IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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一夏も本格的に裏世界に……


相談相手

 真面目な空気を纏ったまま出ていった本音を見送り、楯無と虚は真面目な表情を浮かべて小さく息を吐いた。

 

「これで本音を巻き込むことが出来たけど、結局こっちは守りを固めるしか出来ないのよね……」

 

「証拠がありませんから、こちらから攻めに出る事は難しいですから。証拠もなく疑えば、それこそ敵にこちらを攻めるチャンスを与えるだけですからね」

 

「お父さんの身体を調べていれば、今と状況は違ったのかしら?」

 

「少なくとも、病死か毒殺かの判断はついていたと思いますが……」

 

「まったく、一夏先輩も物騒な事を考え付いてくれたわね……」

 

 

 書類を処理しながら、楯無は一夏に悪態を吐いた。もちろん本気ではなく、冗談だと分かる口調なので、虚も本気で楯無が一夏に悪態を吐いたと勘違いする事は無かった。

 

「そういえば一時期、更識家の財政が傾いたことがありましたが、あれって確か、楯無様が病床に臥せった後でしたよね?」

 

「そんなことあったわね……でもあれって、単なる計算ミスだったのよね?」

 

「それも今考えれば怪しいかと……あの報告をしてきたのは、反お嬢様一派の人間でしたし」

 

「つまり、更識家のお金を、何処か別の所に使っていたって事?」

 

「その可能性はあるかと……そもそも、今考えると怪しいことだらけでしたよね」

 

「お父さんが倒れて、お母さんがそれに続くように倒れ、ウチに依頼が沢山舞い込んで、その殆どを私や虚ちゃんに報告しないで進めたり……」

 

「織斑先生に相談した方が良さそうですね」

 

「でも、これ以上ウチの問題に一夏先輩を巻き込むのは……」

 

「そもそも織斑先生が発端と言っても過言じゃないですよね、今の状況は」

 

 

 虚の言葉に、楯無は反論出来なかった。一夏が父が毒殺されたかもしれないという考えを自分たちに教えたから、家の事で頭を悩ませなければいけなくなったのは確かなのだから。

 

「それじゃあ、この書類をさっさと片付けて、一夏先輩の部屋に行きましょう」

 

「ですが、私は織斑先生の生活空間を知りませんが」

 

「私が知ってるから大丈夫よ。それに、一夏先輩だって虚ちゃんになら教えても大丈夫だって判断するでしょうし」

 

 

 それだけ虚が信用されていると楯無も思っているので、特に深く考えずに虚を一夏の部屋に案内する事を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚を引き連れて部屋を訪れてきた楯無に、一夏はため息を我慢出来なかった。

 

「あのな刀奈……虚は俺の部屋を知らなかったはずだが?」

 

「別に良いじゃないですか。虚ちゃんは誰かに言いふらすような子じゃないですよ」

 

「それはそうだろうが……まぁいい。それで、わざわざ虚を引き連れて俺の部屋を訪ねた理由は」

 

「ちょっと相談したい事が出てきたので」

 

 

 そう前置きをしてから、楯無は改めて考えると不審なことだらけだった時期の事を一夏に話した。

 

「――という感じなんですが、一夏先輩はどう思います?」

 

「不審な点は幾つかあるが、俺にはどうしようもないな。更識家の経理は俺には手が付けられない。お前たちで調べるしかないぞ」

 

「じゃあ、一夏先輩を本家に案内して調べてもらえば良いんですね? 虚ちゃん、手引きしてもらえるように手配してくれる?」

 

「待て待て。そんなこと言われても俺だって暇じゃないんだ」

 

「何か問題があるんですか?」

 

「この間の銀の福音の暴走だが、裏で手引きしてる組織があると判明してな。そっちの対応で忙しいんだ」

 

「裏組織なら、ウチで調べますよ? まぁ、信用出来る人間が少ないので、それなりに時間はかかるかもしれませんがね。それで、その組織の名前は?」

 

 

 楯無の言葉に、一夏はため息を吐いて難しい表情を浮かべる。

 

「これ以上学生であるお前たちを巻き込みたくないんだが」

 

「今更ですよ。それに、私たちは最初からそっちの世界の人間ですから」

 

「まぁな……組織の名前は亡国機業。束が調べた限りでは、その内の一人はアメリカ軍内では死亡したことになっている人物だ」

 

「死亡した事になっている人物? どういう事でしょうか?」

 

 

 虚の質問に、一夏は束から貰った資料を差し出した。その資料に目を通して、虚は一夏が言っていた事に納得がいったように頷いた。

 

「もう一つの研究の被験者として採用したが、公に出来ない研究なので死亡したことにした、というわけですね」

 

「人体実験など、束ですらしてないからな……とにかく、アメリカがそのような実験をしているのは確かのようだから、くれぐれも慎重にな」

 

「分かってますよ。それじゃあ一夏先輩は、私たちの手伝いをしてくださいね」

 

「仕方ないか……手伝いはするが、敵を刺激するような事は避けなければいけないのは分かってるな?」

 

「分かってますよ。だから、信頼を置ける人間に手引きしてもらうんです」

 

「そうしてもらわないと面倒だからな」

 

 

 楯無の言葉に、一夏は先ほどより疲れ切った表情でため息を吐いたのだった。




最初から浸かってるような気もしますがね

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