夏休みも終わりが近づき、海外で生活していた友人たちも日本に戻ってきた事を受けて、千冬と箒は友人たちを集めて軽いパーティーを開いた。
「まずは、合宿おつかれさん」
「ホント面倒だったわー。あたしに一夏さんの事を聞いてくる政府連中の相手は」
「何故鈴に一夏兄の事を聞くんだ?」
「あたしが一夏さんと知り合いだって知られてね。教師と生徒だって言っても信じてくれないのよね。あたしはほら、個人的にも一夏さんと会った事があるのバレちゃって」
「個人的って、私たちと遊んでる時に一夏さんが偶々やってきただけだろ? それが個人的に会っている事になるのか?」
「あたしに聞かれても知らないわよ」
不機嫌さ全開で千冬たちが用意したお菓子を食べる鈴を、ヨーロッパ勢は同情的な視線で眺めた。
「それはなんというか、大変でしたわね」
「一夏教官に興味を持つのは当然だと思うが、それで鈴の時間を奪うのは許せないな」
「ボクは実家の離れでのんびり過ごしてたから、なんだか鈴に悪いって思っちゃった」
「別にアンタたちが気にする事じゃないんだけどね。ところで、このお菓子ってどこで買ったの? 市販されているものにしては、ちょっと不格好だけど」
「買ってない。それは私と箒の二人で作ったものだ」
「ふーん。よっぽど暇だったのね、お菓子作りに手を出すなんて」
「どういう意味だ?」
鈴の言葉の意味が分からなかったラウラが、素直に鈴に尋ねる。
「身体を動かすでもなく、普通に料理するでもなくお菓子作りをしたという事は、もうある程度他の事を終わらせて時間が余ってたんじゃないかって思っただけよ」
「さすが鈴だな。私たちの事は、ある程度お見通しという事か」
「だいたい、アンタたちがお菓子作りをしたことなんて、あたしの記憶限りでも数えるくらいよ。それをしたという事は、暇だったんじゃないかって思っただけ。しかも、こんなパーティーみたいな感じで用意するって事は、相当暇だったんじゃないかってね」
「宿題も簪に教わりながらだが終わらせたし、二人で出来る訓練もあらかたしてしまったからな。一夏さんは忙しそうで稽古に手伝ってもらえる雰囲気ではなかったし。ということで、みんなが帰ってくる日を聞いて、二人で用意したというわけだ」
「一夏さん、まだ忙しそうなわけ?」
「むしろ、忙しさに拍車が掛かっているようにも思えたな。ここ数日一夏兄と会ってないのを考えると、かなり忙しいんだろう」
「織斑先生って、夏休みの間何してたのかな?」
「始めの方は銀の福音の件で忙しそうにしてる感じだったが、夏祭り後は違う事で忙しそうにしてる感じだったな」
「何故分かるんだ?」
ラウラの問いかけに、千冬は困ったような表情を浮かべ、そして少し照れながら答えた。
「確証はないが、兄妹だから分かる何か――としか言えないな。私自身も何でこんなことを思ったのか分からないし、昔からこういう事があるから、多分そうなんだろうなと思っているんだが……」
「まぁ何となくって事ね。とりあえず一夏さんはこの二ヵ月弱、ずっと忙しそうにしてたって事でしょ?」
「ざっくりまとめるとそうなるんだろうな」
「あら? そう言えば簪さんはどちらに? てっきり今日いらっしゃると思っていたのですが」
「簪と本音なら、なんだか用事があるとか言って断られた。あっ、そういえば一夏兄の忙しさの質が変わったのと、簪が少し付き合いが悪くなったのって、同じ時期じゃなかったか?」
「そんなこと聞かれても、私は一夏さんが忙しそうにしている事しか知らないから、何時質が変わったのかなんて分からないぞ」
千冬に問い掛けられた箒は、困ったように頬を掻きながら、千冬に答える。その答えを聞いた千冬は、思わず舌打ちをしたくなったが、自分にしか一夏の本質は理解出来ていなかったという考えに至り、少し嬉しそうな笑みに変わった。
「まぁ何かあれば私たちにも話が来るだろうし、今は残りの夏休みをどう過ごすか話し合おうじゃないか」
「残りって、もう数日しかないから、素直に休むわよ。今から出かける気分にもなれないし、そもそもあたしたちは、合宿疲れで遊ぶ気力もないわよ」
「何だ軟弱者め。あの程度の訓練でヘロヘロになるようなヤツ、我が軍にはいないぞ」
「あたしは別の事で疲れてるのよ」
「そう言えばそうだったな。む? シャルロット、それ食べないなら貰ってもいいか?」
「別にいいけど」
シャルロットが手をつけていなかったお菓子を目敏く見つけ、それを幸せそうに頬張るラウラを見て、全員が少し和んだ。
「この展開は何となく分かってるんだがな」
「ラウラって、癒し系よね」
「シャルロットさんが一番扱いに長けてますわよね」
「ボクも慣れたかったわけじゃないけどね」
「むっ? 私の顔に何かついてるのか?」
「何にも付いていないぞ。ところで、そのお菓子は美味しかったか?」
「うむ! 市販のとは少し違うのもまた良いぞ!」
自分たちが作ったお菓子を称賛してくれたラウラの頭を、千冬と箒は左右から同時に撫でたのだった。
ラウラがペットポジに……