篠ノ之神社で祭りの打ち合わせを終えた二人は、織斑家へ向かう途中で男に声をかけられた。
「悪いが、ナンパなら他所で――って、何だお前らか」
「人を呼びつけておいてナンパと勘違いするとは、友達甲斐が無いやつだな」
「悪いな。お前らの事を友達だと思った事はない」
「更に酷いなっ!?」
普通に遊ぶ場合なら、この二人と待ち合わせなどしないのだが、今の織斑家には弾と数馬の二人と面識がないメンバーが揃っているのだ。勝手に家に来られて、問題でも起こされたら一夏に怒られると考えての行動だった。
「祭りは明日だろ? 何で俺たちを今日呼んだんだ?」
「鈴の予定的に、遊べるのが今日だけだからな。初対面の連中には、お前たちがただのビビりで無害な人間だと教えておかないといけないからだ」
「ひでぇ言い草だが、そこからお近づきになれるなら悪くないな」
「残念だが、殆どが一夏さんに恋してる連中だから、お前や数馬の魅力じゃ効果ないぞ」
「そんなことわかんねぇだろ! ――と言いたいところだが、相手が一夏さんじゃ無理だろうな」
「そもそも、俺は現実に興味なんてないぞ」
「あぁ、お前はそういうやつだったな」
女子と知り合えると聞いて興奮する弾と、興味なさげな数馬を見て、千冬と箒は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。自分たちもれっきとした女子なのだが、二人の中ではその事は忘れ去られている様子だと感じたのだろう。もちろん、女子として見てもらいたいと思っているわけではないので、二人はその事を口にする事はしなかった。
「もう一つ念を押しておくことがあるんだが」
「何だよ?」
「鈴の他にも各国の代表候補生がいるからな。粗相すれば日本という国に迷惑をかける事になりかねないと言っておかないといけないと思っただけだ」
「うへぇ……面倒な事だな、そりゃ」
「少し触れただけでもセクハラで訴えられるかもしれないから気を付けとけ」
「何でそんな連中に俺たちを紹介するんだよ」
「冗談だ。ちょっと触れたくらいで大騒ぎするような連中ではないが、国際問題に発展するかもという事を忘れないでくれ。私たちも、お前たちが裁判抜きで死刑になるのは見たくないからな」
「だから怖ぇよ!」
千冬と箒に散々脅され、弾は先ほどまでの浮かれ気分が何処かに行ってしまったようだ。数馬も興味なさげなのには変わりないが、心なしか顔色が蒼褪めている様子だ。
「普通に遊ぶだけで、何で命の心配をしなければいけないんだ、俺たちは……」
「そりゃ、今から行くのがIS界を背負って立つかもしれない連中が大勢いる場所だからだろ? 下手をすれば蘭の進学にも影響するかもしれないんだから、弾はより一層緊張した方が良いんじゃねぇか? 例え織斑家で助かっても、家に帰ってその事がバレれば、厳さんと蓮さんに殺されるだろ」
「そりゃ普通にありそうで怖いな……」
「何だ? 蘭のやつはIS学園志望なのか? 確かエスカレート式の私立中学に通っているはずだっただろ」
「無料でやってる簡易適性テストで、A判定だったらしくてな。母ちゃんが蘭をIS学園に通わせる気満々になっちまってな」
「A判定なんて、私や千冬でも出した事ないぞ……」
「私たちはあくまで剣術で得た技術を使って動いてるからな。IS素人の私たちが出せる評価じゃないだろうし、そもそも適性が高くても実際に上手く動かせるとは決まってないだろ」
「まぁ、それはそうだが」
自分たちより適性が高いと聞かされ、二人は少なからずショックを受けている様に弾には思えた。だがそれを口にすれば、自分が襤褸雑巾のようにズタボロにされると分かっているので、彼は口を噤んで話題が変わるのを待った。
「そういえばさっき、一夏さんに似た人を見かけたんだが、今家に帰ってきてるのか?」
「一夏兄が? いや、昨日少し寄っただけで、今朝も早くから出かけたらしくて会っていない」
「相変わらず忙しそうだな、一夏さんも。俺たちもきちんと挨拶しておきたかったんだが、いないんじゃ仕方ないか」
「何故お前たちが一夏兄に挨拶をするんだ?」
千冬の目が怪しく光ったような錯覚を感じ、弾と数馬は慌てて両手を振る。
「お前らと遊んでるから、一夏さんに仲良くさせてもらってると挨拶したいだけで、別に深い意味はない」
「そもそも、俺たちだって一夏さんには世話になったんだ。その事も含めれば、挨拶くらいしようとしても不思議じゃないだろうが」
「何処の家も両親の都合がつかない事が多かったからな。というか、鈴と弾の両親は店をやってるし、ウチは道場で数馬の家は放任主義で興味を持ってもらえなかったしな」
「ウチはその親がいなかったからな……一夏兄に保護者代理を頼むしかなかったな、そういえば」
小学生の頃の夏休みに、プールに行ったりするときは大抵一夏に保護者代理を頼んでいたので、その事もあり弾と数馬も一夏と面識がある。昔世話になった相手に挨拶したがるのは当然と考えを改め、千冬は殺気をしまい込んだのだった。
凄い保護者感……