IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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平和な臨海学校はここで終わり


一変

 宣言していた通り、箒の斬撃は殆ど空振りに終わったが、実際に斬撃が飛ぶと、千冬以外のメンバーは歓声を上げていた。

 

「あれは私も特訓すれば出来るようになるのか?」

 

「ラウラには間合いを侵食する術があるから必要無いと思うよ」

 

「そもそも私たちには遠距離武器がありますから、わざわざ効率の悪い斬撃など飛ばさなくても宜しいのではありませんか?」

 

「確かに箒が使ってるから効率が悪く見えるが、一夏兄や束さんが使えば、下手な射撃よりも効率は良いぞ。警戒されていない分、奇襲とかに使えるからな」

 

「そもそも織斑先生には、瞬間加速があるから奇襲なんて仕掛けなくても良いんじゃないの?」

 

「一夏兄にだって、遊びたい時があった、という事だろう。一撃で仕留めてたら面白くなかったのかもしれない」

 

「織斑先生にとって、モンド・グロッソですら遊びだったのですね」

 

 

 それだけ実力が違うのだから当然かと、誰一人千冬の言葉に反論する事は無かった。

 

「疲れたぞ……」

 

「お疲れ。本当に斬撃を飛ばす事が出来たなんてね」

 

「半分以上素振りでしかなかったから、余計な体力を消耗したんだろ」

 

「最大限集中力を高めてもあの程度だからな……これは夏休みに稽古するしかなさそうだ」

 

「そもそも普通の人間は斬撃を飛ばすなんて出来ないんだけどね」

 

 

 シャルロットのツッコミに、千冬と箒以外が頷いて同意する。だが二人にとってこれは「出来て当たり前」の事であり、何故そこまで驚かれるのかが分からなかった。

 

「この程度、少し訓練すれば出来るだろ?」

 

「私たちでも出来るんだ。お前たちもやろうと思えば出来ると思うぞ」

 

「二人の基準が一夏さんや篠ノ之博士だから仕方がないのかもしれないけど、普通は出来ないのよ」

 

「そうなのか? だが、父も飛ばす事は出来るし、お前たちも一度やってみれば出来るかもしれないだろ」

 

「まず剣に気を乗せる事が出来ないって……」

 

「これが大和魂というやつなのか。日本人は恐ろしいな」

 

「ラウラ、多分それ違う……」

 

「日本人なら出来るというなら、簪さんが出来ないのはおかしい事になってしまいますわよ」

 

 

 シャルロットとセシリアのツッコミに、ラウラは期待の籠った目を簪に向けるが、彼女は力なく首を左右に振るしか出来なかった。

 

「たぶんお姉ちゃんでも出来ないと思うよ」

 

「そうか……残念だ」

 

「ラウラは日本に期待し過ぎなのよ……確かに一夏さんや篠ノ之博士と言った人外レベルがいるのも日本だけど、全員にそのレベルを求めるのは酷ってもんよ」

 

「というか、ラウラの理論が正しいとすると、山田先生も出来るって事になっちゃうよ?」

 

「うむ……あの人には無理だろうな」

 

「それで納得するのも、山田先生に悪いと思うけど……」

 

 

 一夏の隣にいる真耶に同情の視線を向けた簪。その視線を受けて真耶は首を傾げながらニコニコしているのを見て、鈴が盛大にため息を吐いた。

 

「あの人が一夏さんの後釜って言われてたかと思うと、人は見た目に寄らないのかなって思うわよね……」

 

「でも結局は代表にならずに引退したんだし、そんなこと気にしなくて良いんじゃないか? 今は見た目通り、生徒に遊ばれているんだし」

 

「先生って言うより、優しいお姉さんって感じだし、下手をすればボクたちと同年代だって言われても信じちゃいそうな見た目だしね」

 

「あの人、一夏兄と大して年が変わらないんじゃなかったか?」

 

「一夏さんって確か24歳だよな?」

 

「束さんと同い年なんだから、そうだろうな」

 

「あれで成人してるって言われてもな……」

 

 

 全員で真耶を見詰め、どう頑張っても高校卒業したばかりにしか見えないと、全員が同じ事を思っていた。

 

「次のやつ、まだ準備出来ないのか」

 

「は、はい!」

 

 

 お喋りが過ぎたと自覚していたので、千冬がすぐに開始位置に移動したが、なんとなく背筋が凍る思いをしてその場から退いた。

 

「あれ? 完全に気配を消していたのにバレちゃった」

 

「束さんっ!?」

 

「ハロハロ~ちーちゃん、今朝ぶりだね~」

 

「束……さっきから気配はしていたが何の用だ」

 

「およ? いっくんにはバレてたのか~。それじゃあこのステルス迷彩も大したこと無いね~」

 

「それで、わざわざ演習の邪魔をしに来たわけじゃないだろ?」

 

「さっすがいっくん。束さんの事は何でもお見通しだね~。さっそく子作りを――」

 

「脳みそをぶちまけられたくなければ、さっさと用件を言え、この変態駄ウサギが」

 

「い、いっくん……割れる! 本当に頭が割れちゃうから!」

 

 

 アイアンクローを喰らいながらも笑みを浮かべていた束だったが、一夏が力を籠めると身体が浮き上がり、さすがに身の危険を感じて大人しくなった。

 

「織斑先生! 緊急指令です!」

 

「昨日言った件、やっぱり起きたみたい」

 

「そうか」

 

「へばっ!?」

 

 

 一夏に放り捨てられ、束は潰されたカエルのような悲鳴を上げたのだった。




ここの一夏ならそれくらい出来そうで怖い……

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