IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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緊急事態なのに、なんかほのぼのしたな


専用機との会話

 銀の福音が上空を通過するまで、残りニ十分。一夏は一人で精神統一をしていた。

 

「何だかダーリンと一緒に空を飛ぶのは久しぶりね。最近全然使ってくれないから、不貞腐れて勝手に出て来てやろうかと思ったくらいだもの」

 

「俺がお前を動かす事態になど、早々ならないからな。そもそも引退してお前を使う必要もなくなったんだから、空を飛ぶ機会などあるわけないだろうが」

 

「そりゃそうでしょうけども、たまには使ってくれないと、勝手に男の精気を吸い取っちゃうわよ?」

 

「IS学園に男は俺と学園長しかいない。いったい誰の精気を吸い取ると言うんだ」

 

「うーん……よぼよぼの爺さんの精気なんて欲しくないわね。そうなるとやっぱりダーリンのを吸い取るしかないわね」

 

「別に良いんだが、その呼び方はどうにかならないのか?」

 

 

 人の姿で横に立つ飛縁魔に、一夏は苦笑いを浮かべながら問いかける。現役の頃は別の呼び方をしていたのだが、引退してからはすっかり『ダーリン』呼びが定着してしまっているのだ。

 

「だって、ダーリンの事を一番理解しているのは、篠ノ之束でもなければ、織斑千冬でもない。この私なんだから。だから、この呼び方は変えるつもりは無いわよ」

 

「だったらせめて、人の姿をしてる時くらいは前の呼び方にしろ。他のやつにも聞こえるんだから」

 

「うん、無理。だって聞かせてるんだから」

 

 

 今は誰もいないから良いが、もし千冬や他のメンバーに聞かれたら面倒な事になると一夏は危惧しているのだが、飛縁魔はわざと聞かせているのだと言い放つ。

 

「そもそも、付き合いの浅い連中がダーリンに色目を使ってる時点で、精気を吸い取りたい気持ちなんだから」

 

「何だ、嫉妬か?」

 

「そうよ。ダーリンとキス出来るのも、こうやって腕を組めるのも私だけなんだから」

 

「腕組は兎も角、キスなどするつもりは無いぞ」

 

「またまた、照れなくてもいいのよ?」

 

「どうやらスクラップになりたいようだな?」

 

「出来るものならしてみなさいよ? ダーリンは結局は私に手を出す事はしないんだから」

 

「……現役の頃から数えて何回目だ、このやり取りは」

 

「そうね……百回くらいかしら?」

 

 

 既に同じようなやり取りをそれだけ積み重ねてきているので、今更この程度の脅しで飛縁魔が怯む事はないのだ。それは一夏も分かっているのだが、そう言いたくなってしまう程飛縁魔の態度に呆れているのだ。

 

「今回の作戦、私としては気に入らないけどね。私以外の女を助ける為に、ダーリンが私を動かすなんて」

 

「海保や日本政府に土産を持たせて大人しくさせる為には、これが一番確実なんだ」

 

「どうせまた余計な事を言って邪魔してくるだけなんだから、いっそのことまとめてぶっ飛ばしちゃおうかしら」

 

「別に俺個人としては構わないと思うが、海が汚れるから止めておけ。汚染だとか騒がれたら面倒だ」

 

「密猟者には強く出られないくせに、そういう事には強く出てくるから嫌よね、どうせ密漁しているのなんて、あの半島のやつらなんだから」

 

「決めつけは良くないぞ。視野を狭めるからな」

 

「ダーリンだってそう思ってるくせに」

 

 

 飛縁魔の言葉に、一夏は何も答えなかった。分かり切った事を聞くなという意味なのか、他に可能性があると考えているのかは、飛縁魔にも分からなかった。

 

「とにかく第一になす事は、ナターシャの救出だ。銀の福音は多少壊れてもこちらで直せるからな」

 

「いっそのことコアを破壊したら? そうすれば大人しくなるでしょうし」

 

「そんなことしたらアメリカとイスラエルからどれだけの賠償金を請求されるか分かったもんじゃない。向こうが悪かろうが、壊したらこっちの責任だからな」

 

「ダーリンの個人資産でどうとでもなるでしょ?」

 

「さすがにそんなに持ってる訳ないだろ」

 

 

 飛縁魔の冗談に苦笑いで返した一夏は、急に表情を引き締め飛縁魔に向き直った。

 

「そろそろ時間だ」

 

「分かったわ」

 

 

 一度待機状態に戻ってから、飛縁魔はISの状態で展開される。

 

『さぁ、どれだけの時間がかかるのかしらね?』

 

「出来る事なら一撃で終わらせたいが、どうもアメリカの背後で動いてる連中がいるらしいからな。そっちの対処もしなければいけないだろうし、十分くらいはかかるんじゃないか?」

 

『ダーリンにしては謙虚な答えね。どうせ五分くらいで終わるって思ってるのに』

 

「俺は兎も角千冬たちもいるんだ。思い通りに動くかどうかも分からないから、五分じゃ終わらないだろ」

 

『密漁船なってでっちあげちゃえばいいのよ。どうせ遅かれ早かれ密漁はするんだろうし』

 

「それじゃあ納得しないんだろうさ。たぶん、証拠を押さえられても認めないだろうけどな」

 

『面倒ね……国ごと亡ぼせばいいのかしら?』

 

「お前、思考が束と同じだぞ……」

 

『あら、それはそれで嫌ね』

 

 

 生みの親である束と思考が同じだという事を嫌った飛縁魔に、一夏は苦笑いを浮かべたのだった。




一夏なら出来そうだ……

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