外で待っていたセシリアとシャルロット、そしてラウラも控室に入ってきて、箒はとりあえずお茶の用意をすることにした。
「ところで、何で外で待たされてたんだ?」
「中で言い争ってる気配がしたから、誰か来てるのかと思っただけだ。その確認を私がして、問題なければ合図を出す予定だったんだがな」
「細かい事は良いじゃないの。どうせ入っても良かったでしょ?」
「お前は、箒といい勝負が出来るくらいのガサツだな」
「お前にだけは言われたくないな」
鈴と同レベルのガサツだと言われて、箒は少しムッとした表情で各々にお茶を手渡す。
「それで、わざわざ控室に何の用だ? 着替え終われば合流するつもりだったんだが」
「今度じっくりとお前の舞を見てみたいんだと。だからそのお願いに来ただけだ」
「絶対にやらんからな! こればっかりはいくら頼まれても聞くつもりは無い!」
「何で? あんなに綺麗で魅力的だったのに、何でそんなに嫌なの?」
「恥ずかしいだろうが」
「目立つことは良い事ではありませんの?」
「私は目立ちたくないんだ!」
幼少期から天才の妹という事で否が応でも目立ってしまった箒としては、出来る事ならひっそりとしていたいという気持ちが強いのだ。だから目立つような事はしたくないと思っているので、今回の神楽も、出来る事なら断りたかったのである。
「また暫くは見た目につられた不埒物が大勢お前に声をかけてくるんじゃないのか?」
「私が専用機持ちだという事は知られているんだし、そんな輩がいるとは思えないが」
「そもそも今のご時世、殿方が声をかけてくるなんてあるんですの?」
「社会的地位が高い女になら声をかける事もしないだろうが、箒はまだ高校生だからな。命知らずの輩がいても不思議ではないだろ」
「まぁ、見た目だけは良いものね、箒は」
「どういう意味だ?」
顔を引きつらせながら尋ねる箒に対して、鈴は笑みを浮かべながら視線を逸らした。視界の端で捉えた箒の顔には、青筋が浮かんでいたので、さすがの鈴も反省したようだ。
「まったく。あのような軟弱者たちにちやほやされても嬉しくもなんともない」
「そうよね。アンタは一夏さん一筋だもんね」
「ばっ!」
「やはり一夏兄にそんな感情を懐いていたのか!」
「憧れるくらいは良いだろうが! そもそも、異性の基準が一夏さんになってしまってるんだから仕方ないだろうが!」
「後基準になりそうなのは弾か数馬だもんね……あれを基準にしてたら大変な事になってたかもしれないわね」
「そんなに悪い人には見えなかったけど?」
「まぁアイツらはヘタレだから、悪いヤツではないわね。頭が残念なだけだから」
「それ、褒めてませんわよね?」
「あたしがアイツらを褒めるわけ無いじゃないの」
ケタケタと笑いながら言い放つ鈴に、三人はどんな反応をしていいのか分からないと顔を見合わせたが、千冬と箒は力強く頷いていた。
「とにかく、あんまり目立つような事はしたくないだ。学園だって、あの先輩が何処からか狙ってるかもしれないと思うとな……」
「あぁ、新聞部の人……」
「あの方は何処からともなく現れますものね……」
「あっ、新聞部の人って確か、本音のお姉さんが苦手だったよね? だったら本音に頼んで――あれ? 本音と簪は?」
見学の際は一緒にいて、その後も一緒に控室を目指してたはずなのだが、一回目の時も二回目の時も、二人の姿が無かったことに今更気が付いたシャルロットは、慌てて周辺を見回す。
「そういえば、何でも急用が出来たとかで帰っちゃったわよ?」
「急用? いったい何なのだ?」
「まぁアイツらの家も普通じゃないとか言っていたし、忙しくても仕方ないのかもしれないな。さて、とりあえず祭りを楽しむとするか。私の役目は終わったんだし、遊んでも文句は言われないだろうしな」
「自分の家が主催してる祭りで楽しめるものなのか?」
「というか、あたしたちはもうあらかた回ったから、楽しみな物はもう無いんだけど」
「黙って付き合え! 友達甲斐の無い奴らだな」
箒の提案に文句を垂れていた千冬と鈴の頭を抱え込み、そのまま控室から出ていく箒に圧倒されたシャルロットたちは、三人の姿が見えなくなってから漸く自分たちも移動しなければと思い至り部屋を後にした。
「ふーん……いっくんの後輩の小娘の妹の急用か……まだまだ楽しそうな出来事が続きそうだね~」
誰もいなくなった控室にひょっこりと生えたウサ耳がそう呟くと、次の瞬間に誰もいなかった部屋に気配が生まれた。
「ちーちゃんも箒ちゃんも、気配察知はまだまだ未熟って事かな。いっくんだったら一秒も騙せないまま終わってただろうけど」
実は帰ったのではなく隠れていた束がそう呟き、今度は本当にこの神社から姿を消したのだった。
また暗躍しそうなウサギが一羽……人間ですけど