午後はシャルロットの指導の元、しっかりと宿題を進めた三人は、精根尽き果てたようにその場に倒れ込んでいた。
「これだけやってまだこんなに残っているのか……」
「早めに終わらせないと、後が大変だと分かってはいるのだが……」
「あたしは候補生の合宿があるから、余計に早く終わらせないといけないのよね……」
「これくらいで倒れてたら、明日はもっと大変だよ? 朝からビシビシ行くつもりなんだから」
「鬼だ……鬼がおる……」
「それ、ラウラの真似?」
「似てたか?」
まだ冗談を言う余裕はあるようで、千冬はラウラの声真似をして怯えてみせた。シャルロットも笑顔でそれに乗ってきたが、どことなく怒ってるような雰囲気を感じ取ったので、それ以上ふざけるのは止めたのだった。
「さて、晩御飯は誰が作るんだ?」
「あたしは昼作ったから、千冬か箒のどっちかでしょ」
「なら、ふざける余裕がある千冬に任せる。私はもう、一歩も動けない」
「仕方ないか……それでは、明日の朝食は箒が担当だからな」
「分かった」
「ボクはやらなくていいの?」
「シャルロットはお客様だからな」
「ここ、千冬の家だよね? なら箒や鈴もお客様じゃないの?」
「こいつらは違う」
何が違うのかシャルロットには分からなかったが、箒も鈴も何も言わないのを見て、とりあえず納得する事にした。
「さて、それじゃあ作ってくるから、その間にそこらへんを片付けておけよ」
「はいはい、分かってるわよ」
「それにしても、シャルロットは優秀だな」
「そんな事ないと思うけど」
「いやいや、謙遜はしなくていいぞ。私たちだけじゃ、これほど進まなかっただろうし」
「アンタたちと一緒にされたくないけど、確かにあたしたちだけじゃ進まなかったでしょうね」
「よく入学できたね」
シャルロットとしては当然の疑問だったのだが、箒は特に気にした様子もなく答えた。
「合格者の中で、筆記試験最下位が千冬で、その一つ上が私だったらしいからな。実技試験で教官を倒してなかったら、きっと不合格だっただろう」
「それは……幾らIS学園の入試試験が実技に重きを置いているからと言って、どれだけ凄かったの?」
「私も千冬も、剣気で相手を呑み込んで、そのまま斬り捨てたからな」
「容易に想像出来るんですけど」
「ボクはちょっと分からないけど……とりあえず、二人は勉強が苦手なんだね」
「まぁ、そういう考えで間違えではないな。というか、得意な人間など存在するのか?」
「得意な人はいるんじゃない? 好きな人はあんまりいなさそうだけど……よほどの変態でもない限りね」
「酷い言い草だね」
鈴のセリフに呆れながらも、シャルロットはしっかりとその場の片付けを進めていた。対する二人は、未だに起き上がることすら出来ていない。
「このまま寝れそうだな」
「寝てもいいけど、千冬に蹴り起こされるのがオチだと思うけど」
「そうだな……とりあえず、片付けるか」
「まだ動きたくないけど、片付けないと蹴られそうだもんね」
渋々と言った感じで起き上がり、のそのそと片付け始めた二人を見て、シャルロットは苦笑いを浮かべる。余程勉強が嫌いなのだろうと思ったのか、二人の動きがシンクロしている事に呆れたのかは、二人には分からなかった。
「三人はよくこうやって集まって勉強してたの?」
「中学の頃はそうだな。後二人いたが、五人いても大して意味はなかったがな」
「というか、アイツらの方があたしたちより阿呆だから、いてもいなくても変わらなかったわよ」
「精々買い出しと後片付けに役立ったくらいだもんな」
「あの時はまだ、一夏さんがたまにいてくれたから良かったけど」
「誘拐事件後は、一夏さんも忙しくなってしまったからな」
当時を懐かしむような目をする二人に、シャルロットはどう反応すればいいのかが分からず、とりあえず頷いてみせたのだった。
「そろそろ出来るが、片付けは終わったのか?」
「あとちょっとよ。というか、千冬も手際が良くなってきたわね」
「一夏兄の見様見真似だがな。もちろん、一夏兄レベルには遠く及ばないが」
「あの人はいろいろと普通の人間の範疇にいないからね……」
「そうなのか? 私たちにとって、一夏兄が基準になっている事が多いからよく分からないんだが」
「少なくとも、生身で空を飛んだりは出来ないわよ、普通の人は」
「あれは飛んでるんじゃなく、空気を蹴って空中を駆けているだけだぞ?」
「だから、そんなことが出来る人間が普通であって堪るかって言ってんのよ!」
「私たちも、少しくらいなら出来るんだが」
「そうなんだ……」
答えた千冬と、頷いた箒を見て、シャルロットはそれしか言えなくなってしまった。見てみたいと思う反面、見たくないと思ってしまうのは、きっと非常識な光景なんだろうと本能的に理解していたからだろう。
普通というか、人間じゃないかも……