IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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織斑家とは違う聖地


聖地

 IS乗りを志す者として、この場所の事は当然昔から知っていた。だが実際に来るのは今日が初めてで、周りには写真を撮ったり感動のあまり泣き出している人も見受けられる。そんな場所にこれから自分は行くのかと、セシリアは少し足が竦む思いをしていた。

 

「別に緊張する必要は無いのですわよね……私はただ、友達の家に遊びに行くだけなのですから」

 

 

 自分にそう言い聞かせて、セシリアは自分の足に前進を命じる。だが思うように足が動かない。

 

「何故私はこんなにも緊張しているのでしょうか……? そういえば私、友達の家に遊びに行くなんて経験、あまりありませんわね……」

 

 

 両親が健在だったころに多少あるくらいで、家を継いでからというもの、そんな時間も無かったとセシリアは改めて思い、自分が緊張している理由にも納得がいった。

 

「慣れていない事をしようとしているから緊張しているのですね……」

 

 

 気合を入れる為に軽く頬を叩き、セシリアは織斑家のインターホンを鳴らす。

 

『誰だ?』

 

「IS学園のセシリア・オルコットと申しますわ。千冬さんはご在宅でしょうか」

 

『私だ。開いてるから入ってきてくれ』

 

「分かりましたわ」

 

 

 緊張していた時間を考えると、拍子抜けするくらいあっさりと織斑家への入室を許可されて、セシリアはため息すら吐きたい気持ちになっていた。

 

「私は何を緊張していたのかしら……千冬さんならこう答えるだろうと分かっていたでしょうに……」

 

 

 自分に呆れながら、セシリアは織斑家へ足を踏み入れる。背後から鋭い視線を感じなくもないが、その事には気づかないふりをして……

 

「お邪魔しますわね」

 

「あぁ、いらっしゃい」

 

「あら、箒さん。宿題は終わったのですか?」

 

「つい今しがたな。まさか私たちが一週間で宿題を終わらせられるとは思って無かった」

 

「それはおめでとうございますわ。ところで、千冬さんはどちらに? ご挨拶しておきたいのですが」

 

「挨拶? そんな事気にしなくていいだろ。居間で待ってればその内来るだろうしな」

 

 

 勝手知ったる他人の家という感じで、箒はセシリアを居間へ案内する。そこには鈴とシャルロットがお茶を啜って談笑している光景があった。

 

「セシリア、いらっしゃい」

 

「鈴さんにシャルロットさんまで……随分と落ち着いていますわね」

 

「ボクも最初は戸惑ったけど、ここではこれが普通みたいだからね」

 

「緊張するような場所じゃないわよ。まぁ、一夏さんがいれば別だけど」

 

「あら? そういえば織斑先生はいらっしゃらないのですわね」

 

「後で帰ってくるって言ってたけど、今はいないわよ」

 

 

 鈴の言葉に、セシリアの背筋がピンと伸びた。元々姿勢が良いセシリアだが、普段以上に背筋が伸びているのだ。

 

「どうした?」

 

「お、織斑先生がいらっしゃると思っただけで、背筋が伸びたのですわよ」

 

「まぁ一夏さんが来るって聞いて緊張する気持ちは分からなくもないが、今からそれだと疲れるだろ」

 

「それもそうですわね……」

 

 

 大きく息を吸って、セシリアは緊張を解した。そしてシャルロットに倣い腰を下ろし、箒が淹れてくれたお茶を一口啜る。

 

「美味しいですわね」

 

「出来たぞ」

 

「あっ、千冬さん。本日はお招きいただき、ありがとうございますわ」

 

「気にするな。友達と遊ぶだけだからな」

 

 

 セシリアの堅苦しい挨拶に、千冬はそう答えただけで終わった。随分と拍子抜けする思いをこの短時間で二回目のセシリアは、少し間の抜けた表情を浮かべる。

 

「そういえば、ラウラは来ないの?」

 

「アイツは軍の仲間と昼食を摂ってから来ると言っていたからな。仲間が日本に来ているとか言っていたし」

 

「軍人が日本に? 何だか物騒じゃない?」

 

「そういうわけで来ているわけではないようだったが……何でも『副長が聖地巡礼の為に日本に来ている』と言っていたが、詳しい事は聞いていない」

 

「ここじゃなくて?」

 

「それだけは違うだろ」

 

「あっ、そういえば……」

 

「シャルロットは何処か分かったのか?」

 

 

 千冬と箒の会話を黙って聞いていたシャルロットだったが、何か思い当たる節があったのか思わず声を上げ、全員に注目された。

 

「前にラウラが話してくれたんだけど、ラウラの隊の副長って、日本の文化が凄く好きらしいんだよね。特に、アニメや漫画といった所謂オタク文化に熱心だって聞いたことがある」

 

「つまり、秋葉原か?」

 

「決めつけは良くないと思うけど、多分そうだと思うよ」

 

「なるほどな……海外から見れば、あそこはそういう場所になるのか」

 

 

 納得がいったのか、千冬も箒も頻りに頷いている。

 

「まぁ、あんまり遅くないなら気にしなくても良いんじゃないかな?」

 

「それもそうだな。とりあえず、飯にするか」

 

「一夏さんがいたら怒られるわね、今の」

 

「いないんだから良いだろ」

 

 

 言葉遣いが若干雑な箒に鈴が茶々を入れたが、二人とも本気で気にしている様子はないんだなと、セシリアとシャルロットはそう思ったのだった。




ラウラが影響されなければ良いけど……

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