昼食の後片付けが終わったタイミングでラウラがやってきたので、五人はとりあえず何をして遊ぶかを話し合う事にした。
「というか、何時もは何して遊んでたっけ?」
「弾と数馬がいる時は、大抵ゲームしてたな」
「だが、あれは数馬と弾が持ち寄って出来る遊びだからな。この家にはカセットはおろか、ゲーム本体すらないじゃないか」
「一夏兄があんまりそういう事をしなかったからな……時間が無かったという事もあるが、あんまり好きじゃないんだと思う」
「トランプならあるわよ?」
「トランプならボクたちも問題なく出来ると思うけど、何をするの?」
「トランプか……私はあんまりやったことが無いな」
「そうなのですか?」
「私は軍属だからな。娯楽と言っても、みんなが思い浮かべるような物とは違っていたからな」
「例えば?」
鈴の問いかけに、ラウラは少し考えてから答える。
「かくれんぼとか」
「割と普通じゃない」
「三分以内に見つかったヤツは腕立て二百回、十分以内に全員見つけられなかったら鬼が腕立て五百回の罰ゲーム付きだが」
「全然普通じゃないわね……というか、三分以内って結構無理よね」
「長時間隠れるのが主のゲームじゃないしな……」
「娯楽扱いだったが、気配を殺す練習と気配を探る練習を兼ねた娯楽だったから、一概に娯楽だったと言い切れないのも確かだが、遊びといったらそんな感じの物しかなかったからな」
「ドイツ軍ってそんな感じなのですか?」
「私たちは若干特殊だったが、概ねそんな感じだと思うぞ」
「それじゃあ、今日は目一杯遊ぼうよ」
シャルロットの言葉に、ラウラ以外のメンバーが力強く頷き、ラウラも楽しそうに顔をほころばせた。
「とりあえず最初はババ抜きでいいか?」
「ルールも単純だし、ラウラもこれくらいなら知ってるでしょ?」
「最下位のやつの髪の毛を一本ずつ抜いていく遊びだな!」
「いや、そんなルール存在しないから……」
「てか、どうなってるのよドイツ軍……」
ラウラの発言に全員がどんよりとした空気を纏ったタイミングで、居間と廊下を隔てる扉が開かれた。
「何だ、随分と賑やかだな」
「い、一夏教官っ!」
「お帰りなさい、一夏兄」
「あぁ。といっても、すぐにまた出なければいけないんだがな」
「夏休みでも忙しいんですね、教師って」
「お前らみたいに遊んでられるわけないだろ。特に、今の世界情勢なら尚更だ」
「夜には帰ってくるんですよね?」
「その予定だが、帰ってこれるとしても夜中だろうし、明日も朝早くに出かけるから、顔を合わせる事は無いだろうな」
「じゃあ何でこっちに帰ってきたの?」
「場所がこっちの方が近いからだ。元々お前らがここで生活してなくてもここで寝泊まりする予定だったからな」
そう言って一夏は、自分の部屋に荷物を持っていった。それを見送った六人は、一夏の忙しさを改めて思い知らされたのだった。
「織斑先生っていつも忙しそうにしてると思ってたけど、実際は想像以上に忙しそうだね」
「私たちが夏休みでも、先生方は忙しいんですのね……」
「一夏さんが特殊だと思うけどね。あの人じゃなきゃ出来ない仕事は多そうだし、日本政府の連中からも頼られてるらしいしね」
「頼られてるというか、面倒事を一夏さんに押し付けてるだけだと思うがな。ウチの姉さんの問題も、一夏さんに丸投げしたくらいだから」
「一夏兄が頼られているのは嬉しいが、良いように使われている感が否めないのが複雑なんだよな……一夏兄も少しはゆっくりした方が良いんだろうけど」
「さすがは一夏教官だな! 私もあの人のようになってみたいものだ」
「えっ、それはちょっと嫌だな……確かにあそこまで仕事が出来て頼られてるのには憧れるけど、あんなに忙しい思いはしたくないかも」
ラウラのズレた感想に、シャルロットが思わず本音を零す。だがどちらが同意されたかと言えば、圧倒的にシャルロットだった。
「確かに一夏さんは尊敬されてるし頼られてるけど、シャルロットの感想が正しいとあたしは思うな」
「私もですわ。ある程度の忙しさなら兎も角として、織斑先生並みに忙しいのは勘弁してもらいたいですわね」
「そもそも一夏さんレベルに達せられる人間など殆どいないだろう。それこそ、ウチの姉さんくらいなものだ」
「だが束さんは自分の事しかやらないだろ? つまり、一夏兄が一番優れているという事だな!」
「また始まった……」
千冬の一夏自慢が始まりそうになったので、鈴はぱっぱとトランプを配ってババ抜きを開始するよう促す。
「今日は夜通し遊ぶわよー!」
「そんなに!? ボク、起きてられる自信が無いんだけど」
「鈴のこの発言は割と何時も通りだから気にするな。どうせ一番早くに寝落ちするんだからな」
「あっ、そうなんだ……」
箒の耳打ちに安心したシャルロットは、真剣にトランプを睨みつけるラウラを見て表情を緩めたのだった。
夏休みだし、騒ぐのも仕方ない