IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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少しはまともになってほしい


締まらない空気

 自分に宛がわれた部屋で目を覚ました真耶は、自分の仕事を全て終わらせたのかという疑問に苛まれていた。部屋に戻ってきた記憶はあるが、その前の記憶がどうにも曖昧なのだ。

 

「えっと確か、昨日は夜遅くまで緊急対策本部で仕事をしていて、一夏さんにそろそろ部屋に戻れと言われたから戻ってきたんですけど……仕事って終わってたんでしたっけ?」

 

 

 いくら考えても答えにたどり着けない真耶は、まだ少し早いが一夏に尋ねればいいのかという結論に至り、着替えて緊急対策本部へと足を向けた。

 

「あれ? おはようございます、飛縁魔さん」

 

「おはよう。昨日は途中で寝ちゃってたけど、もう眠気は大丈夫なのかしら?」

 

「途中で……? っ! そうでした! 私、途中で寝ちゃったんでした」

 

「覚えてなかったの?」

 

 

 呆れ顔の飛縁魔に愛想笑いを見せてから、真耶は何故飛縁魔が部屋の前に立っているのかが気になり尋ねる事にした。

 

「一夏さんは中にいないんですか?」

 

「いるわよ? でも今は大事な話をしている最中だから、こうしてまた私が立ち番をしているわけ」

 

「また?」

 

 

 真耶が引っ掛かったのはそこだった。一夏以外に誰がいるのかでもなく、大事な話とはいったい何なのか、でもなく、飛縁魔が今よりさらに前に立ち番をしていたという事実に引っ掛かりを覚えたのだ。

 

「あの人は結局四時近くまで仕事をしてて、寝たのも五時ちょっと前だったから、誰も部屋に入ってこないように私が見張ってたのよ。起きたのはついさっき」

 

「えっと……今は七時ちょっと前ですから、一夏さんが寝たのって二時間足らずって事ですか?」

 

「帰りのバスが静かなら、そこで寝るんじゃない?」

 

 

 なんとも他人事な口調で答えた飛縁魔に対して、真耶は申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。自分が寝落ちしなければ、もう少し長く一夏も寝られたのではないかと、今更ながらに寝落ちした自分が恥ずかしく思えてきたのだろう。

 

「貴女が起きていても、大して変わらなかったと思うわよ? 何しろ篠ノ之束がこの部屋を訪ねてきたのが三時過ぎだったからね」

 

「……そんな時間まで何をしていたんですか?」

 

「ナターシャ・ファイルスが目を覚ましたので、軽く会話をしたり、彼女を日本で匿う為に方々に話を持ち掛けたりと、する事はいろいろあったみたいよ」

 

「えっと……それって全て一夏さんがするべき事だったのでしょうか?」

 

「さぁ? 無能な政府の人間はあの人の手土産の処理で大変だからとか言って断ったらしいし、学園の方もあの人に一任するとか言ったらしいし」

 

「どれだけ一夏さんに押し付ければ気が済むんですか……」

 

 

 自分も一夏に頼っている部分があるとは思っているが、それでも政府や学園ほど頼ってはいないと真耶は思っている。頼っている時点で五十歩百歩なのかもしれないが、それでも真耶は政府や学園に怒りを覚えた。

 

「さっきから誰と喋ってるの~? って、まやや、おはよ~」

 

「布仏さん? 大事な話って布仏さんとだったんですか?」

 

「私はただの仲介役ですよ~。楯無様からの返事を、織斑先生に伝えただけです」

 

「私が電話に出なかったから、本音に電話したみたいです」

 

「あっ、更識さんもいたんだ……」

 

 

 この二人の姿を見て、大事な話がどんなものかだいたいの検討が付いた真耶は、やはり優秀なのだろう。

 

「何だ、随分と賑やかになってるな」

 

「一夏さん、昨日は申し訳ございませんでした!」

 

「ん? あぁ。あんな時間まで働いたんだ。寝てしまっても仕方ないだろう」

 

「ですが、一夏さんは夜遅くまで事後処理やナターシャさんをどうするかを考えて働いていたんですよね? そんな中私はあっさりと寝てしまって……」

 

「まややはダメダメだな~」

 

「たぶん山田先生も本音にだけは言われたくないと思ってると思うけど……」

 

「ほえ?」

 

 

 簪の毒吐きに首を傾げた本音だったが、すぐに気にしなくなったようで、一夏の方に振り返って手を振った。

 

「それじゃあ織斑先生、さっきの話、ちゃんと楯無様とおね~ちゃんに伝えておきますね~」

 

「あぁ、頼んだ」

 

「ちょっと本音! 織斑先生、本音が申し訳ありません」

 

「ん? 気にするな。布仏妹はそういうキャラだと知っているから、気にしなくてもいいぞ」

 

「ほら~。かんちゃんは気にし過ぎなんだよ~」

 

「本音が気にしなさすぎだと思うんだけど……というか、よく織斑先生にそんな態度が取れるよね……お姉ちゃんでもそんな事しないと思うけど」

 

「だって、おりむ~のお兄さんでしょ~? 確かに先生ではあるけど、必要以上に怖がることもないんじゃないかな~?」

 

「別に怖がってはないけど……」

 

「じゃあ照れてるの?」

 

「照れてない!」

 

 

 はしゃぎだした簪と本音を、一夏は優しい眼差しで見つめるのだった。




だんだんとみんなのお兄ちゃんになってきたな

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