IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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親と姉はしっかりとしているのに


親の思惑

 祭りの準備に駆り出された箒と千冬の代わりに、簪と本音が織斑家へやってきていた。

 

「勝手に上がって良いの? 今織斑先生も千冬もいないんでしょ?」

 

「良いの良いの。千冬たちも昼過ぎには帰ってくるし、一夏さんがいないのはある意味何時通りだから」

 

「織斑家の事は調べてたから知ってたけど、実際に来ると普通だね~」

 

「そりゃそうでしょ。一夏さんと千冬が生活してるってだけで、後は普通の一般家庭と大して変わらない――ことも無いか。両親が蒸発して、長い事空き家だったし」

 

「そういえばさっき、おと~さんからメールが着てたんだけどね~」

 

「小父さんから? 本音にメールしてくるなんて珍しい事もあるんだね」

 

「かんちゃんもそう思う~? 実は私も珍しいな~って思ったんだよね~」

 

「それで、メールの内容は?」

 

「大したこと書いてなかったよ~。ただ、かんちゃんの側を離れるなって念を押されたけど」

 

「何かあったのかな?」

 

 

 簪も本音も、昨夜一夏が上げた可能性の事は聞いていないので、本音の父からのメールがどういう意味を持っているのかが分からない。ただ言われなくても本音は簪の側を離れるつもりは無いので、仕事をろくにしない本音に対する嫌味なのではないかと受け取っていた。

 

「かんちゃんと別行動するのは、授業中とトイレくらいで、後はだいたい一緒にいるのにね~」

 

「少しは働けってことじゃないの? この間だって、本音だけサボってたし」

 

「私はナターシャさんの居場所を教えてもらってないもん」

 

「それは、本音が誰かに話しそうだからじゃないの?」

 

「私だって、話しちゃいけない事とそうじゃない事の区別くらいつくんだけどな~」

 

「でも、本音なら黛先輩にお菓子を貰ったら話しちゃいそうだし」

 

「それは否定出来ないかもしれないな~」

 

 

 簪が盛大にため息を吐くと、その肩に鈴が手を置いて同情的な表情を見せた。

 

「これが従者じゃ、簪も不安になるわね……」

 

「何だよ~! これでもやれば出来るんだからね~」

 

「それって自分で言う事じゃないと思うよ?」

 

「丁度いい機会だから、今から本音を鍛えてやろう」

 

「えー!? ラウラウだってズレてるから駄目だと思うよ~?」

 

「私は一夏教官から直々に鍛えてもらったからな。一日あれば本音をまともな人間に矯正する事が出来ると思うぞ」

 

「それ、別の意味で歪んでない?」

 

 

 ラウラは確かに純粋だが、一夏に陶酔するあまりに歪んでいる箇所があるのではないかと鈴は思っているし、他のメンバーも多かれ少なかれそう思っている節があるので、鈴の言葉に頷いて同意する。

 

「人の家で何をしてるんだ、お前たちは」

 

「お、織斑先生っ!? お、お邪魔してます」

 

「さっきまでは姉コンビで、今度は妹コンビか」

 

「おね~ちゃんたちと一緒にいたんですか~?」

 

「ナターシャの件を正式にお願いしに更識家にな。まぁ、姉二人はもう学園に戻ってるが」

 

「あの場所にいたくないのはお姉ちゃんたちも一緒ですからね」

 

「一夏教官。この後私に稽古をつけてくれませんでしょうか」

 

「生憎荷物を取りに来ただけで、すぐに出なければいけないから、稽古はまた今度な」

 

 

 そう言って部屋に引っ込んだ一夏を見て、ラウラは少し寂しそうな表情を浮かべた。

 

「ラウラ、どうかしたの?」

 

「いや、昔は一夏教官に稽古をつけてもらうのにこんなに苦労はしなかったのだが、今は一夏教官は忙しすぎて稽古どころではないのかと思うと、寂しいような悲しいような……そんな気持ちになる」

 

「織斑先生が忙しいのは、織斑先生がそれだけ優秀で周りから頼られてるからだよ。ラウラだって、織斑先生が優しくて頼りになるから懐いてるんでしょ?」

 

「そうだな! 一夏教官は優しく頼り甲斐があり、厳しくも正しい人だから尊敬しているんだ」

 

 

 あっさりと凹んでいたラウラを復活させたシャルロットの手腕に、セシリアが称賛の声を上げる。

 

「何度見ても、シャルロットさんのラウラさんに対する扱いは見事なものですわね」

 

「ルームメイトという事を差し引いても、これは凄いと言わざるを得ないわね」

 

「あはは……実は部屋で似たようなやり取りをしたことがあるんだよね。その時もこういえば機嫌が直ったからさ」

 

「そういう事でしたの。ですが、シャルロットさんがラウラさんの事をしっかりと理解しているからこそ、あのような言葉をかけてあげる事が出来るのだと思いますわ」

 

「そう言われると恥ずかしいな」

 

 

 手放しに褒められるのに慣れていないのか、シャルロットは本気で恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「凰」

 

「は、はい!」

 

「俺はもう出るが、くれぐれも遊び過ぎないようにな」

 

「分かってます。もう花火なんてしませんから」

 

 

 過去の思い出を叩き起こされ、鈴は顔を蒼ざめながら力強く一夏に応え、その反応を見て一夏は苦笑いを浮かべて出かけていったのだった。




その親たちよりしっかりしてる一夏っていったい……

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