IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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物騒になってきた


敵対派閥

 一夏としてはさっさと茶番を済ませて帰るつもりだったのだが、更識家の人間に引き止められ結局は屋敷で一泊する事になってしまった。

 

「ゴメンなさい、一夏先輩」

 

「お前が悪いわけじゃないだろ」

 

「まさか一夏先輩の料理に睡眠薬が混ぜられていたなんて……」

 

「お陰であいつらは全員寝てしまったがな」

 

 

 一夏が食べるはずだった料理と、反楯無一派の料理をすり替えたお陰で、一夏にすり寄ってきた連中は残らず眠ってしまっている。

 

「ですが、よく気が付きましたね。織斑先生の料理やお酒に睡眠薬が混ぜられてるなんて」

 

「そもそも進め方があからさま過ぎだからな。何か裏があるって言ってるようなもんだぞ、あれじゃあ」

 

「そんなに露骨だったですかね? 私には普通にすり寄ってるようにしか見えませんでしたけど」

 

「私にもそう思えました。何とかして織斑先生からお嬢様の弱点を聞き出そうとしてるとしか思えませんでした」

 

「刀奈の弱点なんて、俺に聞かなくても知ってると思うがな。まぁ、それよりもあいつらはどうするんだ? このままあそこに放っておいて良いのか?」

 

「客人にちょっかいをかけようとしたのは良くないですけど、一夏先輩が返り討ちにしてしまいましたので、あのままでいいんじゃないですかね」

 

「一度家内を検めた方が良いと思うぞ。ここまで反楯無一派が力を伸ばしてるとなると、ここも安全ではないだろうしな」

 

「どうせ明日の朝には出てくので、一晩くらいなら一夏先輩が護ってくれますよね?」

 

「……その甘え癖、直した方が良いぞ」

 

「大丈夫ですよ。一夏先輩にしか甘えませんから」

 

 

 猫撫で声ですり寄ってくる楯無を手で押さえながら、一夏は盛大にため息を吐いて空いている手で頭を押さえる。

 

「この部屋は布仏家が管理を任されているフロアですので、ご安心ください」

 

「名家というのも派閥争いがあるんだな」

 

「現状が特殊なだけだと思いますけどね。お嬢様が成人されていれば、このような事にはならなかったかと思いますし」

 

「そもそも私だって好きでこの名前を継いだわけじゃないのにね~」

 

「不謹慎ですよ」

 

「分かってるわよ。お父さんさえ生きてくれていれば、私も簪ちゃんも家を嫌いになることも、大人を信じられなくなるなんてことも無かったのに」

 

「この現状を考えると、お前の親父さんの死も疑わしくなってきたな」

 

「どういう事ですか?」

 

 

 暗部組織の当主と言えども高校生なので、楯無は一夏が考えたことが理解出来なかった。もちろん虚も同様で、一夏が何を思いついたのか必死になって考えている。

 

「お前と対立している人間が、お前の親父さんを手にかけた、という事だ」

 

「っ!? で、でも、お父さんは病死ですし」

 

「長い間微量の毒を呑まされ続けた結果、病死に装われて殺された可能性がある、というだけの話だ。昔にそんな風に人を殺した人間がいると、何かの文献で見たことがある。古い家であるこの家の人間なら、その文献に目を通したことがあっても不思議ではないし、現に今日、俺の分の酒や料理に薬を混ぜてきているしな」

 

「そういえば、先代の死を見届けた医師は、反お嬢様一派の人間の息のかかった医師でしたね」

 

「……まさか、お父さんは殺されたって言うの?」

 

「亡骸があればすぐ分かる事だが、既に荼毘に付されているからな。調べるのは難しいだろう」

 

「お嬢様、父や母に頼んで、先代の死の真相を調べてみようと思うのですが」

 

「お願い。もしお父さんがあいつらに殺されたというなら、私は容赦しない」

 

 

 決意に燃える目をした楯無に無言で頷いて、虚は両親に今の話をメールで伝えた。

 

「こうなってくると人手が欲しいわね……一夏先輩、手伝ってくれませんか?」

 

「何で俺が」

 

「だって、一夏先輩がこんな推理をした所為で忙しくなるんですから。ね?」

 

「はぁ……片手間で良いなら手伝うが、あんまり頼られても困るんだが」

 

「一夏先輩の片手間は、他の人間の全力と大して変わらないから、それでも構いませんよ」

 

「お嬢様、簪お嬢様と本音にはこの事は伝えない方がよろしいと思います」

 

「そうね。私もその考えに賛成。簪ちゃんにはショックが大きすぎるでしょうし、本音に教えても大して役に立たないでしょうしね」

 

「人手が足りないんじゃないのか」

 

「本音が手伝ってくれても、あまり戦力にはならないという事は、一夏先輩だって分かってますよね?」

 

「まぁ、それは何となく」

 

 

 やる気になれば立派に働けるという事も知っているのだが、この件に関して本音は実働するよりも簪の側に置いておいた方が役に立つと一夏も頭の中で計算して、楯無の言葉に同意した。

 

「とりあえず今は、少しでも休んでおきましょう」

 

「お嬢様、そこは織斑先生の布団です」

 

「あの可能性が事実だとすれば、ここが一番安全な場所って事になるでしょ? だからここで寝る」

 

「見張りは俺がしておくから、虚も休んでおけ」

 

「……織斑先生がそう仰るなら」

 

 

 立場的には自分が見張るべきなのだが、一夏と楯無を同じ布団で休ませるわけにもいかないので、虚は渋々ながらも一夏の申し出を受ける事にしたのだった。




暗部組織なら、毒も入手しやすいでしょうし

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