんじゃないの?」

 

「これでもちゃんとお仕事中なんだけどな~? かんちゃんの事を見てる人があそこにいるよ」

 

「私の事を? あれは、織斑先生……何か用なんだろうか?」

 

「私に気配を掴ませたって事は、多分用事があるんだと思うよ」

 

 

 急に真面目なトーンになった本音に呆れながら、簪は訓練を切り上げて一夏に会う事にしたのだった。




やればできる子なのに……

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