緊急対策本部と言われた部屋には、モニターやら様々な情報が集められているパソコンなどが置かれていた。むろん、パソコンの中身は見ることは出来ないが。
「一夏教官があそこまで急かすということは、かなりヤバい状況なんだろうな」
「今回は束さん絡みじゃないのか?」
「私が知るわけないだろうが」
「モニターを見る限り、この辺りの海で何かあるようだが……」
一夏が到着していないのでお喋りに興じていたが、ラウラが一夏の気配を感じ取ったので、とりあえずお喋りは中断して大人しく待つことにした。
「済まない、待たせたな」
「いえ、姉さんの相手をしていて遅れたのでしょうから、気にしないでください」
一夏が頭を下げたが、原因は束だろうと分かっている箒は、むしろ自分が頭を下げたい気持ちに駆られたが、そんな事をして時間を無駄にする余裕がない事が、一夏の態度から分かったので一夏の謝罪を受け入れ、先に進めるよう視線で告げた。
「先ほど日本政府より緊急事態により、我々に対処してもらいたいと命令が下った」
「命令、ですか?」
「我々というのは、IS学園にという意味でしょうか?」
「場所的な状況を鑑み、今回はお前たち専用機持ちに下ったと考えてもらって構わない。日本所属ではない面々には申し訳ないが、手伝ってもらう」
「一夏教官の為なら、私は問題ありません!」
「あたしも、一夏さんがそこまで言うんだったら、国が何か言って来ても突っぱねますから」
「ボクはデュノア社に属してるだけですから、フランスが何かを言ってくる心配は無いと思いますよ」
「緊急事態に国籍なんて気にしてたら、貴族の名が廃りますわ」
「お前の所は没落貴族じゃなかったか?」
「千冬さん! 今そんなことは言う必要ありませんわ」
千冬のツッコミに、セシリアだけではなく一夏からも非難の目で見られたため、千冬は大人しく黙った。
「済まないな。もし何か言ってこられたら俺に言ってくれれば何とかしよう」
「一夏さんが動いてくれるなら、あたしたちは心配なくお手伝い出来ます」
一夏が動けば束も動くだろうし、IS界におけるツートップからの『お願い』を無碍に出来る国家など存在しない。鈴は最初から気にしていなかったような声音で答え、詳細を求めた。
「先ほどアメリカ・イスラエル共同開発の名目で作られたISが暴走したとアメリカから日本政府に報告があり、その対処をお前たちに任せる事になった。開発途中のISの名称は『
「無人機なのに、パイロットがいるんですか?」
「アメリカは、パイロットなど使い捨てだと考えているのだろう。コアさえ回収出来れば人命など気にしない屑国家だという事だろうな」
「一夏兄、怒ってる?」
口調こそ普段通りだが、端々に怒りがにじみ出ているような気がして、千冬は素直に一夏に尋ねた。
「アメリカの言いなりになるのは癪だが、もしかしたら搭乗しているヤツが知り合いかもしれないからな。さすがに知人を見殺しにしろなんて言ってくるヤツらには怒りを覚える」
「そっか……それで、作戦はどんな感じなのですか?」
前半は妹として、後半は生徒として答えたので、千冬の口調がバラバラだったが、一夏や他のメンバーは気にする事はしなかった。
「銀の福音は高速でこの辺りの海域を通過すると思われるので、指揮権はオルコットに委ねる」
「わ、私ですか!?」
「ボーデヴィッヒはオルコットの補佐をしてやれ。命令する事に関していえば、オルコットよりお前の方が慣れているだろうしな」
「はっ! 精一杯セシリアの補佐を務めます」
「更識と凰は、周辺海域の封鎖の手伝いだ。海保も動くだろうが、何分時間が足りないからな。周辺の警戒してくれ」
「分かりました」
「篠ノ之と織斑は、オルコットの指示に従い、臨機応変に動け。デュノアは撃墜したISの回収を任せる」
「分かりました……織斑先生にしては、大雑把な指示ですね」
「それだけ時間が無いんだ。お前たちに高速戦闘の実績があれば、もっと事細かに指示するんだが」
専用機を持って数ヶ月だったり、最近になって公の場に出られるようになったりと、経験がない事は一夏も知っているので、あのような大雑把な指示を出したのだ。
「作戦開始時間は一時間後、各自準備を怠らないように――」
「ちょっと待って~! もっと良い作戦が束さんの頭の中にあるよー!」
「……この馬鹿は放っておいていいから、各自準備を怠らないように」
「無視は酷くないかな~! そもそも、いっくんがIS撃退して、箒ちゃんたちが回収と海域封鎖を担当すればいいんだよ!」
「確かに、一夏教官なら間違いなくISを停止させることが出来るでしょうし……」
束の意見にラウラが頷き、千冬や箒もその通りだと同意し始める。一夏は束を軽く睨みつけ、作戦変更の指示を出すのだった。
やっぱり介入してくる束……