IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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早起きしちゃうんですよね、自分も


時間の潰し方

 例え遅く寝たからと言って、千冬と箒が寝坊する事などありえなく、何時も通りの時間に眼を覚ました二人は、現状がどうなっているのかを聞くために一夏の部屋を訪ねようとして、部屋の前で飛縁魔に止められた。

 

「何故止める? 私たちはただ、一夏兄に現状を聞きに来ただけだぞ」

 

「それが問題だからよ。あの人はついさっき寝たばかりだから、今起こすのは良くないわよ」

 

「さっき寝たばかりだと? そんなに大変な事になっているのか?」

 

 

 箒の問いかけに、飛縁魔は首を横に振った。

 

「事後処理は昨日の内にある程度終わってるわよ」

 

「なら何故寝たのがついさっきなのだ?」

 

「その後目を覚ましたナターシャ・ファイルスへの聞き取りや、篠ノ之束との情報交換などで、あの人は忙しかったのよ」

 

「そうだったのか……ん? 何故一夏兄がナターシャ・ファイルスへの聞き取りをしたんだ? 山田先生の方が相応しかったんじゃないか?」

 

「あぁ、その人なら事後処理中に寝落ちして、あの人が部屋に帰った方が良いって言ったからいなかったのよ。意識を取り戻したのを確認したのは私だしね」

 

「やっぱりあの人は使い物にならないんだな……」

 

「あら、あの子だって随分と役に立ってるとは思うけど、あの人が基準になってる貴女たちから見れば、使い物にならないって評価なのね」

 

 

 一夏を基準にしているのはおかしいと飛縁魔も分かっているのだが、それでも一夏を基準にしている二人に対して呆れと諦めが混じったような笑みを浮かべてみせた。

 

「とにかく今は寝かせてあげてちょうだい。今日帰るわけだし、さすがに七時には起きるとは思うけどね」

 

「まぁそういう事なら仕方ないか……情報は学園に帰ってからでも十分だしな」

 

「そもそも私たちが知って良い事なのかどうか分からないからな」

 

「そういう事。起きたら貴女たちが来た事は言っておくから、部屋に戻ったらどう?」

 

 

 飛縁魔の提案に少し首を傾げた考え込んだが、とりあえずこの場から移動した方が良いという事で話がまとまり、千冬と箒は飛縁魔に一礼してから自分たちの部屋があるフロアに戻っていった。

 

「まさか一夏兄がそんなに大変な事になっているとは思ってもみなかったな」

 

「あの人ならもっと簡単に片づけられると思っていたのかもしれないな。だが、現状は私たちが思ってた以上に深刻だった、という事だろう」

 

「いやたぶん、束さんが邪魔したりしたからじゃないか? 飛縁魔はあくまでも『情報交換』だと言っていたが、束さんがそれだけで済むはずが無いしな」

 

「否定したいところだが、否定できる材料が見つからないな……我が姉ながら、何時まで一夏さんに迷惑をかければ気が済むのだろうか」

 

「一生じゃないか? 一夏兄に彼女でも出来れば、私と束さんで徹底的に苛め抜いて消すという約束をした覚えがあるからな」

 

「………」

 

 

 その光景を簡単に想像出来てしまった箒は、なんとなく一夏に同情したくなってしまった。一夏なら二人を蹴散らすことくらい簡単に出来るのだろうが、無駄な手間をかけるのには違いないのだ。

 

「なに黙ってるんだ?」

 

「いや、一夏さんも大変だなと思ってな……」

 

「? まぁいい。とりあえず朝食まで座禅でもするか」

 

「ラウラがそろそろ起きるだろうし、三人いればトランプでも出来るだろ」

 

「トランプか……カードゲームはそんなに強くないぞ、私は」

 

「別に何かを賭けるわけじゃないんだし、気にしなくていいだろ」

 

 

 悪友五人で集まった時ならいざ知れず、今はそんなことを気にする必要はないという箒の言葉に、千冬はそれもそうかと頷き納得した様子だった。

 

「あれは……本音か?」

 

「あの寝坊助がこんな時間に起きてるわけないだろ。誰かと見間違えたんだろ」

 

「そう…だな……本音がこんな時間に起きてるわけないか」

 

「そもそも、本音の部屋はこのフロアではないだろうが」

 

「だから見間違えだと思うんだが、あんな服装、本音以外の誰がするんだ?」

 

「服装?」

 

「ダボダボの猫だか熊だか分からない服だ」

 

「何時もの本音みたいな服か……確かに本音以外だと誰が着てるのか気になるな」

 

 

 見間違えだと納得したが、だがそれだとあの服を違う誰かが着ている事になる、という考えに至り、千冬と箒は腕を組み首を傾げた。

 

「なにしてるの?」

 

「簪? いや、さっき本音みたいなやつがあの通路を横切ったんだが……アイツがこんな時間に起きてるわけ無いし見間違えだと思ったんだが、そうなるとあんな服を本音以外のヤツが着ているという事になってしまい、ますます訳が分からなくなってな……」

 

「たぶん本音だと思うよ。さっき家から電話があって、本音にも動いてもらってるから」

 

「家から電話? 確か簪の家って普通の家じゃないんだよな?」

 

「うん。詳しくは言えないけど、今回の件で織斑先生から頼まれたんだってさ」

 

 

 簪はそれだけ言うとすぐに二人の前からいなくなってしまった。残された二人は、とりあえず部屋に戻ることにしたのだった。




本音も御遣いくらい出来る……のか?

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