IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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怒ると本当に怖いなぁ


一夏の逆鱗

 真耶から手渡された司令の内容を読み、一夏はため息を吐いて専用機持ちたちに指示を飛ばす。

 

「お前たちは至急旅館の緊急対策本部へ向かえ。真耶は一般生徒の避難誘導だ」

 

「はい!」

 

「あの、織斑先生。緊急対策本部というのは?」

 

 

 鈴の質問に、一夏は端末を取り出し旅館の見取り図を表示した。

 

「何があってもすぐ対応出来るように、旅館の一フロアを貸し切ってあったんだが、まさか本当に使う事になるとはな」

 

「もしかして一夏兄の部屋って……」

 

「そういう事だ。それから、学校行事中は織斑先生だ、馬鹿者が」

 

 

 千冬に軽く鉄拳制裁をして専用機持ちたちを旅館に走らせてから、一夏は突っ伏している束を引っ張り上げ訊問する。

 

「本当にお前は関わっていないんだろうな?」

 

「いっくん、顔が怖いよ?」

 

「元々こういう顔だ」

 

「そんなこと無いって。普段のいっくんはもっとカッコ良くて興奮するはずだもん……って、痛い! 首が締まってるよ、いっくん!」

 

 

 冗談で逃げようとした束だったが、今の一夏には一切の手加減が感じられなかったので、束も真面目に答える事にした。

 

「今回の暴走に関していえば、束さんは何も関わってないよ。ただこの前ちょっとした発明品を落として、それがアメリカの手に渡ってる可能性はある」

 

「ちょっとした発明品だと?」

 

「白檀と八重桜用に開発してたんだけど、一機にしか反応しない屑だったから気にしなかったんだけど、もしかしたら今回暴走してるISに反応しちゃうかもしれない」

 

「……その可能性は?」

 

「まずアメリカが手に入れてる可能性が低いから、気にする程度の事ではないんだけど、いっくんは常に最悪を想定して動くからね。確率としては五パーセントも無いと思うけど」

 

「今から海域封鎖を行っても間に合わないだろうし、穴だらけならいっそのことしない方が良いな」

 

「ちーちゃんたちに任せて、暴走したISはいっくんが担当するのが良いと思うよ。なんて言っても箒ちゃんたちにはまだ実戦経験がないからね~」

 

 

 語尾が伸び始めたのを受けて、一夏は束が楽しんでいる事を感じ取りため息を吐いた。

 

「やはり関与してるだろ、お前」

 

「何で束さんがあんなIS後進国の連中に手を貸さなきゃいけないのさ」

 

「大方、退屈してたから俺を巻き込んで遊ぼう、とか考えてたんだろ」

 

「ぎくっ!? そ、そんなこと無いよ~。というか、いっくんは束さんの事を何だと思ってるのさ」

 

「変態駄ウサギ」

 

「酷っ!?」

 

 

 バッサリと斬り捨てられ、束はウソ泣きをしてみたが、一夏には効果はない。すぐにウソ泣きを止めた束は、真面目な表情で一夏に告げた。

 

「束さんには分からないけど、いっくんの知人が酷い目に遭わされそうだという事は掴んでいたから、その作戦を逆手にとって助け出そうとは考えていたんだよ」

 

「何故あいつがそんな目に遭わされなければならない。あいつは軍人として立派に働いているはずだろうが」

 

「軍人として立派でも、上司にしてみれば邪魔な存在だったんじゃないの? ちょっとした不正を見逃せない性格とか、そんなところじゃない? 束さんには分からないけど、いっくんなら分かるんじゃない?」

 

「確かにアイツは正義感が強いからな……ん? この報告書、無人機だと書かれているが」

 

「コアだけ回収出来れば操縦者なんてどうでも良い、とか思ってるんじゃないの? そもそもいっくんたちに任せてるんだから、本気で操縦者を助けようとはしてないって事だよ」

 

「束」

 

 

 急に真面目な声音になった一夏に、束は腰をくねらせて返事をした。

 

「急に真面目なトーンで名前を呼ばれると、思わず大洪水を起こしそうになるよ~」

 

「真面目に聞け」

 

「分かったよ。それで?」

 

「アメリカの不正の記録を調べだしておいてくれ。報酬は後日、一緒に風呂までならば許してやる」

 

「おぉ! そこまでしてくれるって事は、かなり本気だね~。分かった! 一時間もあればアメリカどころかすべての国の不正を暴き出せるよ~」

 

「アメリカだけで構わない。国ぐるみだろうが大統領個人だろうが関係なく、徹底的に暴き出せ」

 

「任せて! いっくんの為なら、束さんは世界だろうが敵に回してやるさ!」

 

 

 妙な捨て台詞を残して、束は姿を消した。一夏はもう一度指令所に目をやり、そして苛立ちを覚えた。

 

「国の為に働いている軍人を、国の不正の為に斬り捨てるだと? そんな事許されてたまるか」

 

「織斑先生、一般生徒の避難――ヒィッ!?」

 

「あ、あぁ真耶か……どうした?」

 

「い、いえ……避難完了しました」

 

「ご苦労。では我々も緊急対策本部に向かうぞ」

 

「わ、分かりました」

 

 

 一夏が目にもとまらぬスピードで移動した後、真耶は一人その場に座り込んだ。

 

「あの目……千冬ちゃんが誘拐されたって聞いた時の目と同じでしたね……」

 

 

 何がそこまで一夏を怒らせたのか分からない真耶は、とりあえず足に力を入れて立ち上がり、緊急対策本部を目指したのだった。




人の為に怒れるのは良い事なんでしょうけども……

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