ある程度仕事を終えた一夏は、部屋に遊びに来ている束に視線を向けて、これ見よがしにため息を吐いた。
「このクソ忙しい時に、何の用だ」
「約束を果たしてもらおうと思ってね~」
「……せめてこの件が片付くまで我慢出来ないのか、お前は」
「うん無理。いっくんとの時間とどうでも良いアメリカの件なんて、秤に掛けるまでもないよ」
「……お前はそういうやつだったな」
何を言っても無駄だと、長年の付き合いから重々理解している一夏は、作業の手を止めて束の為に料理を作り始める。
「いっくんが作ってくれた美味しい料理を食べて、いっくんと一緒にお風呂に入って、いっくんと一緒の布団で寝るなんて、これ以上の幸せがこの世にあるだろうか? いや、ない!」
「何一人で遊んでるんだ?」
「ちょっと幸せを噛みしめてただけだよ~。ところで、助け出した女を生活させてる空間の調子はどうだい? 束さんもあんなの作ったの初めてだから、データが欲しいんだけど」
「今の所は問題なく稼働しているし、数値も安定している。あの場所に近づける人間もしぼれたので、余計な負荷をかける事無く生活させることが出来ている」
「ほうほう、さすが束さんの発明品だね! いっくんに頼まれた時は何でそんなものを欲しがったのかって思ったけど、いっくんの考える事は時に束さんでも理解が追い付かないからね~」
「お前に追いついてほしいとは思わないがな」
「酷っ!? いっくんを本当の意味で理解出来るのは束さんだけで、束さんの事を本当の意味で理解出来るのはいっくんしかいないのに~」
「気味が悪い表現をするな」
束に文句を言いながらも、テキパキと料理を完成させていく一夏の手際の良さに、束は満面の笑みを浮かべる。
「やっぱり束さんと結婚しようよ! いっくんとなら、素敵な生活が送れると思うんだけど」
「天地がひっくり返ってもあり得ない妄想をするな。時間の無駄だぞ」
「そんなこと無いと思うけどな~。束さんなら、いっくんに快適な生活をプレゼント出来ると思うんだけど。今使ってるアレをもっと改良して、いっくんが認めた人間しか生活できない空間を作り出すとかさ~」
「そうなったらまず、お前は排除対象だな」
「何でさっ!? いっくんの為にこれほど尽力する天才は他にいないよ」
「確かに役に立つかもしれないが、それ以上に迷惑だからな、お前の存在は」
「そんなに迷惑をかけた覚えは無いんだけどな~。あっ、いっくん、お味噌汁おかわり」
「はぁ……」
何を言っても無駄だと理解していても、何かといいたくなってしまう自分の性分にため息を吐きながら、束からお椀を受け取って味噌汁を注ぎ足す。
「いっくんもご飯食べればいいのに」
「そもそも、お前の相手をしてる暇すらないんだが?」
「束さんの相手をする事は、いっくんの人生に置いて最も大切な――って、いっくん? お玉は人を叩く物じゃないよ?」
「今すぐ黙るのと、お玉で顔面をぼこぼこにされてから黙るの、どっちか選ばせてやる」
「はい、今のは失言でした!」
さすがの束も、一夏の怒気には対応出来ないので、素直に頭を下げて一夏の怒気を沈めさせることにしたのだった。
「お前の相手など、俺の人生に置いて最も必要ない事だ」
「それはそれで酷くないかな? いっくんと束さんは、幼馴染なのに」
「ただの腐れ縁だ。出来る事なら断ち切りたい縁だがな」
「またまた~。束さんと幼馴染じゃなかったら、いっくんたちは路頭に迷ってたかもしれないんだよ~?」
「そもそも、お前と関係がなければ、こんな生活になることはなかっただろうがな」
「そんなこと無いよ~。遅かれ早かれ、いっくんはISと関係を持っていただろうし」
「どうでも良い。もしもの話に花を咲かせる趣味はないからな」
束の相手を止め、一夏は再び作業に戻る。束も一夏が忙しいのを理解しているので、今は大人しく食事をすることに専念する事にしたようだ。
「ところでいっくん、ちーちゃんたちの気配が学園に無いけど、何処に行ったの?」
「夏休みだから実家に戻ってる」
「ほー、夏休みなんて懐かしい響きだね~。大人になると、そんなの無いからね~」
「毎日が夏休みのようなお前が言っても説得力がないぞ」
「そんなこと無いって。束さんは毎日忙しい思いをして、様々な研究をしてるのだよ」
「忙しいなら、さっさと研究所に戻って続きでもしたらどうだ?」
「さっきも言ったけど、いっくんと一緒にいられるのと、その他の事じゃ比べるまでもなくいっくんと一緒にいる方が大事なんだよ」
「どうでも良い……」
「さぁいっくん! 一緒にお風呂に入って、全身を洗いあいっこしようか!」
「そんな事は約束に含まれていない!」
束の提案をバッサリ斬り捨て、一夏はため息を吐きながら自動監視機能に切り替えて風呂の準備をすることにしたのだった。
束がセクハラ三昧だな