箒が瞬間加速の訓練をしている横で、千冬は自分の訓練を再開する事にした。といっても、的を出してそれを射抜くだけの簡単な訓練だが。
「シャルロットに教わった通りに訓練してから、だいぶ的中率が上がってきたな」
初めはまともに的を射抜く事すら出来なかったが、シャルロットに教わってからというもの、メキメキと実力を伸ばしていると千冬は自分でもそう思っていた。もちろん、その事に慢心することなく、こうやって基礎練習を積んでいるので、更なる成長が見込まれているのだ。
「箒もそうだが、私もISに関しては素人同然だったからな……前回のテストではギリギリ補習じゃなかったいうだけで、ISの知識はこの学園にいる奴らの中で下から数えた方が早いだろうし……というか、私が最下位で、箒がその一個上だろうし」
入学試験の際の結果を一夏から聞かされた時には、さすがの千冬も落ち込んだ。自分が合格者の中で最下位の成績だという事実は、それだけ彼女に衝撃をもたらしたのだった。
「千冬、動きが止まってるが、どうかしたのか?」
「いや、ISの訓練も重要だが、知識を増やすにはどうすればいいかと思ってな……」
「あぁ、筆記試験の方か……こればっかりは私たちだけじゃどうにもならないだろうからな……前回の試験だって、簪に面倒を見てもらったから何とかなったわけだし……」
「勉強の事に関しては、弾や数馬の事を笑えない成績だからな、私たちも……」
「いや、赤点が無いだけマシじゃないか? 実際弾は赤点を取って夏休みの半分は補習だと言っていたし」
「ドングリの背比べだと思うがな……」
実際千冬たちも、補習でもおかしくない点数だったのだが、実技でトップクラスの成績を収めたので、何とか補習は免れたのだった。
「こういう時だけは、一夏さんや姉さんが羨ましいと思うな……」
「あの人たちは知識も実力も兼ね備えているからな……さらに一夏兄は、家事能力や事務作業能力にも長けているからな」
「その辺りは姉さんには無い能力だからな……」
「というか、さっき束さんは何の用で一夏兄を訪ねたんだ? わざわざ怒られると分かってる事だけで現れるとは思えないんだが」
千冬の疑問に、箒も首を傾げた。確かに束は一夏の邪魔をして怒られることが多々あるが、それだけの為にわざわざIS学園に侵入してくるとは箒にも思えなかったのだ。
「この間の事件、まだ終わってないのかもしれないな」
「事件というと、銀の福音の件か?」
「私たちには入ってきてない情報も、一夏さんなら把握しているだろうし、その事を調べるために姉さんを使っても不思議ではないだろ」
「まぁ、一夏兄は使えるものは何でも使うからな。束さんも一夏兄の頼みなら聞くだろうし」
「そもそも姉さんが言う事を聞く相手は、一夏さんしかいないけどな」
親の頼みですらろくに聞かないのだから、一夏以外に何かを頼まれても聞くはずがないと箒は思っている。実際自分が何かを頼んでも、まともに相手にしてもらった覚えはないので、多分合っているだろうと箒は確信していた。
「とにかく、一夏さんが束さんの侵入に関して何も言っていなかったことを考えれば、恐らく一夏さんも姉さんに用事があったと考えるべきだろう」
「一夏兄に頼られてる束さんが羨ましいが、私では束さんのように一夏兄の役に立てないだろうからな……」
「何でお前はそういう考え方しか出来ないんだ……」
千冬のブラコン発言に辟易しながら、箒はなんとか話を元に戻す。
「アメリカ絡みなのか、それともそれ以外の問題が発生しているのか……」
「そんなこと、私たちが考えたところで知りようがないんだから考えるだけ無駄だと思うぞ」
「それはそうだが、気になるだろうが」
「気になることはなるが、気にした所で一夏兄が教えてくれるわけでもないんだし、今は少しでも成長した方が私たちの為になるし、ひいては一夏兄の役に立てる機会が増えると思うが」
「何時までも一夏さんに甘えるわけにもいかないしな……少なくともこの夏休みの間には、瞬間加速を会得しておこう」
「そうとなれば、こんな考えても意味がない事に時間を割いている余裕は無いぞ」
「そうやって思考を放棄するから勉強面で成長出来ないんだと思うんだが……」
自分たちの成績がイマイチ伸びない原因だと分かってはいるのだが、箒は千冬の言い分に反論するだけの余裕は無かった。実際考えたところで自分たちだけでは答えにたどり着けないと分かっているのもあるが、考える事が苦手だという事が多分に含まれているのだった。
「私たちの力が必要になれば、一夏兄だってちゃんと教えてくれるだろうから、今は頼られるだけの実力をつけた方が良いだろ」
「まぁ、そうだな……」
こうして二人は、考えることを止めて実力を磨くことにしたのだった。
目標が高過ぎると、成長を実感できないんでしょう